2
私の名前はソフィア。ソフィア・グリーン、十七歳で一応伯爵令嬢。ルクール王国のモーラ学院魔法科の二年生。
もうすぐ三年生になる。これでも成績は常に上位にいる。魔力を持っている私は伯爵家を継ぐために魔法科に入っており、もちろん婚約者もいる。
そして、私には一つ下の義妹のミリアがいる。仲は、まあ、良くない。
私が十二歳の時にお母様は病気で亡くなった。父は私の悲しみをよそに愛人を伯爵家に呼び寄せたの。愛人は私の義母となり、私の家族は父と義母ハンナと義妹のミリア。
ミリアはハンナの子で私はもちろん、父とも血の繋がりはない。父はミリアを養女としてこのグリーン伯爵家へ迎え入れた。
父がミリアを養女として迎えたのは愛人への愛の現れか、伯爵家を繁栄させる為の手段なのかは謎だけれど。
彼女の見た目はとても可愛いが、伯爵令嬢になって五年は経つのだが、未だ淑女としての作法を身に付けられていない。
これでは伯爵家の評判を落とす事になり、何とも頭の痛い事だ。
私は幼い頃から厳しい淑女教育を受け、優秀な家庭教師の元で冒頭のような成績を収めている。
ミリアは貴族となり、生活が一変した。父と母が居て、この世に不幸なんて存在しない。まさに花が咲き誇るかのような幸せを振り撒いている。平民から貴族へとなった妹は幸せ一杯なのだろう。
義母となったハンナは、実の娘だけあってミリアに甘い。伯爵家へやってきてすぐに家族三人で舞踏会へ意気揚々と出かけた。
が、意気消沈し早々に帰宅。どうやらハンナは貴族の洗礼に手酷くやられ、貴族社会の厳しさを身をもって知ったようだ。
その日以来、ハンナはお茶会や舞踏会等、必要最低限の顔出ししかしていない。
喪が明けない内に愛人が妻の座に納まった事を自慢したのだから嫌われるのは致し方ない。
私に対してハンナは特に意地悪をする訳ではないし、干渉もしてこない。いつもは無視に近いけれど、将来的に私が伯爵家を継ぐ事になっているため、文句を言えば分が悪いとでも思っているのだろう。
反対にミリアは舞踏会が楽しかったらしく、『姉が病気になってしまって代わりに』と勝手に私宛の招待状に返事をし、舞踏会やお茶会に顔をだすようになった。
父のダニエルは生活魔法をいくつか使える程度の魔力持ちだ。
寡黙で仕事一筋という印象だが、母が亡くなってすぐに愛人を連れてきて正妻にするような人だ。
昔はとても温かくて優しい人だったと思う。
亡くなった母のアルマはというと、ハネス公爵の娘である。
優秀な魔法使いを輩出しているオリヴェタン侯爵の親戚筋にあたり、私は母方の祖先の血が濃く出たようでオリヴェタン一族の中でも最も魔力量が多い。
私が幼い頃、魔力の多さからオリヴェタン侯爵家へ養女に欲しいと打診があったようだが、母が断ったようだ。
ハネス公爵令嬢だった母は婚約者を選べる立場だったのにも拘わらず、何故父を選んだのかは謎なのよね。
母は恋愛結婚だと言っていたけれど、母が亡くなる少し前から父は本当に愛し合っていたのか疑問に思えるほど人が変わってしまった。
家庭に目を向けず、母は父を待ちながら静かに息を引き取った。
そんな父はミリアにとても甘く、なんでも買い与え、ミリアのわがままを許している。
それをいいことにミリア自身も勉強から逃げ回り、『家庭教師達が辛く当たる』と次々に辞めさせていくことが当たり前のようになっていた。淑女教育は五年経った今もまだ終わっていない。
私の代わりにお茶会や舞踏会に毎回参加しているにも拘わらず、ミリアの婚姻は未だに決まっていない所をみると、同じ世代の婚約者を探すのは厳しいのかも知れない。
元平民で魔力無しのミリアに婚約者が見つかるのは時間がかかるのだろう。だが、見た目はとても可愛いので爵位はかなり落ちてしまうが、男爵や平民の富豪へ嫁ぐ可能性はあるだろうと思う。
義妹のミリアは平民から貴族へと籍を移す時に神殿で魔力の有無や親子関係の鑑定をしたのだけれど、やはり、父子関係は否定された上、魔力無しと判定された。
正真正銘ミリアはハンナの子で伯爵家の跡取りにはなれないのだけれど、本人はいつまでも伯爵令嬢のままだと思っているような発言をしているし、気になるところよね。
ミリアは勉強もしてこなかったせいでぎりぎり下位貴族が入る淑女科のDクラスに在籍している。
伯爵家の評価はミリア母娘が来てから下がりっぱなしで頭が痛いわ。