ランクを上げよう④
戦場の空気が変わったのがわかる。
誰かが叫ぶ。
「オークキングをやったぞ! アスラン様がやったらしい! さすがアスラン様だ!」
誰だよ、アスラン様。
「オークの集落まで進むぞ! 腕に覚えのある者はアスラン様についていけ!」
誰かがそう叫んでいるのが聞こえる。
オークたちが武器を捨てて森の奥へと逃げるように引き返していく。
逃げ惑うオークたちを冒険者たちが複数人で追いかけ、囲って討ち取っていく。
そこからは完全に人間が優勢だった。森のあちこちで冒険者たちが勝利を上げている。
だが、おれは立ち尽くしていた。
本当に終わったのか。
「オレ!」
呼ばれた声におれが振り向くと、ナナオが右手で拳を作りおれに向けていた。
「ほら!」
「え……?」
「拳!」
「あ、ああ。」
言われるまま、おれも拳を作ってナナオの拳にゴツンとぶつけた。
「やったね、オレ!」
ナナオが笑顔でそう言った。
ナナオの笑顔は不思議なほどいつものナナオと変わらなかった。いつものクエストの終わりと同じだった。
そうだ。クエストは終わったんだ。おれたちはオークを倒してクエストを達成した。そして、あとはいつもの通りナナオと報酬の確認をすればいい。
ここが森の中であることも、走り回る冒険者たちも、オークの断末魔の悲鳴も、転がってる冒険者の遺体も、おれとナナオにはもう関係がない。どこか遠い別の場所で起こったことで、おれはおれの場所に戻ればいいんだ。
「これで銀貨四枚ね。ほとんどオレが倒しちゃったやつだけど。」
切り取ったオークの右耳を二つ、ナナオがおれに見せて言った。
「オーク十体なんて全然無理だったな。」
「ええ? オレ、そんなこと考えてたの……?」
考えてたんだよ。だが、おれが甘かった。
「おい、オレ! ナナオ! こっちを手伝ってくれ!」
キースがおれとナナオの名前を呼んだ。キースは怪我をして地面に倒れている冒険者の傍らにしゃがみ、おれたちに向けて手を振っていた。
「ああ。」
おれはキースに近寄った。キースの横でローブを着た男が何かを念じている。かと思うと、倒れていた冒険者の怪我をした腕が光った。おれはその冒険者の表情が和らぐのを見た。
「回復魔法か。」
そりゃ、ここは剣と魔法の異世界ファンタジーだもんな。さっきも爆破系の攻撃魔法が使われていた。おれがそう創った世界だ。
おれとナナオは、魔法で回復し立ち上がろうとする冒険者を支え、森の外の討伐隊のテントがあったところに待機している馬車へ連れて行くように指示された。
森の中には無数のオークの死骸と、横たわったまま動かない冒険者の姿があった。それを片付けるのもまた残された冒険者の仕事だった。
死んだ人間は生き返らない。まあ、おれがいた元の世界もそうだった。
「うおっ。これ、誰がやったんだ⁉」
誰かがおれの斬ったオークの死骸を見てそう言っているのを聞いた。誰だっていいだろ、もう。クエストは終わった。
おれとナナオは負傷者を森の外の馬車へと連れていく役目を任され、何人も馬車に運んだ。
やがてキースたちが、布にくるまれた冒険者の遺体をつれて森を出てきた。
負傷者はもういないみたいだな。
ナナオが討伐隊のテントを指差して言った。
「オレ。私、報酬を受け取ってくるね。」
「ああ。頼む。」
結局、倒せたオークは二体か。
少しして、ナナオが報酬の袋を持っておれのところに戻ってきた。
「もらってきたわ。オーク二体で銀貨四枚。」
おれはナナオの手から銀貨二枚を受け取った。
「あ……。本当に、私が半分もらってもいいの? オレ?」
「いいんだ。ナナオには助けられた。」
ナナオがいなかったらおれは、このダークな感じの異世界ファンタジーの世界観に飲み込まれて動けなくなるところだった。
「そ、そう? ありがとう、オレ。」
それにおれはこれからもナナオとパーティを組んでいたいからな。
「また明日も頼む。ナナオ。」
「うん。また冒険者ギルドに集合ね、オレ。」
街に帰り、おれはいつものようにナナオと別れた。
いつもの日常。結局、今回のクエストはいつもより少し報酬が多かっただけだったな。おれはステータスがカンストしてるから、オークの攻撃は受け付けないし、剣を一振りすればオークなんか一撃で倒せる。何の危険もなかった。ただ、他の冒険者が多くて、空気感がいつもと違っただけだ。
「おれはナナオと一緒なら別にランクを上げなくてもいい。」
だが、ナナオはどうだ? 冒険者ランクを上げたいと思っているんじゃないか? ランクが低いと受けられるクエストも割に合わないし、報酬が少なければ冒険者で食っていくことはできない。
「ナナオに聞いてみるか。」
おれは以前、ナナオに冒険者になった理由を聞いたことがある。あの時は教えてもらえなかったが、多少親しくなった今なら教えてくれるんじゃないかと思う。というか、おれが勝手に親しくなったと思ってるだけなら辛いぜ。
次の日、おれがナナオに聞くとナナオはあっさり教えてくれた。
「私の両親は冒険者で、ずっと村を魔物から守ってたの。でも私が小さい頃に死んじゃってね……。だから私も両親みたいに冒険者になって、村を守ろうって思ったの。それが私の目標。」
「そうだったのか。」
「ごめんね、前は言えなくて。」
「いや、いいんだ。」
それから、村の雇われ冒険者になるためには最低限Dランクの実力は欲しいとも教えてくれた。
「ナナオ。一緒にランクアップ目指そうな。」
「うん。これからもよろしくね、オレ。」
ナナオの笑顔が少し寂しげに見えたのはおれの気のせいか。
しかし、ランクアップのためにはクエストを地道にやるしかないよな。
と思ってると、その話は意外なところから舞い込んで来たのだった。




