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連日更新が遅れています……。すみません。
久しぶりにやってきたラヴィーネ領は以前と変わらない様子だった。王都と比べて涼しいここは、七分丈のドレスでもちょうど良い気温だ。見慣れた屋敷が見えてきて、馬車がゆっくりと止まる。出迎えてくれたのは兄だった。兄の手を取り、馬車から降りる。
「お帰り、エミリア」
「お久しぶりです、お兄様」
兄と離れて暮らしていたのはせいぜい半年で、兄が学園に行ってしまった二年と比べれば短いけれど、早く会いたい気持ちは変わらず――むしろ強くなっていた。
「お忙しい中の出迎え、ありがとうございます」
「エミリアのためなら仕事なんて大したことないよ」
「えへへ……。ありがとうございます」
まるで本心のように言うから照れてしまう。私は兄にエスコートをしてもらい、一年半ぶりの屋敷に戻ったのだった。
帰って二日三日は旅の疲れを癒すためにゆっくりしつつ、父と魔法の練習をしていた空間から兄を観察していた。あの空間は執務室や私の部屋だけでなく、厨房を始めとした各部屋に繋がっていて、盗み聞きにはちょうど良かったのだ。盗み聞きをしているという罪悪感からか、この空間を使っていると時々視線を感じるような気はするけど……。
その調査によって、兄と話す黒幕について多少は知ることができた。彼らはゲーム通り国を狙っているらしい。でも、正確には国が欲しいというよりは城にある何かを欲している……ような気がする。国そのものは割とどうでもよいと思っているんだと思う。そうなると、兄を止められても王城に黒幕が現れるのは変わらなさそうだ。
「おはようございます、お兄様!」
ある程度情報は集めた私は休暇を楽しむことにした。食堂で兄を待ち構えて、元気よく挨拶をした。
「元気そうだね。おはよう、エミリア」
「ええ。旅の疲れはすっかり癒えました。よろしければ、お兄様の仕事を私にも手伝わせてください」
仕事が忙しいのなら、一緒に仕事をすれば良い。黒幕が先導する怪しい計画も知れるだろうから一石二鳥だ。
「良いの? せっかくの休暇なのに」
「お兄様と過ごすことができるのなら十分です」
なんて話をしつつ席に着く。食事を摂り終わると、兄に引っ付いて執務室に向かう。いくつかお使いを任されて申し訳程度の手伝いをしつつ、私の夏休みが過ぎていった。
「エミリア、明日は時間ある?」
王都に戻る日が近づいてきた日の夕食後、兄に話しかけられた。
「あります。どうかされましたか」
仕事かと思いつつ、食い気味に返事をすると、返ってきたのは嬉しい提案だった。
「時間の余裕ができたから、エミリアと町に行こうと思ったんだけど、どうかな?」
「行きたいです!」
「良かった。じゃあ、明日はエスコートさせてもらうね」
兄は私の手を持ち上げて、キスを落とした。その行為にドキドキしている間に兄は戻ってしまった。今日の手伝いは終わったことだし、私は明日の準備をしよう。
「アンナ」
「子爵婦人に頂いたドレスはいかがでしょう」
「デザインは可愛かったし、動きやすそうね。そうしましょう!」
アンナは長年仕えてくれただけあって名前を読んだだけで言いたいことを察してくれた。アンナには私の恋心がバレている節が――というより私の態度が割とバレバレだという説はあるけれど。
「おはよう、エミリア。その服、とても似合っているよ」
「ありがとうございます、お兄様。今日はお誘いありがとうございます」
兄はシンプルなシャツとズボンというカジュアルな服装だ。そのシンプルさが兄の格好良さを引き立てていると思う。ちなみに私は白を基調としたワンピースに夏らしい爽やかな青のケープを着ている。
「まずはこの劇場に――」
「お兄様……も、似合ってます……」
なんだか恥ずかしくなってしまって、言葉が尻すぼみになってしまった。兄は少し驚いたようにした後、照れたように顔を逸らした。そんな兄に可愛いなんて感情を抱いてしまうのだった。
昼ご飯を食べにカフェに立ち寄る。いつもは私が迷って待たせているのに、今日は珍しく兄が迷っていた。
「珍しいですね、お兄様」
「そうだね、これが最後なのかと思うと……」
「……最後?」
「えっと、エミリアは学園が忙しいだろうし、嫁いだらこうして一緒に出掛けることもなくなるんだと思うとさ」
兄は誤魔化すようにそう言った。間違いない、何かを隠している。これを最後だと思っている理由は間違いなくそれではない。
「お兄様。私は来年も、ちゃんと帰ってきます。何度でも一緒にデートしたいです」
兄の顔を掴んで、言い聞かせるように言った。
「それに、結婚のつもりがなくとも、私たちは……婚約をしているんですよね? なら、私が浮気……不貞? をする未来を考えないでください。怒りますよ」
「もう怒っているじゃないか」
「もっともっと怒っちゃいますからね!」
身を乗り出して言うと、兄の顔に笑顔が戻った。やっぱり、兄はゲームでラスボスをしている時より楽しそうにしている時の方が良い。
「では、鬱々とした気持ちを治めるために美味しい物でも食べましょう?」
「食後にデザートでもつけておこうか」
「お兄様、私が食いしん坊だって言いたいんですか!?」
私が聞いても兄は笑ってはぐらかすだけだった。
久しぶりにエミリアと外出をした。うすうす察してはいたが、メリナ嬢からエミリアと全く血が繋がっていない事実を突きつけられた後だと、どうしても異性として意識してしまって挙動不審になってしまった。挙動不審の理由はそれだけではないけれど。
次の春、黒たちは王城を占拠する。それに僕も少なからず加担する羽目になるだろうし、それ以前に僕はエミリアの隣に立てるような人物ではなくなる予定だ。けれど、「何度でも」と言われると少しだけ期待してしまう、そんな自分に嫌気がさす。
エミリアを見送った後、準備していた部屋の鍵を眺める。窓はなく、外からしか開けることができない部屋。いくら王都で起こるいざこざから守るためとはいえ、監禁しようとしているなんて知られたら軽蔑されるのだろう。それでも、彼女は僕に笑ってくれるのだろうか。
「守りたいだなんて言いながら、結局は自分のためじゃないか」
エミリアは多分、黒たちが求める魔法を持っている。ラヴィーネ家に伝わる魔法を。そんなエミリアなら何か解決してくれるのではないかと縋ってしまった。
「レオン様」
「……疲れた。僕は休む」
部屋で丸まって自己嫌悪していると黒が現れて声をかけてきた。彼を追い返し、僕はまた部屋の中で春に起こる災いについて考えを巡らせた。
短いですが3章完。次回は幕間です。
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