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「ソフィア嬢。中庭のガゼボでお昼を一緒に摂ろう」

「分かりました」


 モニカ様とリナ様に挨拶をしてからノア様と食堂で昼食を受け取り、ガゼボに向かった。


 学院の中庭はこの時期になると様々な花が咲いていてとても美しい風景だ。ベンチに座って昼食を取ったり、風景画を描いている人がいたりと学生は様々な時間の過ごし方をしている。


 私達は席に着き、食事をはじめた。


「ノア様、お話とはなんでしょうか?」


 ノア様は少し窺うような顔で話をする。


「その事なんだが……。ミリアから話は聞いていると思うが、今度の週末に街へ一緒に行かないか?」


 私は手を止め、ガゼボから見える景色に視線を向け、気持ちを隠すように小さな息を一つ吐く。


 いつも優しく微笑むノア様の口から聞こえてくる“ミリア”という言葉に私の中の僅かに残った柔らかな部分をギュッと締め付ける。


「義妹の名を呼ぶほど、仲が良いのね。ノア様の婚約者は、私、なのに。二人の間に入るように私が行ってどうしろというの? 二人の仲を取り持って欲しいとでも言うつもりですか?」


 僅かな気持ちが言葉に棘を持たせてしまう。


 ノア様はその言葉でようやく気づいたのか焦ったように、取り繕うように話をする。


「あ、いやっ、違うんだ。ミリアから三人で行こうと誘ってきたんだ」

「私を通さずに連絡を取り合うほどの仲なのでしょう? 私は必要ですか?」

「……ソフィア嬢、すまない」


 私は食事を終え、ゆっくりとした口調で話をする。


「何の謝罪かは分かりませんが。でも……言うとすれば、もう、いいのです。ノア様にとっての私はそれだけの存在でしか無いのでしょう」


 再びノア様から視線を外し、そっとガゼボに絡まる花達に視線を送る。


「そんなっ、そんなことはない!」


 慌ててノア様が否定している。

 可笑しな事ね。

 散々私の心を痛め付け、傷付けているのに。


「私という婚約者をさしおいて義妹に贈り物をし、お茶を飲み、語り合っている。今度は私に義妹と仲を取り持つようにいうね。


 ……二人して私を馬鹿にしているのかしら。私が苦言を呈しても貴方はミリアを庇ってばかり。私は、もう、構いません。どうぞ、ミリアと好きなだけ過ごせばいいわ」


 ノア様は青い顔をして何か言いたそうにしていたが、私は自分の思いを彼に伝え席を立った。


 ……何故?

 何故、ミリアなの?


 何度言っても理解してもらえない。

 貴方とミリアの仲睦まじい姿を見る度に心に棘が刺さり、その痛みに悶え苦しんできたわ。


 もう、良いでしょう?

 ずっと辛かった。苦しかった。

 泣いて泣いて、もう疲れたの。


 ミリアが来る前は私とノア様はとても良い関係だったと思う。私はノア様のことをお慕いしていたわ。優しく微笑んでくれるノア様に私の心が躍り、毎日が輝いているように思えた。


 けれど、ミリアが我が家にやってきてからの彼は変わってしまった。


 ミリアは毎回、ノア様との時間を邪魔するようになると、ノア様は仕方がないなと言いながら次第にミリアを優しく見つめるようになっていた。 


 私はノア様が心を移していく様子を見る度に辛くて胸が締め付けられ息をするのも苦しかった。


 最初は嫉妬する自分にも苛立ち、嬉しそうにしているノア様にも腹が立っていたけれど、次第に心が冷めていくのを感じたわ。


 ミリアは何度注意しても聞かない。

 自分さえ良ければいいの。


 平民から貴族になったことで自分は選ぶ側の人間になったのだという選民意識が芽生えたのかもしれないわね。



 学院で一緒に昼食を摂って以降、ノア様は何度か伯爵家へ来ていた様子だが、私に会いに来るという事もなく、ミリアとお茶を楽しんでいたみたい。


 ノア様と会う度にミリアが私の部屋へ突撃し、話をして戻っていくのでノア様が我が家へ来ていた事は十分に伝わってきた。




 週末になり、朝からハネス公爵家へ行く準備をしていると、扉が開かれた。


「お姉様! この服、可愛いでしょう?」


 珍しくミリアは早起きしてオシャレをしている。軽やかに私の前で回り、嬉しさを隠さないようだ。


「ミリアお嬢様。ノックせずに部屋に入るのはマナー違反だと何度も申し上げております」

「サラ、いいじゃない! 少しくらい」

「ミリア。貴方はいつまで平民気分でいるの? 少しは学びなさい」

「お姉様! どうですか? このワンピース!」


 私たちの言葉など気にしない様子でレースがふんだんにあしらわれたワンピースを見せつけるように、もう一度くるりと回って見せる。


 私もサラも冷ややかな目で見ていた。


「ミリア、ノア様と街に行く事にしたのね? お父様は知っているの?」

「お父様は反対していたわ。でも、お母様が許したもの」

「……そう。止めはしないわ。いってらっしゃい」


 ミリアの襲撃に気分を悪くしている場合では無い。

 義妹は父の言う事も無視してしまったのね。


 私はミリアを無視するように準備を終え、馬車へと乗り込み出発する。


 過ぎ去る街の景色を横目に不安が入り交じり、小さなため息を吐いた。

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