おれの失敗
「オレ。ナナオ。お前たちにクエストだ。」
冒険者ギルドのいつものカウンターで、受付のおっさんがおれとナナオに依頼書を渡してそう言った。
「クエスト?」
「ああ。Eランクに上がるためのクエストだ。」
「Eランクに?」
おれはナナオと一緒に依頼書の内容を確認した。
ふむ。レアなアイテムの採取クエストか。イヌワシ岳という山に生息するコカトリスの卵を取ってこいという依頼だ。報酬は卵ひとつで銀貨五枚。
おれはおっさんに聞いた。
「これを達成すればEランクになれるのか?」
「そうだ。この依頼は月に一度、錬金ギルドから回ってくるクエストでな。納品を遅れるわけにはいかないんだが、この間のオーク討伐で担当してたEランク冒険者がいなくなっちまってな。これを達成できたらお前たちをEランクにして、毎月このクエストはお前たちに優先して回してやるって話だ。」
なるほど。これが出来れば毎月銀貨五枚の報酬が約束されるってわけか。
「どうだ、オレ? 受けるか?」
「そうだなぁ……。」
コカトリスって確か、おれのゲーム知識ではニワトリみたいなやつで相手を石に変えるんじゃなかったか? おれは神様でステータスはカンストしているが、石化攻撃に耐性があるかどうかはわからない。そこまで考えて設定を創っていなかった。即死攻撃はリスクがあるな。
「どうする? ナナオ?」
「やるわ。」
まあ、ナナオはそう言うと思ったぜ。
「よし。じゃあ頼んだぜ。オレ、ナナオ。」
そう言っておっさんはおれたちを冒険者ギルドから送り出した。
おれはまだ受けるとは言ってなかったんだが。
「ナナオ。コカトリスは石化を使うんじゃないか? 対策はあるのか?」
まあ、おれならコカトリスくらい石化を食らう前に一撃だけどな。
「オレ。コカトリスの特性をよく知ってたわね。地名は知らないのに、そういう知識はあるのね。」
「ああ?」
今、おれはバカにされたのか?
「コカトリスの石化を防ぐことはできないの。でも、今回のクエストでは問題ないわ。」
「どういうことだ?」
「目的はコカトリスの卵だからよ。コカトリスに会わずに卵だけ取ってくればいいってこと。」
「なるほどな。」
そんな簡単な話だったのか。いや、簡単な話なのか? でもEランク用のクエストだしな。簡単なのか。
「それにコカトリスと戦闘になって倒してしまったら、その後卵が手に入らなくなる。卵は毎月納品しないといけないんだから。」
たしかに。おれならコカトリスでも難なく倒せるはずだが、今回のクエストでは倒してはいけないってことだ。
「……面倒だな。」
おれは眉間に皺を寄せて唸った。
「ふふ。ま、がんばろう、オレ。これができたらEランクにしてくれるって言うんだし。」
「そうだな。」
コカトリスのいるイヌワシ岳は、乗り合いの馬車でふもとまで移動したあと、徒歩で登ることになるらしい。標高はたいしたことないみたいだけどな。
◇
おれとナナオはイヌワシ岳のふもとで馬車を降りた。
おれはいつもの剣と防具にいつもの弁当。ナナオもいつもの荷物と剣を腰にたずさえて鎧を着込んでいる。あとは卵を入れて割らないようにするために用意した布の袋だけだ。
ナナオの鎧はいつもガードが堅くて、首元から腕、足の先までがっちり守られていた。手袋もしているから肌のひとつも見せない。冒険者としては正解なんだろうが、おれとしては少し物足りないと思っていた。
「コカトリスは夜は巣で寝てる。でも日が昇ったら目を覚ましてエサを探して歩き回るの。」
「じゃあ、狙うのは朝がいいってことか?」
「そう。」
おれとナナオは山を登り、依頼書に書いてあるコカトリスの巣の近くまで辿り着いた。
遭遇する魔物を倒しながらだったこともあり、ここまで登るのに時間がかかった。もう夕方になっている。
「今日は野宿ね。巣から離れたところに移動しましょう。」
「ああ。」
おれとナナオはコカトリスの巣の場所より山を少し降りて、野宿できそうな洞窟を見つけた。
ここなら火を焚いても目立たないし魔物に襲われる心配も少ないだろう。案の定、以前に誰かがここで野宿したような跡を見つけることができた。クエストの前任者かもしれないな。
おれたちは枯れ木を拾ってきて、それにナナオが持っていた魔法のマッチで火を点ける。
おれとナナオは静かに弁当を食った。
夜の山の空はものすごい星空で、なんかおれの存在もちっぽけに思える。いや、おれはこの世界の神様でこの世界はおれが創った世界なんだから、おれよりも広大であっていいはずがないのだが、でもおそらくこの世界の宇宙もおれの元いた世界の宇宙くらいには広いんだろう。おれが空ってのはそういうもんだって思って創った世界だからそうなっている。異世界ファンタジーの世界で宇宙っていうのも変な気がするが。
「ちょっと窮屈だから鎧脱ぐね。」
「ん? ああ……?」




