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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
幕間①

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14/32

バレンタインデー

2026 2/14更新……予定でした。

割り込み投稿が予約できないのが悪い(言い訳)

「今日って二月十四日?」

「はい。それがどうかされましたか?」

今日の私担当はレイラ。今日はアンナの休暇だから代わりに来てもらった形だ。


 二月十四日と言えばバレンタイン。この世界にそんな習慣はないけれど、イベントがあると気がついてしまったらやりたくなってしまう。


「今日はいつから授業だったかしら?」

「ええっと……午前中は十時から十二時、午後は四時からダンスレッスンですね」

自由時間は三時間ほど。……作れる。私付きのメイドがレイラなのもチョコレート作りにおける追い風だ。彼女なら二人と違って緩いし、手伝いもしてくれそうだ。



「こんにちはー! 料理を教えてもらいに来ましたー!」

レイラが元気よく厨房に入った。怖い顔をした調理長が出てくるが、私を見ると怖い顔をやめた。雇い主の娘だからね。


「忙しい時間に申し訳ないのですがお菓子を作ってみたくて……。スペースをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「そういうことでしたら。エレク、ガストン、こっちに来い」

痩せ型で笑みを浮かべる男性と筋肉質で無愛想な男性がやってきた。ガストンは熊みたいな人だから、痩せ型の方がエレクだろうか。人見知りを発動して私はレイラの後ろに隠れる。エレクは私に見向きもせずレイラをじっと眺めた。


「なあガストン」

「やめろエレク。お二人とも、俺の同僚がすみません。これは礼儀が多少なっていないですが良い奴、とも言えないな……。悪気がない……ところが厄介なのですが」

ガストンはエレクが苦手らしく、援護に見せかけて追撃をしていた。レイラがそんな二人の様子を見て笑みを溢すと、ガストンは照れたのか顔を赤くした。レイラは美人だから、その笑顔でやられるのは仕方がない。……恋の予感。


「エレクさん、はじめまして。レイラと申します。ガストンさんはお久しぶりです」

「エミリア・フォン・ラヴィーネです。今日はよろしくお願いします。……ガストン、いつもお菓子ありがとう」

レイラに前に連れてこられ、挨拶をするように言われたため、最低限ではあるが挨拶をした。


「今日作るのはチョコレートです! ご指導よろしくお願いします!」

「チョコレート、ですか。材料を取ってきます」

前世で何度もバレンタインを経験しているから、チョコレートを溶かして固めるくらい造作もない――と思っていた私が間違っていた。


 材料として机の上に置かれたのはカカオ豆。どうやって作るのか説明してくれたが頭に入らなかった。お屋敷ではいつもこれから作ってるの!?


「力仕事は私たちが行いますのでご安心ください」

「そう、ありがとう。いつもこんなことしているの? 大変でしたよね……」

「苦労はありますが、皆様が喜んでくださるため苦ではないですよ」

「ありがとう。いつも美味しいわ」

「たまにつまみ食いさせて貰いますがとっても美味しいです! ありがとうございます!」

ガストンは照れているのか頬が赤くなっている。彼はそれを隠すかのように「早く始めましょう」と言った。



「味付けは甘くされますか?」

「甘すぎない程度にしたいの。プレゼントしたいから。……父とかに」

「侯爵様は甘いものが得意ではありませんからね」

なんて話していると、ガストンはカカオを追加しだした。


「ガストン、多くねえか?」

「ほら、失敗するかもしれないだろ? 多い分には良いんだよ」

「雇い主相手だからって……」

元々チョコレートは三人分くらいあった気がしたが、私とレイラと兄の分だったと考えるのは都合が良いだろうか。いつも多めに持たせてくれるのは兄の分だったのかもしれない。



「できた!」

出来上がったのはシンプルなチョコレートだ。四角いチョコレートに白やピンクのチョコレートでデコレーションした可愛らしいもの。箱詰めをすればかなりそれっぽくなっただろう。作ったと言いつつも飾り付けくらいしかしていないのはご愛嬌。


「お二人ともありがとうございました。とても良い出来です!」

「そうですね、美味しそうです……」

「レイラにも、これを渡しておきますね」

「やったー! ってあ! そろそろレッスンの時間ですよ」

時計を見ると三時半。服を着替える時間も必要だから余裕はない。


「両親用はこちらに置いておいても?」

「はい! 冷蔵室に保管します!」

「ありがとう、ガストン!」

お礼を告げ、部屋まで走って戻った。チョコレートは崩さないよう丁寧に持って。


「申し訳ありません、遅れました」

「問題ありませんよ。時間ちょうどです」

ダンスの先生の言葉に胸を撫で下ろす。息を整えていると、私の汗を誰かが拭ってくれた。


「ありがとう……お兄様!?」

顔を上げるとそこには兄の顔があった。兄は私を心配そうに覗き込んでいる。汗を拭ってくれたのも兄らしい。


「ごめん。嫌だった、かな?」

「嫌ではありません。ありがとうございます。……そうだ」

兄に「後で渡すものがある」と耳打ちする。兄は聞き返すこともせず、こくりと頷いて答えてくれた。


「息は整いましたね? さあレッスンを始めましょう」

兄と向かい合う。何週間も続けていても、この瞬間はやはり緊張してしまう。……好きな人が目の前にいるのだから。



「今日のレッスンはここまでにいたしましょう」

今日も疲れたし、ドキドキし続けていたけれどなんとか終わらせることができた。


「エミリア、渡すものって?」

意趣返しのように、耳元で囁かれる。息遣いがくすぐったい。


「レイラに持たせてあります」

先生が退出した後に、レイラからチョコレートの箱を受け取る。


「お兄様、プレゼントです!」

「これを、僕に?」

「はい! チョコレートなんですけど、私が作りました。と言ってもほとんど手伝って貰いましたが……」

「そうなんだ。ありがとう」

兄は嬉しそうに包装を眺めて、ふと思いついたように「意外だったな」と呟いた。


「エミリアなら自分一人で作ろうとしそうだけど、ちゃんと周りを頼れて偉いね」

「ちょっと! 子供扱いしないでくださいまし! お兄様とは二歳しか変わりませんからね!」

「いいえ。多分一人でやろうとしてましたよ? 豆が出てきた辺りで意気消沈してましたが……」

「レイラ!?」

こうして私の初めてのバレンタインが終わったのだった。


 そして、ラヴィーネ家では二月十四日が「チョコレートを渡す日」として定着することになり、私の料理スキルはチョコレート菓子作りに限定して上がっていった。

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