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「はじめまして。フーウェル子爵、フーウェル夫人。本日はお時間を作って頂きありがとうございます」
返答を待つ時間がとても長く感じる。母との関係は良くないようだから、私にも悪感情を抱いているかもしれない。ドキドキしながら待っていると、子爵が優しげに話しかけてくれた。
「畏まらなくても良い、私たちは家族なのだから」
「……いいのですか?」
「ああ、お爺さまと呼んでくれ。最近孫が反抗期でな、昔みたいに懐いてくれないんだ」
「お爺さま?」
「ちょっと、旦那様!」
孫にデレていた子爵を隣にいた夫人が叱る。勘当した娘の娘だからかと思っていたが――。
「私も! お婆さまと呼んでくださいまし!」
どうやら、デレていたのは子爵だけではなかったらしい。
色々と話を聞かれ、気づけば一緒に昼食を食べていた。今世は父方の祖父母はすでにおらず、母は勘当されていたため祖父母とは縁がなかった。多分、浮かれていたのは祖父母だけではなかったのだろう。
「さて、用件を聞こうか」
祖父は真面目なトーンでそう言った。……もしかしたら、未来視の魔法で私がここに来ることを知っていたのかもしれない。でなければ、アポイントメントを取った翌日が空いているなんてないだろう。
数分前、祖母がアンナを連れ出していたため、室内に残ったのは私と子爵だけだ。相伝魔法について聞きたいことまで知られている……?
「相伝魔法について教えていただきたいのです」
「ベアトリクスから聞いたのかい?」
「はい。母は自分の命の危機に未来が見えることがある、と……」
「そうだ、私の相伝魔法は未来視だ。これは他言無用だよ」
「はい。誰にも言っていません」
「よし。それじゃあ少し教えておこうか」
祖父曰く、未来の見え方や見える瞬間は人によって異なるらしい。母は映像が見えるだけだが、祖父だとそうなる可能性の大きさまで見えるらしい。
「共通点があるとするなら、未来視はその人の死を変えうるように、未来を見せるということだ。私は自分を殺しうるものに出会うとその未来が見える」
ちなみに、今日の予定が空いていたのはそろそろ引退で仕事を息子にほとんど任せていたからとのこと。未来視ではなかったらしい。
「他に質問はあるかい?」
「えっと……」
祖父母はどちらも優しそうで、侯爵の浮気相手になっていたとしても、娘を勘当するとは思えなかった。略奪は良くないと諭すくらいはするかもしれないけれども。
にも関わらず、勘当して父と母を引き離す選択を取った。それはきっと――最善だと思ったのではないだろうか。母が侯爵邸に向かうと死んでしまうような未来が見えてしまった、とか。
「もしかして、母は死んでしまう運命だったのですか?」
「おや、急に飛躍したね?」
「お爺さまが母を勘当するような性格には見えませんでした。と、いうより嫌っていませんよね? 母と暮らしていた際、どこからかお金が送られてきていましたから」
「勘当したとはいえ娘に質素な暮らしをさせては威厳に関わる」
祖父ははぐらかすつもりらしい。原作では死んでいたからそれが理由だと思っていたけれど……母の死なら隠す必要もないはず。
祖父は自分を殺すものに触れることで、その未来が見える。つまり、母が侯爵家に行くことで祖父が死ぬような出来事が起きるということ?
