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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
ラスボス義兄に一目惚れしました

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6

 まず父に教えてもらったのは魔力の扱い方だった。


「魔力とは波だ。魔力を使う際に重要なのは流れを意識することだ」

父に手を握って貰い、流れを感じるための補助をしてもらう。ぽかぽかと暖かいものが体の中を流れているのを感じる。


「流れは感じたな?」

頷くと、魔法を使うように促された。何の魔法を使うべきか迷っていると、父が口を開く。


「そうだな……。初級の魔法を教えよう」

父は氷礫(アイスショット)の詠唱を教えてくれた。先ほどとは異なり、全く省略されていない唱えやすいものだ。


 相伝魔法である冷気を操る魔法から始めるのかと思ったけれど、物質がある魔法の方が分かりやすいからだろう。


「流れを意識しろ」

右手を前に出して、そこから魔力を出しつつ詠唱する。すると、手のひらサイズの氷が現れた。形は不格好だが、それが逆に光を不規則に反射させていて綺麗だった。魔法を使ったという実感に心が躍る。


「ここに当ててみろ」

父が魔法で出した的に狙いを定める。


「穿て!」

思った以上に勢いが出てしまい、的は粉々に砕け散り、父の頬に傷をつけてしまった。


「魔力の出しすぎだ」

「はい。そ、その傷は……」

傷は出血量は大したことないものの、氷が鋭かったためざっくり切れてしまっていた。とても痛そうだ。


「これは心配するな。治せる」

父が頬を撫でると傷はきれいに消えた。血を拭えば元通りだ。父は簡単な回復魔法も使えるらしい。


 魔力の制御方法は改善の余地があるけれど、独学で使った時に比べれば断然楽に発動できていた。楽しくなってもう一度使おうとしたら止められた。


「今日はもう終わりだ。次は別の日に教える」

「お父様、本には空になるまで使うと魔力が伸びると書いてありました」

「やめておけ。やりすぎは体を壊す」

意地悪でもなんでもなく、単純に心配して出てきた言葉に見える。……やりすぎは駄目ってことは、適度にやるには問題がないのでは?


「慣れないうちは一人で使うな」

父は私が部屋でこっそり練習しようとしていると思ったのか、別れ際にもう一度釘を刺した。……バレてる。



 その日からは魔法の練習に忙しく、兄に会いに行く時間を捻出できないでいた。夜だけかと思ったら、父は昼間にも練習に付き合ってくれたのだ。ありがたいけれど、それはそれとして兄には会いたい。そう思っていると、珍しく廊下で兄の姿を見た。本を抱えているから図書室に向かう途中だろうか。


「だーれだ!」

後ろからいきなり声をかけて驚かせてみた。兄はとても驚いたようで、本を落としてしまった。


「セーフ!」

魔法で身体能力を強化して落とした本をキャッチする。父は様々な魔法を知っていたため、これも教えてもらったものだ。


「危ないから気をつけて」

兄は少し困ったように笑い、私が拾った本を回収しようとする。これを取られては一緒にいる口実がなくなるため、本を抱きかかえて死守する。


「これは私が持ちます」

「僕の荷物だから。自分で持つよ」

「そんなに多く持っては危険です。手伝わせてください」

兄の隣に陣取り、他愛もない話をしながら図書室へ向かう。会話中、兄はかなり笑顔を見せてくれたから、仲良くなれたような気がしてとても嬉しい。ずっとこの時間が続けば良いと思ったけれど、あっという間に目的地に着いてしまった。


「ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして! いつでも頼ってください!」

久しぶりに兄と話せて良かったと、私はただ純粋に喜んでいた。



 家庭教師が風邪をひいて休みになってしまい、一日暇になってしまった。父が来るかと思って秘密の部屋に行ってみたけれど、来ることもない。忙しいのか、家庭教師が休んだことを知らないのかは分からないけれど……これはチャンスだ。母も社交で屋敷に夕方まで帰ってこないことを知っている。


