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 ハネス公爵家に到着すると、祖父母が和かに迎えてくれた。


 お祖父様とお祖母様は家族とは違い、いつも優しく接してくれる。


 ミリアたちが伯爵家に来てからというもの、サラが淹れてくれるお茶の時間とハネス公爵家で過ごすこの時だけが、私の心が安らぐ時間と言っていい。


 サロンでお祖父様たちとお茶をしていると。


「ソフィア、久しぶり。公爵から聞いたよ。養女になるのを決心したのかな?」

「カインおじさま!」


 私はカインおじさまの声を聞き、嬉しくて立ち上がった。


 彼はオリヴェタン侯爵の当主で王宮魔法使いの筆頭をしている人なの。息子が三人いて彼らもみんな王宮魔法使いだ。


 オリヴェタン侯爵夫人は流行り病で早いうちに亡くなり、現在は息子三人と暮らしている。




 お祖父様やお祖母様とカインおじはミリア達が伯爵家に入ってから私の生活を知り、ずっと私を心配してくれていたようだ。


 お祖母様は母が亡くなってすぐに親戚にあたるオリヴェタン侯爵家の養女になるよう様は勧めてくれたのだけれど、父が頑に拒否し、私は伯爵家で跡取りとして今まで過ごしていた。


 母は最後まで私のことを考えてくれていたらしく、父と契約を交わしていた。『ソフィアが望めばオリヴェタン侯爵家、もしくはハネス公爵家の養女になる』と。


 お祖父様の話では父は絶対に譲らなかったけれど、母は頑なで父が折れる形になって契約を結んだと言っていたわ。


 母は何かを察していたのだと今なら思う。


「お祖父様、お祖母様、カインおじさま。今まで伯爵家の跡取りとして育てられていましたが、やはりお祖父様たちが心配している事が現実になりそうなの。


 ミリアが伯爵家を継ぎ、私は義母が見つけてくる人に嫁がせると言われました。売られる前に逃げたいです。お祖父様たちの庇護の下、学院を卒業し、王宮へ就職してみたい。私もカインおじさまのような王宮魔法使いになりたいです」


「ダニエル君は変わってしまったな。ソフィアをあそこへ置いておくのは危険だ。ハネス公爵のところも良いが、君は一族一の魔力を持っている。うちの養女になった方がいいだろう。


 ソフィアが本格的に魔法を覚え、魔法使いになったら筆頭は取って代わられてしまうかもしれないな。ふふっ、それはそれで楽しみだ」


「そうだな。ハネス公爵家の爵位は高いが、王宮魔法使いを目指すならオリヴェタン家の養女になる方がいいだろう」

「ソフィア、本当にいいの? 貴女には仲の良い婚約者がいたでしょう?」


 お祖母様は心配するように聞いてきた。


「お祖母様……。今日、婚約者のノア・シアン侯爵子息はミリアと街へデートに出かけております。父から反対されていたのにも拘らず、です。彼と私は縁が無かったのでしょうね」


「そうなのね。また嫌な思いをしたのね」

「これからはオリヴェタンの養女として思うようにやりなさい。先代にも話をしておく。向こうも大歓迎だろう。それにソフィアの幸せがアルマの希望でもあるからな」


「お祖父様、お祖母様、ありがとうございます」

「早速、契約を実行する手続きに入るから準備が出来次第、ソフィアを迎えにいくので用意しておいてくれ。学院へは我が家から通うといい」


「ありがとうございます。あと、カインおじさま。一つだけわがままを言っても良いですか? お母様が私に付けてくれた侍女のサラなのですが、一緒に邸に連れて来ても良いですか?」

「ああ、それはもちろん大丈夫だよ。連れておいで」


 私の不安は消え、ようやく晴れやかな笑顔になったと思う。サラと一緒が良かったもの。


 カインおじさまは父宛に速達魔法郵便を送っていたようで、帰宅するとすぐに父からの呼び出しがあった。


 父は書類に目を通しながら淡々と話す。


「ソフィア、オリヴェタン侯爵から手紙を貰った。お前はこれから侯爵令嬢となる。お前の婚約者であるノア・シアン侯爵子息との婚約はミリアと結び直す」

「はい、お父様」


「お前は今後どうするつもりなのか?」

「学院を卒業した後、王宮魔法使いとなり、魔法使い筆頭を目指す予定です」

「……そうか」

「お父様、今まで育ててくださってありがとうございました。では、失礼します」


 思っていたより父はあっさりとしていた。


 侯爵家と父の間に何かあったのだろうか。今の私には知ることは出来ないけれど。


 部屋を出るときに一瞬だけ見た父の表情は少し寂しそうに見えた。


 きっと見間違いよね。


 だってここ数年は私を気にかけてすらいなかったもの。


 さて、サラと一緒に荷物を纏めていかないとね。学院も短期休みになるし、ちょうど良かったわ。


「サラ、書類が揃い次第、私はオリヴェタン侯爵家へ引っ越す事になったの。付いてきてくれる?」

「お嬢様にどこまでも付いていきます。本当に良かったです。こうしていられないですね! 急いで荷物を纏めます」


 サラはいそいそと上機嫌で私の荷物を纏めてくれている。

 元々、最低限の物しか持っていないのですぐに荷造りは終わってしまった。


 こうして振り返ってみると私の持ち物って本当に少ないのね。


 荷造りが一段落したのでサラにお茶を入れて貰う。


 結局、荷物をまとめる事は半日と掛からなかった。



 カインおじ様から届いた魔法郵便では、書類が完成したので明後日、侯爵家の馬車が私達を迎えに来てくれる予定みたい。


 あとはゆっくり部屋で過ごすだけね。

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