「それは母が……。いえ、母がお爺さまを殺すのであれば、どうにかして侯爵と会わせなければ良い」
「……」
「つまり――お爺さまは、私のせいで死ぬのですね?」
「……参ったな。言うつもりはなかったのだが」
その反応は正解ということ。祖父は私に触れた瞬間に邪神が復活する未来が見えたのだと言う。
「お爺さま、その未来は今も見えますか?」
「……やってみよう」
祖父は私の頭に触れ、静かに首を振った。やはり、私が邪神復活に関わってしまっているらしい。
「……誰かを庇っているように見える。誰かのために復活の儀式に加担しているようだ」
「なるほど……。ありがとうございます」
私がそんなことをするとしたら、兄の危機。もしかしたら人質に取られてしまっているのかもしれない。
「可能性はまだ高い。だが……老い先短い私たちには関係ない! こうなったらエミリアを可愛がってやろう!」
「その意気ですわ。さあお買い物に行きましょう」
疲れた顔のアンナを引き連れてお婆さまも部屋に入ってくる。会話が終わるのを待っていたらしい。
「町に人気のお店があるのよ。孫と買い物ができるなんて夢みたいだわ!」
老い先が長そうな二人に連れ回され、町で買い物をすることになった。
祖母は私に似合いそうな服を何着か贈ってくれ、祖父にはシンプルなネックレスを贈ってもらった。
「困ったわ……私たちしか買っていないわ」
「そうだね。エミリア、何か欲しいものはあるかい?」
祖父母の買いたいものは全て私への贈り物だったから、それ以上は必要ない。けれど、もし買うのであればーー。
「お土産を買いたいです。お兄様へのものを」
「あなた自身の物は要らないの?」
「はい。十分に買って頂きました。それに、お二人といるのは楽しい、ですし……」
「まあ嬉しい! さっ、あなたの兄の好みを教えて頂戴。案内するわ」
「こ、好み……?」
好きな食べ物くらいは知っているけれど、ここの特産物はアクセサリー系が多い。
「ならば無難なものか、エミリアがあげたいと思えるようなものにしなさい」
「そうします。案内して頂けますか?」
「もちろんだ」
祖父に案内して貰ったのはアクセサリー店。値段は……問題なさそうだ。令嬢のお小遣い程度でも買うことができる場所にしてくれたのだろう。
「これも良いし……これも捨てがたい……」
手に取ったものを眺めていると共通点があった。それは使われている金具が銀であること。銀は私の髪色であり、ラヴィーネ家の色でもある。中でも、このサファイアのブローチは私の髪の色と目の色でーーこんなものを贈ってしまったら恋人みたいになってしまう。いや、でもラヴィーネの色だから身に着けているという言い訳もできるし、そもそも婚約者だし? 問題ないのでは?
「……これは?」
透明な石が嵌め込まれたイヤリングが気になり、聞いてみるとこれは魔封石だと教えてもらった。魔封石には魔力を込めることができるらしく、効率はかなり悪くなるものの魔法を閉じ込めることも可能らしい。色は閉じ込めた魔法によって変わり、単純な魔力は透明らしい。私たちのように相伝魔法を持つ人は意識しないと相伝魔法を込めてしまうらしい。
「恋人に自分の魔力を込めた魔封石を贈るという文化もあるらしいわ。このブレスレットの石もそうよね、旦那様?」
その話を聞いて慌ててその場を離れようと思ったが……少しだけ気になることがあった。
「魔法ごとの色を教えてくれませんか?」
「炎が赤、水は薄い青、風は緑、土は黄色……だったかしら? 同じような属性でも色は変わるらしいけれど……。氷は白よ」
「では、それらに属さない場合は?」
「……物質を生み出さない魔法なら透明ね」
兄が何も考えずに触ると魔法を偽っていることがバレるということか。なら、贈るのは良くないかな。
「なら、イヤリングは私があなたにプレゼントするわ」
「ドレスを贈ってくださったのに、これ以上は……!」
「ドレスは私のわがまま。イヤリングはあなたが欲しいものでしょう?」
彼女はそのまま会計を終えてしまい、新品のイヤリングが入った箱を手渡された。兄へのお土産をサファイアのブローチに決め、私も会計した。
買い物を終えた後はカフェでお茶をした。その後、私は二人に見送られてフーウェル子爵領を後にした。
王都に戻ると、一通の手紙が届いた。送り主はローゼギフト家――メリナからの招待状だった。パートナー同伴のパーティーは兄が不在だからどちらにせよお断りすることになるけれど……お茶会には参加してみたい。
「アンナ、これ行ってみたいの。だから……」
「はい、今年の夏はお戻りにならないのですね。伝えておきます」
確か祖母が贈ってくれた服にアフタヌーンドレスもあったはず。これを着て参加しよう。
四人でのお茶会だから心配することはないと書いてあったけれど……どんな会になるのだろうか。嬉しさ半分怖さ半分でその日を待った。
2章完。次回は3章です。
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