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 幼い頃は家族三人で温かな家庭だった。


 中庭でお母様と花冠を作ったり、不器用ながらも刺繍のハンカチを縫ってお父様へプレゼントしたり。


 喜んでくれるお父様はいつも優しくて私は愛されていたんだと思う。この家には苦しくて辛い思い出もあるけれど、嬉しかった事や楽しかった事、お母様との思い出も沢山ある。


 本当なら、叶うならずっとここに居たいと思う。お母様との思い出が沢山詰まったこの家に。


 私が感傷に浸っているのを邪魔するように声が聞こえてくる。


「お姉様!」


 ノックもなくミリアが部屋に入ってきた。

 やはり最後の最後までゆっくり過ごすのは無理そうね。


「ノア様と一緒にネックレスを買ったんです。って、あれ? お姉様、どこか旅行へ行くのですか?」

「ミリア、これからは私を気にせずノア様とお茶ができるわ。不貞にならずにすんで良かったわね」


「お姉様どういう事ですか?」


 不思議そうな顔をしながらも笑顔でとても嬉しそうなミリアにうんざりするけれど、伝えることは伝えておかないとね。


「ノア様と私の婚約をミリアとノア様とで結び直すかもしれないわ。詳しくはお父様から聞きなさい。それと、私は明後日には邸を出る予定だから 金輪際 お姉様と呼ばないで。約束よ」


「あら、そうなの? お姉様が居なくなるなんて残念だわ」


 ミリアはあっけらかんと返事をした後、何を思ったのか走って部屋を出て行った。




 次の日、ミリアから婚約の話を聞いたのか、ノア様が伯爵家を訪れた。


 従者は私が不在でミリア様を呼んでくると言っていたようだが、ノア様は従者にミリアではなく、私を呼ぶように何度も言ったそうだ。とにかく私に用があるらしい。


 ノア様をサロンへ通し、サラにお茶を入れて貰う。彼はいつもとは違い、どこか落ち着きがない様子だ。


「ノア様、私に用があると聞きましたが、どのようなご用件でしょうか?」

「ソフィア嬢。俺は納得していない。君との婚約を続けたいんだ」 


 焦った表情をしながら話す彼。今更何を言っているのかしら。


 ……私の気持ちなんて何も考えていなかった、の、ね。


 私はいつもよりゆっくりとした口調で彼に話をする。


「仰る意味が分かりません。ミリアと二人で手紙をやり取りし、学院では一緒に過ごしている。私ではなく義妹に贈り物をする。


 反対を押し切ってまで二人で街に出かける。義妹を呼び捨てするほどの仲の良さ。良いではありませんか。


 ミリアはとても喜んでいますよ。昨日もミリアにネックレスをプレゼントしたそうで。ミリアは嬉々として話をしていましたわ。


 ……それと私、明日には邸を出ることになりました。伯爵家の跡取りとしてこれまで養女になることをずっと悩んでいたのですが、今回の事でミリアやノア様には背中を押してもらいました。


 二人にはお礼を言わなければなりません。今までありがとうございました。

 ……丁度良い時にミリアが来ましたね」


「ソフィ「ノア様!!」」


 ノア様が何かを言おうと口を開いた時、ミリア付きの侍女がミリアに教えたのか、駆け寄ってくるミリアがいた。


 淑女としては、ないわね。


「ノア様! いらしていたのですね!」

「では、私はこれで失礼します」

「ち、違うんだっ。ソフィア嬢、待ってくれ!」


 ノア様が私の腕を取ろうとしたが、ミリアは笑顔でその腕を取り、抱きついた。


「お姉様! ごめんなさい。ノア様と愛し合っているんです。私、とーっても嬉しいです! 婚約を譲ってくれてありがとう」

「……そう。良かったわね。では」


 サラと共に自室に戻る。


 彼は何かを言おうとしていたけれど何だったのかしら。

 考えても仕方がないわよね。


 最後にきちんと挨拶ができてよかった。これで思い残す事もない。


 翌日迎えに来た馬車に乗り、私はサラと共に伯爵家を後にする。


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