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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
中ボス令嬢に敵視されています

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17/32

3

「待たせてごめん、エミリア。……そちらは?」

「こちらはアレル・シェイラさん。お兄様の教室まで案内していただいたんです」

「アレル・シェイラです! おにいさま!」

「うん?」

「あっ、えっと……すみませんでしたっ!」

アレルは慌ただしく戻って行った。彼のことだ、名前をど忘れして咄嗟に出てきたのがお兄様(それ)だったのだろう。お兄様と呼んでいいのは私だけなのに。


「そうだ、エミリアの用事って?」

「お兄様に会いたかった、では駄目でしょうか……?」

男子教室に行く口実作りにしたとは言い難く、二番目の理由を告げた。それを聞いた兄は照れたように笑った。


「そうだ、折角だから喫茶店に寄らない?」

「喫茶店ですか?」

「うん。王都には色々と店があるらしいよ。恋人と行ったって自慢され続けたせいで気になっていたんだ」

つまり、今から行く喫茶店は恋人と行ってもいいような場所――つまりデートでは!?


「どう?」

「行きたいです!」

私は前のめりになってそう答えた。



 寮でお忍び様のワンピースに着替え、学院の外で兄と待ち合わせる。兄はシンプルなシャツとズボンだけれど、立っているだけで気品を感じる。


 向かうのは大通り沿いにある喫茶店だ。店内は落ち着いた内装で、貴族用の部屋席も用意されていた。予約なしで来てしまったため部屋席が空いておらず、普通の席に行くことになった。


 店員は私たちにメニューを二つ渡し、ぺこりとお辞儀をすると厨房の方へと帰っていった。メニューを見てみると、前世の喫茶店と似ていると感じた。


 この店で人気なのはケーキセットで、この時期はイチゴを使ったケーキが食べられるらしい。


 個人的にはタルトが好きだ。けれど、当店自慢と言われるとショートケーキも食べたくなってしまう。


「決めた?」

「いいえ。ショートケーキとイチゴタルトで迷っていて……」

「それなら、僕のショートケーキを一口あげようか?」

「良いんですか? 申し訳ないので私のタルトも一口渡しますね」

茶葉も選び、兄に注文してもらう。兄も家を出る前は私と同じように屋敷に居たけれど、こういった店にも来ているのか手慣れていた。知らない兄の姿に、なんだか胸がざわついた。



「お兄様……視線を感じるのですが」

ケーキを待つ間、学院でのことを聞いていたけれど、どうしても視線が気になって兄に小声で聞いた。話の内容が気になるのか、私が田舎者感丸出しなのか……。


「やはりエミリアは目立つね」

「どちらかというとお兄様の方が……」

アンナの提案で、私は特徴的な銀髪を目立たせないような髪型にしている。ゲームのモブは地味な髪色をしていたが、それはこの世界でも同じで大多数の髪の毛は地味な色だ。そのため私の銀髪はそのままでは非常に目立ってしまっていた。


 一方兄は顔も髪も何も変わっていない。赤毛は珍しくはないけれど、それは落ち着いた色味であればという話。燃えるように赤い髪は流石に目立つ。


「お待たせしました。ケーキセットでございます」

しょうもないことを言い争っているうちに、ショートケーキとイチゴのタルト、紅茶がやってきた。


「約束通り一口あげる」

「ありがとうございます」

「はい、あーん」

「えっ」

とても恥ずかしかったけれど、これ以上ない美味しい状況だったため、差し出されたショートケーキを頬張った。


「美味しい?」

味わえるような状態ではなかったけれど、とりあえず頷いておいた。


 色々と味わっていると、兄と目が合った。兄は私に何かを伝えて――あ。交換の約束をしていたんだった。


「お兄様、お好きなだけどうぞ」

「いいよ、一口で」

兄は渡そうとした皿を受け取ってはくれない。私からもあーんするしかないというのか……。


「あ、あーん……?」

フォークを差し出す。兄は軽く軽く体を前のめりにさせ、タルトを口に入れた。


「えっと……美味しいですか?」

体は差し出した体勢でフリーズしているものの、口だけは動かして兄に質問する。兄は私と違っていつも通りの顔で「美味しいよ」と言ったのだった。



 兄に支払ってもらい、私は先に店を出た。春先の王都はまだ少しだけ寒く、浮かれた私を冷やしてくれる。


 からんころんと喫茶店のドアが開く音がして、そちらを向いた途端、私は誰かに腕を引かれて路地裏に連れ込まれた。



「エミリア、あれから離れなさい」

「お母様? どうしてここに……。それに、生きていたのなら連絡くらいしてください」

二人で暮らしていた時のような服を着ているが、怪我などは特にない。屋敷と王都はそこそこ離れているはず。どうやってここまで来たのだろう。


「私のことはどうでも良いの。それよりあなたよ」

「あれって、もしかしてお兄様のことですか?」

「そう、レオンのことよ。見えたのよ、あれが旦那様を殺したりあなたを監禁したりしているところが!」

「お母様! 何を言っているか分かりません。見えたってどういうことですか!? 私は監禁なんて――」

母は私の口を塞ぎながら、自分の首も絞めるようにきつく押さえ、大通りから見えない位置に私を連れて行った。


「私の、相伝魔法は、未来視」

母は浅く呼吸を繰り返しながら言った。


「強い魔法だけれど、とても不安定で、私の場合は命の危機に発動することが、あるの」

母は深呼吸をして、呼吸を整えたあと続ける。


「あなたがどちらの魔法を受け継いでいるかは分からないけれど、もし未来が見えたのなら戸惑わないで。未来はあなた次第よ。……もう、時間切れね」

母はそう言い残して逃げていった。直後、兄が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「エミリア!」

「お兄様!」

「僕が目を離した隙に……!」

「お兄様は悪くないです、私の不注意ですから」

「無事で良かった……」

兄の腕に抱かれながら、母の言っていたことについて考えていた。


「今日は疲れてしまいました」

「そうだね、帰ろうか」

はぐれないようにという名目のもと、私たちは繋いで帰路についた。



 未来視の魔法なんて本当に存在するのだろうか。勉強をするつもりだったのに、母が言っていたことを考えているせいで全く進まない。


 たとえその魔法が存在するとして、母が嘘を吐いていないとしたら兄が父を殺したことになるけれど……。


「あーもう。分かんないよ……」

頭を抱えて気持ちを吐露する。したとして、状況は変わらないが、一旦兄の殺人疑惑は気にしないことにした。


 できれば母に会って、教団の動向を聞きたい気持ちはあるけれど……。詳しく聞くにしても母に狙って会えるものではない。


 いや、母に会う必要はない。相伝魔法ということは、祖父母はその魔法を持っているということになる。話を聞くことによって兄の疑惑が晴れるかもしれないし、教団の対策にも有効かもしれない。


 母の実家は王都近くに小さな土地を持つフーウェル子爵家だったはず。


 地図を広げて祖父母が住んでいる場所を確認する。屋敷があるのは子爵領の中でも王都に近く、馬車で一日もかからず行ける距離だ。


 長期休暇以外で王都の外に出るためには特別な申請が必要となる。急に祖父母に会いに行くなんて言ったら不審に思われるだろうか。ならば決行は申請が不要な夏季休暇だ。だから、今すべきことはメリナのことだ。考えをまとめたら頭がすっきりして、今日はよく寝れそうだ。

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