006
一方的な蹂躙だった。
シュヴァリの鞘に納まったままの剣が侵入者を薙ぐ。
レコルタークの弓が侵入者を地面や樹々に縫い留める。
ポルカの二丁拳銃に侵入者たちが踊る。
矢と弾の補給はレーウェイとメートルドテルが絶え間なく。
ペシュルルの釣り針が大男をカジキのように吊るし上げる。
「敵陣右翼! 逃がしちゃダメですよ!」
ジエスタの未来予知じみた指揮。
「敵陣って」「それほどじゃないよね~」矢と弾からは誰一人逃れられない。
「ピーポーピーポー」
アンフィとルミエルが倒れた侵入者を担架で搬送し、メディが拘束椅子に縛る。覚醒作用と催眠作用のある薬を打ち、その場で尋問する。
「何人集まった?」「誰の差し金?」「アンフィとルミエルも手伝いなさい。検体が多すぎるわ」
「イエース、ドクトリーヌ」「レッツ医学の発展」
次々と捕らわれるチンピラ仲間を目の当たりにし、一人が腰を抜かした。
「あの鎧……ま、まさか、“不抜”のシュヴァリ? 舐めた射撃、“死神舞踏”ポルカ? それにあの腕力と竿捌き、“海竜一本釣り”ペシュルル?」
その目の前に、道化のジエスタが鈴を鳴らし立つ。
「抵抗した場合、私の投げナイフがあなたに命中する。逃げた場合、私の投げナイフはあなたに命中……しない」
冷徹な仮面越しに。
「あなたに指示は……なかった。あなたは自発的に動いた。何故? 例えば、あなたは予知が……できない。提案され……なかった。あなたは噂に従った。おや、なるほど? あなたは誰が噂の出所か知……らない」
「な、なんだお前ら。何なんだ」
「おっとウチとしたことが。道化が名乗りを忘れちゃ世話ないれす」
おどけた口調で、道化は胸に手を当てる。
「【道化師】ジエスタとは仮の姿。牢記なさい。私は【真実の語り部】ジエスタ」
ジエスタ……ジエスタ!? 国中の悪党が震えて口にする。悪だくみはほどほどにすることだ。ジエスタが全てお見通しだから。
「そして――」
我ら、卵卿閣下のしもべ。
我ら、卵卿閣下の退屈を殺戮する者。
我ら、卵卿閣下の安寧の守護者。
閣下が悪路を行かれるならば回廊を築き、火中を行かれるならば火鼠の衣となる者。
快艶道化雑技団。
ロデモの寝室の窓に、花火が上がる。ライブは最高潮を迎え、ニンナとナンナのデュエットが、色とりどりの光を背負っている。
チンピラの絶叫は掻き消され。
たった一人の観客が、拍手喝采を送った。
†
玉座の間にて、ジエスタは王に報告に上がる。
「――我々の素性を知る者については即時釈放し、本当の噂を流すように仕向けております」
「大儀である」王は鷹揚に承知した。「してジエスタ……。あれは、我が手で御せるか」
傅くジエスタが、更に首を垂れる。
やはりこいつは、ロデモを道具としか見ていない。
「どうなのだ。口で答えよ」
ジエスタは俯いたまま、片腕をアヒルに見立てて挙げた。
「グワッグワ。ウチらを通せば必ずや。坊やはかわいこちゃんに良いとこ見せたいものれすぜ。誰がジジイの頼みを好き好んで聞くかってのグワ」
前に出る親衛騎士を、王は制する。
「吉報を待つ」
ジエスタは玉座の間を辞した。
「ご観劇どうもありがとうございました」
誰にも聞こえないように呟き、宮殿への帰途を急いだ。
†
昨夜の騒動は秘密裏に処理された。ロデモは知る由もない。
真夜中の演奏会は大成功に終わり、主役のニンナとナンナを始め、寝室を飾った一同はそれぞれの仕事を称えて撤収。眠気に襲われたロデモを寝室付きの従者たちに任せ、解散となった。
アンコールは夢の中で、いつもの子守唄を。
そして、随分と日の高い朝が来たのだが――
「ううん……いてて……」
添い寝のスーヤ、マクダキラが飛び起き、ニンナとナンナもギョッとした。
「卵卿閣下!?」「ロデモ閣下!?」「いかがなさいました!?」「お加減が!?」
「全身痛い……」
「メディーッ!」
寝室をぶち破って、救急トリオが現場に到着。目覚めの遅いロデモを心配した一同が、寝室前に詰め寄った。
「摘出手術一択です」
「全身だって言っているでしょうこの藪!」怒るニンナ。「できるならやってごらんなさいよ!」同じようにナンナ。
メディが真面目に触診するところによると。
「筋肉痛ですね。切りましょう」
「切りませんが、どうして……」
「あ……」ロデモが思い出す。「そうだ……シュヴァリと騎士団のみんなと、走りこんだから……本気で、追いかけっこして……」
従者全員の視線が、シュヴァリ以下騎士団員たちに向く。
シュヴァリは観念し、己のきらめく剣を抜き、ジエスタに渡した。
「介錯をお願い奉る。我は身を清めてから戻る。誰ぞサラシと短剣――できれば脇差を持ってくれ」
「待って! 待っててば……あいててて……!」
「ああ、可哀そうなロデモちゃん」ポルカが全身を使って労る。
「寝ましょう閣下。ほら、抱っこねんね」マクダキラがベッドに誘う。
「すやすやしよう」スーヤが囁く。
「直ちに回復メニューを厨房へ打診! これは世界を救う試練でございます!」メートルドテルがレーウェイを遣わす。
「筋肉痛でみんな大袈裟なんだよお!」
宮殿の騒がしさは、誰にも変えられない。
「全く、本当に大袈裟れすねえ」ジエスタが肩をすくめた。「ここにおわすは、大いなる普通の少年なのに」
庭で自刃したシュヴァリが「死ねぬう!」と嘆く声がする。脇差は折れていた。
↓こっち↓の息抜きで書いた作品です。
一応残しておきますが、更新はあったとしても超絶不定期だと思います。
面白いと思ったら、お願いだから↓こっち↓をブクマ評価してください。
無原罪御宿の吸血鬼 ヴァンパイア・イン・イマキュレート・コンセプション 悪女と呼ばれた記憶喪失の女は、凶悪吸血鬼の血を宿して新生する
https://ncode.syosetu.com/n3398kl/




