ローゼギフト
生徒会役員になったあとくらいのお話です。
恵まれた容姿、魔力、そして教養の高さ。それらを持つ私は学園の生徒に慕われている――と言いたいけれど、実際のところ、私に近寄る人々はその後ろにあるローゼギフトを見ているだけ。――だから私はそんな物差しで測らない、測る必要のないグレイ様に惹かれたのだろう。
我が国――アースヴェルク王国において最も権力を持つ貴族と言えば誰もが「ローゼギフト公爵家」の名を上げる。その影響力は恐れ多くも王家を凌ぐといっても良いほどで、政略結婚を使って力を蓄えてきた名家であるローゼギフトの血を持たない高位貴族はこの国にはいないと言ってもいい。その幅広い人脈は大きな力となるが――栄えた理由は正確には違う。魔法を利用した他家の乗っ取り。それこそがローゼギフトが栄えた理由だ。勝てないなら味方にしてしまえばいい。それを続けているのがローゼギフトだった。
はじめにそれを知ったのは単なる偶然だった。偶然、私は乗っ取りの計画を知ってしまった。他家の血筋を完全に否定する、正気とは思えない所業に――将来私もそれに関わることになってしまうという未来にぞっとした。
親の代では国内最古の貴族の一つであるラヴィーネ家を筆頭にいくつかにローゼギフトの者を送り込んでいて、残っているのは吹けば飛ぶような貴族といくつかの伯爵クラスの家、そして王家。だから私は分かってしまった。私は王家を乗っ取るための駒として使うために生まれたのだと。
そのまま言いなりになって結婚すれば、グレイ様に裏切りをいつか気づかれてしまうだろう。気づかれたら終わりだ、軽蔑されて嫌われる。それだけは絶対に嫌だった。だから、予め嫌われておくことにした。彼に付き纏い、思慮浅い言動をした。強い言葉で自分を武装して。ただし、良い成績だけは取り続けた。公爵令嬢として完璧であり続けるためだったけれど――もしかしたらグレイ様の他にも私を見てくれる人を探したかったのかもしれない。
エミリア・フォン・ラヴィーネを虐めようと思ったのにも深い理由はない。ただ、ちょうど良かったから彼女を選んだだけ。家柄が良く虐めが広がりすぎることもない上に、殿下に近づいたという理由まであった。これくらいで私がグレイ様の婚約者でなくなることなんてないから、これはほんの少し抗ってみただけだけれど。
エミリアも私をローゼギフト公爵令嬢として見ていたから嫌いだったし――内心を言い当てられたのには驚いた。
「あなたはメリナが嫌いなんですか?」
そう問われた時、強がって否定してみたけれど、やはりバレてしまっていて。いっそのこと話してみた。彼女は思っていた以上に馬鹿で――悩んでいる私が阿呆らしくなった。だから決めた、我が家の悪行は私の代で終わらせると。
令嬢の告発程度で国は動いてくれない。だから、地位のある貴族を味方につけなければならなかった。レオン・フォン・ラヴィーネは適任だった。
「レオン・フォン・ラヴィーネ。私があなたの悪巧みの手助けをしてあげるわ」
ローゼギフトの血が流れている人間は漏れなく嫌いだけれど、彼はある一部分に関しては信用できると思っていた。
「なんのことかな? 悪巧みなんて……」
「ねえ、お兄様?」
誤魔化そうとする彼に、私は知っているのだと伝えるために彼の耳元で囁いた。
「僕の妹は――」
「でも、エミリアとは血は繋がってないのに?」
彼は私を睨みつける。その事実は知られて嬉しいものではないから当然の反応だろう。なんとなく、義妹との繋がりを否定されたから怒っているような気もするけれど。
「あなたには――あなたにも壊したい理由がある、違う? エミリアに家督をあげたいとかそんな理由かしら?」
「……へえ?」
彼は驚きと興味が混じったような顔をした。私が公爵家を嫌っていることが意外だったのかもしれない。
「それは、あなただけではできない。なぜなら証拠が不足しているから。たった一例だけでは国に訴えることなんてできはしないわ」
「それで、何が欲しいのかな?」
「別に? 人から施しを貰うつもりはないわ。あなたはただ私の証拠をもとに働けば良いの。せいぜい、頑張りなさい」
彼は私を怪しみつつも、やめるとは言わなかった。予想通り、ローゼギフト家を潰すことはリスクを負ってでも成し遂げたいことらしい。
なんとなく分かる。彼が自分自身を嫌いであることは。ローゼギフトの悪行を暴いた後は自分もその一味として捕まる予定なのだろう。その功績はエミリアの結婚相手にでも押し付けて。なんて自分勝手で独り善がりな人だろう。なるほど、私は同族嫌悪をしているのね。
兄が兄なら妹も妹だ。そういうタイプではないエミリアが生徒会をやると言ったのも、どうせレオン絡みだろう。私としてはあの男はやめておいた方が良いと思うけれど。
生徒会活動を隠れ蓑に、一年で証拠を集めきる。仕事はオリバーやエミリアにも手伝ってもらえば終わるだろう。一年と期間を決めたのは学年が変わる頃に居なくなるのがちょうど良いから。暴いた後はきっと、告発する私は修道院に行くくらいで済むだろう。もし、居なくなったら悲しんでくれる人はいるのだろうか――。
ちょっと失踪してました。全部ス〇スパ2ってやつが悪いんだ……。
4章は1ヶ月後を予定しています。書ければ幕間を更新するかもしれません。