「お兄様!」

「わっ、エミリア? 久しぶりだね」

久しぶりに会った兄は背が高くなっていて大人びているように見える。この時点の兄は三日前に十四歳となっていて学院入学まで――実質的なタイムリミットまであと一年ほどだ。だが、今日それは関係ない。お誕生日会。知らなかった時はできなかったそれを今、この瞬間やるのだ。


「こっそりここを抜け出しませんか?」

「え、エミリア!? 何を言ってるの!? 危ないから絶対駄目!」

「過保護ですね、お兄様」

拗ねたように言うと、兄は「外は怖い」だとか「可愛いから攫われる」だとか行かないための理由を挙げ始めた。


「確かに私の容姿は整っておりますが!」

兄から可愛いと思われていたことを知って嬉しくなり変なことを口走ってしまった。


「お兄様だって、格好いいですからね! あっ、こんなこと言ったら外に出れない!?」

私は何を言ってるのだろう。自分で不思議に思っていると、兄は何かを呟いた。


「そんなこと言ってくれるのはエミリアだけだよ」

「……なんて?」

「ううん。独り言。それと、抜け出すのは駄目」

「お兄様が意固地になるなら、私にも考えがあります!」

「なってるのはエミリアじゃあ……」

私のとっておきの作戦、それは――。


「お兄様がついてきてくださらずとも、一人で行ってしまいます! 良いんですか? 私が一人で楽しんできても!」

ドヤ顔で言ったけれど、兄の反応はない。まさか、この作戦でもだめ……?


 ちらりと兄の様子をうかがってみると、ゆっくりこちらに向かって歩いてきている。圧を感じてしまい、思わず一歩ずつ後ろに下がってしまう。かかとが壁に当たってしまった時、もう逃げられないと悟った。


「お、お兄様……」

逃げられないようにするためか、扉に近い側を兄の手がふさぐ。


「壁、ドン……?」

「よく分からない単語で誤魔化そうとしても無駄だからね」

兄はいつになく真剣な表情をしていた。


「危ないことは駄目。良い?」

「それは……お兄様もですよ?」

できるだけ嘘を吐きたくないため質問し返すことを返事の代わりにする。もちろん、兄にも危険なこと――例えば国と戦うことをしてほしくはないけれども。


「……そうだね」

「ちょっと! その空白はなんですか!? 約束してください、自分を大事にするって!」

「っふふ」

兄は私の必死な様子が可笑しかったのか笑い始めた。


「エミリアはエミリアだなって思って」

笑ったことを問い詰めると、兄はそんなことを言って誤魔化した。


 先ほどまでとは一変して、楽しそうな様子の兄を見て、やはり敵わないなと思った。惚れた弱みってかな……。



 兄を連れ出すのは諦めることとなり、仕方がなくそのまま部屋でお誕生日会をすることになった。


「どうして外に出たいなんて思ったの? デビュタント前は出ないものだって習っているのに」

アンナにお茶を入れてもらっている時に、兄が聞いてきた。


「お兄様のお誕生日会をするためです」

「……僕の?」

「ええ!」

「そんなことしなくてもいいのに」

照れ隠しなどではなく、本心から要らないと思っているらしい。


「そんなこと、なんて言わないでください!」

多分兄は生まれたことを望まれていないと思っているからこの反応なのだろう。


「私は嬉しいです! お兄様が生まれてくれて! だから祝うんです。生まれてくれてありがとうって。あなたに会えて嬉しいって」

「……! 最高のプレゼントだ」

「まだですって。本心を言っただけです。プレゼントはこれです」

兄と触れ合うまで近づき、相伝魔法で氷の薔薇を作る。


「物的証拠が残らないようにするため、こんなものしか用意できませんが、お許しくださいね?」

実はまだ使うことを禁止されているため、アンナに見られないようにすぐに砕き溶かす。二人の秘密ですよ、なんて冗談めかしつつ。

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