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投稿遅れてすみません。
「い、嫌がらせ? 何のことかしら?」
「そうよ、言いがかりはやめてくださる?」
「あなたたちも察しているのでしょう? 私が盗み聞きをしていた、と」
指摘すると彼女たちは言葉を詰まらせる。すると、フィッタさんは開き直ったように言った。
「仲が良いからあの子の肩を持っているのかしら? あの子はメリナ様の殿下を盗ろうとしているのよ。許せることではないわ。痛い目を見てもらわないと困るのよ」
「それが、単なる嫌がらせだという話です」
「これはメリナ様のために!」
「違います。自己満足です。あなたたちに正当性はありません」
正論を叩きつけてフィッタさんを黙らせる。
「第一、それはとても失礼なことです。だって、そうでもしないとメリナがヒカリに負けると言っているようなものではありませんか。実際にはヒカリはメリナの眼中にないのに。それに、嫌がらせはむしろ殿下とヒカリの仲を手助けするものになります」
フィッタさんは悔しそうに唇を嚙む。彼女の人のために動けるところは良いところだけれど、嫌がらせという方向に走ってしまうのは考え物だ。その情熱を別の場所で発揮してもらいたい所だ。
「気に食わないなら、直接勝負すれば良いのです。もうすぐ、紅白祭がありますから」
実は、チーム分けは生徒会がやっている。ヒカリと彼女ら三人を別チームにするくらいは朝飯前だ。職権乱用だけど。
「それまではこのことは黙っておきます。ノイズになってしまいますので」
教室に置いてきていた荷物を取り、教室から出る。――とチャイムが聞こえてきた。
「あっ、遅刻する……!」
行儀が悪いと思いつつも、私は誰もいない廊下を駆け抜けるのだった。
紅白祭は問題なく終わり、フィッタさんは逆にヒカリの傍にいることで徹底的に殿下との繋がりをシャットアウトすることにしたらしい。本人曰く、勝つと分かっていても全力を尽くしたいとのこと。ヒカリ本人は友達ができたと喜んでいるようだから問題はないだろう。ちなみに、フィッタさんが居ても普通に殿下とのイベントは進行していた。ヒカリは紅白祭のイベントもちゃっかり回収していたらしい。ただ、アレルと年下枠のルーディとのイベントもあったっぽいからまだメリナにもチャンスはある。
「何見てるの。さっさと片づけるわよ」
そんなことを考えていたら、視線に気が付いたメリナに睨まれてしまった。
紅白祭のイベントの大きなイベントは夏休みだったはず。夏休みイベントは攻略対象との仲を深めるだけのものだから、黒幕には大して関係ないだろう。ゲームの物語が動くのはエミリアがアクションを起こす春休みだった。そう考えると、黒幕の準備が完了するまでは九か月くらいしかないのか……。母の情報では、私は兄に監禁されるらしい。きっと、黒幕と繋がっていた兄が私を邪魔に思って閉じ込めるのだろう。ゲームのラスボス戦は王城で行われていた。ラヴィーネ領に帰ることができる夏休みまでは王都について調べておこう。
そして、話をつけておくべき人物はもう一人いる。最後の攻略対象にして、年上枠の魔法教師――ウィンデル・ルーネイトだ。彼が研究している魔法は有用で、黒幕との繋がりはないと断言できる大人の一人だ。他の大人は神出鬼没な母と既に亡くなっている父である。
母と言えば、兄の監禁疑惑について聞こうと思っていると、向こうから接触してくれた。能力のおかげなのか、タイミングがとても良い。やはりと言うべきか、監禁される未来は相変わらず見えているらしい。まだ兄の懐柔作戦は終わってないということか。
「魔法についてお聞きしたいことがあるのですが……」
放課後、いくつか資料を持ってルーネイト先生の研究室に行く。聞きたいことというのは邪神復活についてだ。彼は信頼できるだけでなく魔法にも詳しい。さらに私と親しくないため出所不明の情報を出してもその入手先を不審に思われない。
「邪神が近いうちに復活する……らしいのです」
「邪神? ふざけているのか?」
この反応は予想済みだ。生徒からいきなりそんなことを言われても、すぐに信じられないだろう。私はこれが信頼できる人物の相伝魔法で手に入れたものであると言い、その信憑性を上げるためにゲーム知識で得た先生の秘密をいくつか話した。
「ふむ、誰にも知られていないはずのものを知ることができている……一考の余地はありそうだ。詳しく聞かせてくれ」
先生が知的好奇心の強いタイプで助かった。彼はすぐに納得してくれて話を聞いてくれることになった。私の憶測も入れつつ、本から調べた内容を共有する。
「召喚か……?いや、しかし生贄を伴うとなると……。すまない、私の知識にはないな。研究の合間に調べてみることにする。何か発見できたら君にも伝えよう」
「ありがとうございます」
これで後輩以外の攻略対象と関わりを持つことができた。後輩は魔法が得意で戦う際に頼もしいかもしれないけれど、それはヒカリに任せればいいか。ゲームみたいに一人しか連れていけないなんてことはないのだから。
紅白祭の後は何事もなく学園生活を送ることが出来、今年も試験の季節がやってきた。私は今年もカンネと一緒にライラに勉強を教えていた。学力にまだ不安があるヒカリはメアリーやキャロルに教えてもらっていたようだ。
今年はもう兄が卒業してしまったけれど――だからこそしっかり兄に恥じないような良い成績をとらなければ。生徒会役員として生徒たちの模範になる必要もあるということもあり、昨年と同じくらい熱心に勉強した結果、私は今年も成績優秀者に名を連ねることができた。赤点によるお仕置きがないと知ったライラは油断して冬休み前と学年末テストで赤点を取っていたが、今回は回避することができたようだ。点数を見てとても安心した様子だったから、カンネに脅されていたのかもしれない。一方、ヒカリはギリギリ赤点を取り、泣きながら補修を受けていたらしい。
私は夏休みが始まってすぐに王都を出てラヴィーネ領に向かった。私の心を占めているのはもうすぐ兄に会えるということだけだ。これが、兄を堕とすラストチャンス。私は決意を胸に馬車に揺られるのだった。




