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二人の争いはオリバーがチェス、剣術、乗馬を、メリナがテニス、カルタ、お茶会を総括することになり、一度決着した。
なんとなく男女で分かれたため、私はメリナの方に着いていった。クラスの女子のほとんどが集まった所でメリナは口を開いた。
「エミリア・フォン・ラヴィーネ。あなた、テニスをやったことは?」
首を横に振ると、ため息を吐かれた。メリナは他の生徒にも順に聞いていき、頷いた令嬢、フィーナ・ワムール子爵令嬢にそのリーダーを任せた。
「あなたはカルタを担当なさい。ルールは単純だから知らないとは言わせないわ」
意外なことに、メリナは私に競技のリーダーを任せた。目立たせたくないのだと思っていたが違うらしい。自分の負担を減らすためか、パフォーマンスのためかは分からないけれど。
「もちろんお茶会は私が担当するわ。さあ、メンバーを決めましょう。まず、テニスをやったことがある方は挙手を」
テキパキと進める彼女に従っていたら、いつの間にかカルタだけでなくテニスにも出ることになってしまったけれど……。
カルタは個人戦に出場する二人、チーム戦に出場する三人、補欠の三人で構成される。
出場者を増やすため、個人戦とチーム戦に出場する人は別々にする必要があり、補欠は他の種目にも出る三人にお願いすればよいけれど……後はどうやって決めようか。
「一度、試しにやってみましょう」
折角だから、アイスブレイク代わりに一戦してみることにした。
その結果、私は意外とできることが分かり、上手かったり経験者だったりする二人に個人戦をお願いした。
出場種目の練習と勉強をしているうちに、紅白祭の日が来てしまった。テニスの方は補欠だけれど、形だけのリーダーになったばかりにカルタの大将にさせられてしまったことだけが辛い。幸いにもカルタは午後からだ。それまではテニスを観戦しつつゆっくり過ごそう。
「ラヴィーネさん!」
のんびりしていると、試合に出るはずのテニスのリーダーが慌てた様子で走ってきた。
「ワムールさん、どうしたんですか? もうすぐ団体戦が始まってしまいます」
「ラヴィーネさん、今すぐ準備してください! メリナ様のパートナーが緊張で倒れました!」
「ええっ!?」
フィーナに更衣室に連れて行かれ、あっという間に服を脱がされてしまった。
「な、何をするんですか!?」
「あなたしか居ないんです! メリナ様とパートナーになれる図太そうな人は!」
「失礼な人ですね!?」
言い返しはしたものの、制服は返ってこず運動着を渡されてしまった。足を引っ張る自信しかないけれど、これはメリナと仲良くなるチャンスだ。
「代わりってあなただったの。……私は前衛だから。せいぜい頑張りなさい」
時間も押していたようで、試合がすぐに始まってしまった。補欠になったことで振り方は教えてもらい、サーブくらいはできるようになったけれど、本当にそれくらいだ。
「来るわよ」
サーブを打ち返し相手コートに入るが思ったより手前に落ちる。相手は私と違ってちゃんと練習しているようで、私を右に左に移動させる。魔法の使用は禁止されていないため、効果を抑えつつ使っているにも関わらず辛い。打ちやすいところに打ってくれれば――。
何回か続けていると、気を抜いてしまったのか、甘いボールがきた。チャンスだ。意外とコートが広い。全力で打てば返せるかな……。
「きゃっ!?」
私が打ち返したボールは相手の前衛のすぐ横を通り過ぎ、壁に勢いよく当たった。
「や、やっちゃった……?」
思ったより威力が強かったらしい。飛びすぎてしまったし、相手を無駄に怖がらせてしまった。
「あなた、思っていたより残念な子だったのね」
反則扱いになっていないか、トラウマを与えてはいないかと震えていると、メリナは呆れたように、ホッとしたようにそう言った。
一試合目は前衛の子が私を怖がって強気に攻められなくなった影響もあって勝利を収め、二試合目は私たちが出る間もなく負け、三試合目は出る間もなく勝った。
「あなたたち、よく頑張ったわ。次の種目がある方は準備なさい。他は休息を取ること、良いわね」
リーダーの座をフィーナから奪い取り、メリナがそう声をかけた。メリナは午後にあるお茶会の準備のために早々と戻って行った。私も午後にカルタがあるため、ひと言挨拶したあと追いかけるように輪の中から出る。
「エミリア・フォン・ラヴィーネ」
メリナが私の名前を呼び、立ち止まった。
「初心者にしては健闘したわね、褒めてあげる」
彼女はほんのり頬を赤らめてそう言った。
「……もしかして、照れてますか?」
「ええ、そうよ。認めてあげる。私ね、あなたのことを敵だと思っていたの」
「ということはこれからは――」
「でも、勘違いしないで。あなたは私の敵と成り得ない、それだけ。あなたは計算高い女狐ではなく、何も考えていない呑気な娘だと分かったのよ」
吐き捨てるように言って去っていくメリナ。マイナスからのスタートだったけれど、やっと一歩進むことができたような気がする。警戒心をなくしてくれたのはいいけど、私馬鹿にされてる……?
「えっと……ごめんなさい、力不足でした」
「私たちも決して上手だったとは言えません」
「そうですよー。ラヴィーネさんだけの責任じゃないですー」
カルタの団体戦は初戦で負けてしまった。私が謝ると、チームメンバーは笑って許してくれた。
「みなさん……!」
「当然のことを言っただけでそこまで喜ばないでください」
「こうして話してみると、元々の印象とは違いますねー」
「元々の印象、ですか?」
ライラによると、私は氷の令嬢だと言われていたらしい。ラヴィーネが冷気を操る魔法を持つというのもあるけれど、誰とも話さない態度が一番の理由らしい。ただぼっちになっただけなのに……。
「友達になりたいなーなんて……。あはは、騎士爵令嬢如きがって感じですけど……」
「な、なりましょう! 友達!」
気まずかったのか行き場をなくしていたライラの手を掴み、目を見て答える。
「やっぱり、氷なんかじゃないですねー」
「ずるいです、ライラ。私だって……」
「では、これからは友達としてよろしくお願いしますね。ライラ、カンネ」
学院が始まって一ヶ月以上経った今日、私は初めて同性の友達を手に入れることができたのだった。
紅白祭も終わりに近づき、オーケストラの生演奏のもとダンスパーティが始まった。
「エミリアちゃんはここに居て良いの? 侯爵令嬢なら選び放題だよね?」
「良いんです。疲れてしまいましたし。二人こそ、ここにいて良いのですか?」
「良いの良いの。どうせ誘ってくれないし」
「私には婚約者がいますので」
婚約者がいるカンネはともかく、ライラが参加しないのは勿体ない。
「ライラ、もう少し目立つ所に行きましょう」
「え、いや……」
「やってみれば案外なんとかなるものです」
ライラを照明の下に連れていき、私は壁際に戻る。ライラは今日の対戦相手にいた男性と話せているようだ。
「エミリアさん、ありがとう」
そんな様子を見ていると、カンネが唐突にお礼を言った。
「あの子、明るく振る舞ってはいるけれど、自信がないの。ああやって踏み出せたのはあなたのおかげなので」
「私は背中を押しただけですよ」
曲がちょうど変わり、踊りやすいワルツに変わった。部屋の中央部で踊り出すペアたちを見ながらジュースを一口飲んだ。




