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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
幕間②

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31/32

卒業前に

 会場に近づくにつれ賑やかな声が聞こえてくる。今日は先輩たちが本格的に社交界へ行く前に設けられた最後の機会だ。これ以降はこうやって大勢で集まって騒ぐことなんてできないから、とても貴重なのだろう。


「先生、頼まれていた荷物です」

「ありがとう、重くはありませんでしたか? もう行っていいですよ」

「いえ。もう少しここにいます。兄を見てみたいので」

ルーネイト先生に運んでいた荷物を渡して、会場を見回してみる。芝生の上に簡易的な机が置かれていて、その上には軽食や飲み物が置かれている。とはいっても、先輩たちはそれらにはほとんど手を付けず、同級生たちとの会話を楽しんでいるようだ。


 兄は生徒会長だから人気者なのかと思ったが、人混みを避けるようにして、会場で飲み物片手に立っていた。兄に友達はいなかったのか、それとも騒がしいのが苦手なだけか……. 。


 兄は私の目線に気が付くとにっこりと笑った。なんとなく気まずくなって先生にパーティーの手伝いを申し出た。


「よっしゃ、では飲み物の補充を手伝っていただいても?」

「お任せください。それと、私が手伝っても先生はこの場から離れることはできませんからね?」

攻略対象の一人であるルーネイト先生は若手であり、こういった雑用を任されるらしい。彼自身は授業もせず研究をしていたいようだから、かなり迷惑に思っているらしい。


「そういえば、先生はどういった研究をしているんですか?」

「簡単に言えば長距離移動に関するものです。早く、正確に、それでいて誰でも使えるものをめざしています。相伝魔法では恩恵を受けられる人は少ないでしょう? 将来的には一般的な魔法を蘇らせたいんです」

研究内容もゲーム通りらしい。進捗について聞くと苦笑いされた。やはりヒロインの手助けが必要だったか。ゲームでやったとはいえ、どうやって解決したのかは知らないから、先生の元へヒロインを押しかけさせるくらいしかできないか……。



「エミリア」

手伝いを終えて先生の元へ戻ろうとしたら兄が声をかけてきた。


「どうなさいましたか?」

「……一緒に抜け出さない?」

「私はお兄様と違って、このパーティーの参加者ではないのですが……」

断ろうとしていると分かったのか、兄は私の手を引いて歩きだした。有無を言わせず連れていくつもりらしい。


「お兄様、どちらに行くんですか……?」

校内に入ったところで兄は足をとめた。景色が良い場所という訳ではないから、単純に会場から出たかったのだろうか。


「……エミリア」

「ひゃっ」

兄の顔が近づく。視界の左端には兄の腕が映っていて――いわゆる壁ドンという状況にあった。私を見下ろすような姿勢だからか、兄の目に光はない。


「婚約者、なんだよね。なら、他の男と親しげに会話するのは違うんじゃないかな」

「そ、そうですね……?」

「……なんて、ね。冗談だよ」

兄は腕を下し、二歩後ろに下がる。その距離がもどかしかった。嫉妬してくれれば良いのに。


「ルーネイト先生は研究第一で魔法オタクなところは欠点だけど、エミリアも魔法が好きだし悪くないんじゃない。爵位は……研究が成功すれば貰えそうだし、家同士の繋がりなんて重視しなくても良いと僕は思うよ」

「お兄様……?」

「アレル君だって――」

「お兄様!」

どうして私は好きな人から他の男性を紹介されなければならないのだろうか。家同士のつながりを重視しなくても良いなら、それこそ相手が兄でも良いよね? 義兄妹は外聞的な問題があるっちゃあるけど……。


「今日のお兄様は少し変です。休んでください。パーティーは既にサボっている訳ですし、問題ありません」

「そう、か。うん、確かに疲れているのかもしれない。でもね、エミリア。やらなきゃいけないから」

「ですが、今日くらいは休めるんじゃないですか?」

私は近くにあったソファーに腰掛け、膝をぽんぽんと叩いた。小さい頃、こうやって貰っていたような気がして、元気づけるためにしようと思ったのだが、冷静になってみるとかなり恥ずかしいことをしている。


「って、何やってるの、私!? 変なことをしてごめんなさ――」

「じゃあ、少しだけ」

兄は私の膝に頭を乗せてきた。迷いなくやってしまう辺り、本当に疲れていたのだろう。


 兄は目を瞑っている。寝ている兄の姿なんて貴重だからついじっくりと見てしまった。見れば見るほど顔が良い。思っていたよりも睫毛って長いんだ。……今のうちにしっかり目に焼き付けておこう。


「少しだけ、少しだけだから……」

眺めているだけに留めておけばよいものの、私の目は兄の髪に釘付けになっていた。一度、撫でてみたいと思っていた。今は、寝ているからきっとバレないはずだ。おそるおそる撫でてみる。兄はちょっぴり癖毛だけれど、思っていたよりはふわふわしていなかった。意外としっかりしている。


「もう少し、このままで――」

兄の頭の重みを感じながら、黒幕なんていない平和な――兄と暮らす未来を想像した。



 黒幕による兄の懐柔が失敗したとしても、黒幕の目的が邪神復活ならばまだ仕掛けてくる可能性はある。兄による国家転覆未遂は混乱を起こさせるためのものではないかと私は考えている。混乱のうちに王家が所有する何かを探していたのではないか、と。邪神に関する伝説には王家も関わっているようだし。


 だから、ゲームで事件が起きる一年後までに攻略対象たちと交流して助けてもらえる信頼関係を作っておかなければ。兄が何をしようとしているかは分からないけれど、私は私のハッピーエンドを目指すだけだ。

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