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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
ラスボス義兄に一目惚れしました

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5

「どうしてだ? どうして強くなりたい?」

国の滅亡を止めるためとも、兄を止めるためとも言えず、「冒険小説の主人公に憧れて……」と嘘をついた。


「父としては嘘を吐かれて悲しいが、無理には聞かん。もとより、少しずつ教えるつもりではあった」

年の功というやつか、嘘が見抜かれてしまった。父は娘に近接戦闘を教えるタイプではないから……私の相伝魔法を知っている?


「あの、お父様――」

「失礼します。おや、お邪魔でしたかな?」

執事が入ってきて、強制的に私の言葉が途切れる。


「いや、話は終わった所だ。エミリア、またあとで」

「……ええ。お父様、またあとで」

父も忙しいため終わりと言われてしまえば従うしかない。進展はしたけれど、何とも言えない終わりになってしまった。



 今日の午後は授業がなく、だからといって、自習する気にはなれなかった。ふらふらと屋敷を歩いていると美味しそうな匂いに気がついた。


「こんにちは。何を作っているの?」

厨房に顔を出して聞いてみる。ここには何度か昼食を貰いに行ったこともあったため、顔なじみのシェフもいる。


「こんにちは、エミリア様。今は焼き菓子の試作をしているところです」

「へえ。見ても良いかしら?」

「お見せするような物ではありませんが……」

顔なじみの一人、ガストンが作っていた物を見せてもらう。そこには色とりどりのマドレーヌがあった。どれも美味しそうだ。見た感想を素直に述べると、試食するかと聞かれた。


「是非!」

「お代は感想払いでお願いしますね」

「こらっ、お嬢様を立ち食いをさせる気か!」

私が手を伸ばす前に、ガストンが怒られてしまった。


「すみませんねぇエミリア様。ここには椅子なんてありませんので。さあどうぞお持ち帰りに」

バスケットいっぱいに詰められたマドレーヌを持たされ、厨房から追い出された。こんなに持たせるって……食いしん坊だと思われたのかな。



 多すぎるマドレーヌに驚いたものの、多いには越したことがない。共犯になってくれたアンナを誘って兄の部屋に向かう。拒絶されていた初めの頃とは違い、最近はノックするとすぐに気がついて扉を開けてくれるようになった。


「お兄様!」

「こんにちは、エミリア。えっと……それは?」

兄の目が私が持つバスケットに吸い寄せられる。


「これはマドレーヌですわ! 気分転換にと思って貰ってきたんです!」

兄に見せるように持つ。困惑よりも甘い香りが買ったらしい。


「わあ、カラフル……! 食べても良いの?」

「ええ、一緒に食べましょう! お兄様もどの味が好きか教えてくださいね? 宿題なのです」

「宿題……?」

兄はイチゴ味のマドレーヌを食べて、顔を綻ばせた。甘い物が好きかどうかは不安だったけれど、兄の口に合ったようで良かった。私はチョコレート味のマドレーヌを食べる。美味しいんだけど、個人的には甘すぎるかなあ。


「お兄様、美味しいですか?」

「色と香りだけじゃなくて、中に乾燥イチゴも入っているみたい。とっても美味しい」

「そっちも美味しそうですね!」

幸せそうな兄の姿を見て私も嬉しい。ありがとう、たくさん持たせてくれて。届きはせずとも感謝の念を厨房へ送る。


「エミリア」

「なんですか? お兄さ――」

兄は私の口に何かを入れた。食べてみるとほのかに香るイチゴ味。


「どう? 美味しい?」

彼はにっこりと笑って言った。その手元を見るとマドレーヌが欠けていて――。まさか間接キスってこと!?


 何も考えずに食べかけの部分を食べさせちゃったんだということは理解できる。兄は気がついてないだろうし、多分わざとじゃない。だから、こう考えるのは失礼なのも分かっている。でも、考えてしまうから仕方がない!


「……エミリア?」

「美味しい! めっちゃ美味しいです!」

間接キスでドキドキしていると悟られては嫌がられると思い、食い気味に伝える。


「優しい甘みで私の好みです! 中に入っている乾燥イチゴの酸味が良いアクセントになっていて、これなら飽きずに何個も食べられます!」

アンナは私の気持ちを知ってか知らずか、「良かったですね」と言った。


 楽しさや嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまったため、二個目を食べた後に「勉強があるから」と兄の部屋を出た。



 夕食後、部屋に戻ろうとすると父に呼び止められた。父に連れられて来られた先は父の執務室――の先にある隠し部屋だ。暖炉に向かって詠唱することで道が現れた。


「ここの存在は誰にも言ってはいけないし、誰も連れてきてはいけない。二人の秘密だ。いいね?」

頷く。私に教えてくれたのは「強くなりたい」と言ったことに関係しているのだろう。


「先にここに来る方法を教えておく。エミリアの部屋のクローゼットを開けて『火よ水よ風よ地よ。我が道標となれ』と魔力を込めながら唱えるんだ」

四属性全てを使う魔法はかなり高度であり、現代では消失してしまったと書いてあったがこんな所に残っていたなんて。


「詠唱はずいぶんと短いのですね」

「長いと覚えにくい上に発動しやすい」

「え、発動しないと意味がないのでは……?」

「安心しろ。エミリアなら使える」

よく分からないけれど、私より魔法に詳しいであろう父が言うのであればそうなのだろう。


「二つほど質問があります」

「時間が許す限り答えよう」

「ありがとうございます。では一つ目はどうして相伝魔法を使ったことのない私がラヴィーネの相伝魔法を持っていると知っていたのかということです」

「なんとなく分かる、では駄目か?」

父は何かしらの確信を持って私が魔法を継承していると思ったが、それを言うのは都合が悪いのだろう。


「今は、それで納得しました。二つ目は、兄のことです。どうして、嫌っているのですか?」

回り道したって仕方がない。単刀直入に聞いてみる。「兄もお父様の子供でしょう?」と聞こうとすると止められてしまった。


「理由はいずれ分かるだろう。今、言うことはできない」

「答えてくださらないのですか?」

「聞いた上で態度を変えない自信はあるか?」

その自信はないため首を横に振る。変わってしまうのが父に対するものか兄に対するものかは分からないけれど、私はきっと態度を変えてしまうだろう。


「質問は以上か?」

「えっ、えっと……。待ってください、今考えます」

「いつでも聞く。答えられる範囲でな。だから今に拘る必要はない。今日から魔法の練習を始めるのだから」

慌てて質問を捻り出そうとした私を落ち着かせるように、父は優しい声色で言った。


「練習?」

「ああ、ラヴィーネの相伝魔法――『冷気を操る』魔法の練習だ」

前世にもなかった魔法という言葉にわくわくが隠せなかった。

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