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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
ヒロイン聖女に懐かれました

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27/32

3

 聖女としての資質が認められ、貴族の仲間入りをしたヒカリは学園に入学することになりました。ヒカリは転入生であり、一年生とは向かう先が異なります。そのため、校舎内で迷ってしまうのでした。


「どうしよう……。時間に遅れちゃう……」

周りにいるのはヒカリとは異なり幼少期から教育を受けた生粋の貴族。義姉のような存在です。たった一人の転入生であるヒカリの心は不安でいっぱいでした。


 そんなヒカリに手を差し伸べる人物が居ました。彼は生徒会の腕章をつけ、爽やかな笑顔を浮かべながらヒカリに話しかけます。


「何か困りごとでも?」

その言葉でヒカリはパッと顔を上げます。ヒカリは声をかけてきた人物の青い瞳を見つめてしまいます。


「ああ、失礼。名乗っていなかったね。僕はグレイ。グレイ・クロイツ・アースヴェルク。生徒会役員として、困っている生徒を助ける義務があるから、遠慮せず言って」

彼の言葉にヒカリは頷きます。そして――。


「あとは第二王子をやってるよ」

という言葉に目を丸くしてしまうのでした。


「ここにいる以上、僕はただの学生だ。そんなに気負わないでくれ」

驚いた様子のヒカリに彼はそう言って安心するように言います。


「分かりました。では、早速お願いがあります!」

「何かな?」

「私の教室まで案内してください!」

「任せてくれ」

彼は二つ返事で引き受けてくれました。ヒカリは彼と並んで教室に向かうのでした。


「あ! 自己紹介がまだでしたね! 私の名前は――」



 新入生の対応をしている時、見知った顔を見た気がして振り向くと、並んで歩くヒカリと殿下がいた。彼らを見て、ゲームの一場面――ヒカリと殿下の出会い――が頭によぎった。今頃は自己紹介タイムだろうか。ゲームの通りなら、その仲の良い様子をメリナが窓から見ていたせいで絡まれるけれど……。


「エミリア、よそ見しないで仕事しなさい」

「ごめんなさい。少しぼうっとしてしまって」

「しっかりしなさい。初日からこんな調子では後が思いやられるわね」

メリナは私の隣で一緒に生徒会活動をしている。ゲーム通りに進む二人に怖くなってしまったけれど、メリナを見て全てがその通りじゃないと思うことができた。心配は必要ない。なぜなら私が全てを改変する必要はないのだから。



「エミリアー!」

教室に戻るとメアリーの隣で私に手を振るヒカリがいて、満面の笑みを浮かべるヒカリとそれを面倒そうに見ているメアリーが対照的だった。


「久しぶり……というほどではありませんね。入学おめでとうございます、であっていますか?」

「多分あってる……と思います!」

ヒカリの横に座らせてもらう。メリナは私の後ろに座ったらしい。ヒカリを探っているのか、腫れ物扱いをしているのか、クラスメートたちは彼女たちと距離を置いていた。そのため、メリナは広々と席を使っていた。


「楽しそうですね」

ヒカリにそう聞くと、彼女は顔を赤くして答えてくれた。


「そう、そうなんです。実はここに案内してくれた人がいて、素敵だなって思っていたんです」

「ふうん、それは誰なの?」

ヒカリがメリナの問いに答えようとした時、チャイムが鳴った。


「皆さん、席についてください」

先生が教室に入ってきて、二人の会話は終わった。ヒカリの紹介や新学年の諸注意が行われていたけれど、私の頭にはほとんど入ってこなかった。


 今日は授業日ではないため、この後は寮に帰るものが大半だ。ヒカリはクラスメートに学園の設備をしょうかいしてもらうらしい。私にも付いてきて欲しそうだったけれど、生徒会の仕事があるため断った。


「……あの女」

教室を出る際、何かが聞こえた気がして振り向く。悪意を感じるような――。


「何してるの? さっさと行くわよ」

「う、うん……」

悪役令嬢ポジションのメリナはいつも通りだから気のせいだろう。私は教室を後にし、入学式の会場の跡片付けへと向かった。



 学園生活二年目。去年と変わったことは兄が近くにいないこととヒカリがいることくらいの穏やかな日々だ。少し、いやかなりドジなヒカリといると毎日が飽きない。


 今日も筆箱を忘れたらしい彼女にペンを貸していると、ふいに声がかかった。


「何をしているのかしら?」

「何って、筆記具を貸しているだけですよ?」

「一昨日も貸していたわ」

「そ、それは私が、その……ドジで……」

メリナは問い詰めるように聞いてきて、それを庇おうとヒカリが口を挟む。


「学ばないのなら、人である必要はないわ」

メリナは扇を広げて見下すように言った。反論しようとして――彼女がヒカリを蔑んでいるだけではないと気が付く。


 忘れっぽいにしても限度がある。彼女は教科書も何度か無くしているけれど、水浸しになっていたり破れていたりとうっかりで済まされる範囲を超えていた。これはゲームにもあった出来事だ。その時の主犯はメリナだったけれど、他の人物が似たようなことをする可能性はあるだろう。


「ありがとう、メリナ」

「急に感謝するなんておかしな娘ね?」

突き放すように返答した彼女だったけれど、口角がわずかに上がっていることを私は知っている。



 犯人がメリナではなさそうな以上、私が侯爵家の力を振りかざすことは可能だけれど、ただ犯人を捕まえるだけじゃ彼女は納得しないだろう。ヒカリは目につく範囲の人間を助けたいし仲良くしたいお人好しだからだ。とはいえ、まずは犯人特定からだ。


 ダンスの授業は教室移動がある。おそらく、そういった隙を狙って物を捨てているのだろう。私は生徒会の仕事でよく教室にいないから、その仕事が偶然長引いてしまったことにして、時間をずらして教室に向かうことにする。


「だいぶしぶといわね」

「さすが平民。媚びを売ることだけは一流ね」

……見つけた。何人かの女子生徒がヒカリが座っていた席の前で話している。彼女たちの言葉にはヒカリへの悪意が滲んでいて、聞いていて心地良いものではない。


「二人とも。別に私たちはあの子が嫌いだからやっているわけじゃないと分かっていて?」

最後の一人の声は聞き覚えがあった。


「私たちはメリナ様のためにしているの。殿下を狙う身の程知らずの排除はその一環よ。そのことは忘れてはいけないわ」

声の主はフィッタさん。どうやら主導しているのは彼女らしい。ゲームを知っている私からすれば、ヒカリに殿下を取られてしまうという懸念は的外れな物とは言えないけれど、逆効果としかいえない。


 彼女は一年生の時も、朝に何かをしようとしたり兄と引き離そうとしたりと私に嫌がらせ紛いのことをしていた。それはメリナの命令という可能性もあるけれど、今回に至っては彼女自身の選択だろう。メリナはそもそもヒカリのことなんて眼中にない。殿下と親しくしていた瞬間は見ていないだろうし。


 彼女たちが教科書を破ろうとしていたため、音が聞こえるように教室に入る。


「ひっ、ラ、ラヴィーネさん!? 偶然、ですわね……」

焦った様子で破ろうとしていた女子生徒が教科書を隠す。彼女を庇うようにしてフィッタさんが前に出る。


「あら、忘れ物ですか? 実は私たちもなんです。ね?」

「いいえ。あなたたちに会いに来ましたの。嫌がらせをやめてほしいと言うために」

ド直球の言葉に、彼女たちは驚いた様子で固まってしまっていた。

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