富士山登山
富士山登山
新幹線の三島駅に数組の登山客が降り立った。
次郎とひとみもそのうちの一組だ。
二人は富士登山は初めてだ。
富士山に登山すると言っても、麓から頂上まで登るわけではない。
精々、5合目までバスに乗ってそこから登るんだ。
この二人は、まだ若いので、5合目からなら頂上御来光まで歩いて行ける。
ひとみ「他の登山客って荷物が大きそうだけど、私達大丈夫?」
次郎「僕の友達は高校1年で、荷物殆どなくて頂上まで到達したよ」
ひ「へえ、でも高校生だと、身体が達者じゃないの?」
次「そうよ。現役のラグビー部だったからね。いまだと無理かもよ」
二人は5合目行きバスに乗り込んだ。
バス道はすごく長かった。
でも、景色はすごく綺麗だ。木々がいい色をしている。
ひ「母が、5合目まで行った事があるのよ。これが写真」
次「夏でも雪が残ってるんだね」
ひ「一応、厚着はしといた方がいいわね」
次「そうだよ。一応、日本で一番高いところだからね」
1時間ほど、バスで登っていくと、5合目に着いた。
五合目は、土産屋や、料理店があふれている。
二人は、翌日のために弁当を買った。
その前に、食事をしといた。
何を食べたか?
天ぷらそばだ。
こんな食事で身体が持つのだろうか?
ひ「もっと食べた方がよくない?」
次「うーん。あんまり食べ過ぎると、お腹が張るからね。そこそこでいいよ」
ひ「ホント?」
次「弁当も買ってるんだから、大丈夫だよ」
ひ「そう?」
5合目には、年配の人が多かった。若い人は少ない。
みんな登山慣れしているようだ。
時間はもう夕方だ。
二人は、ゆっくり登り始めた。
5合目から見降ろす風景は本当にきれいだ。
夕焼けが効果的に樹々を映えている。
歩いているうちに、二人の周りは段々暗くなってきた。
懐中電灯は一つしかない。
ひ「困ったなあ、これだけだと暗くない?」
次「ん、まあ、他の登山客もいるから、大丈夫だろう」
ひ「何か音楽聴かない?」
次「え?スマホかなんかで?」
ひ「うん、音楽聴きたい」
次「ジャズでも聴くか?」
ひ「マイルス・デイビスとか?」
で結局、チャーリー・パーカー・ストリングスを聴くことにした。
でも、山には向かないと思われた。
すっかり暗くなって、7合目の山小屋に着いた。
木造の山小屋で、寝床は木々で出来ていた。
でも、背中が痛くなる程ではなかった。
二人は少し疲れがあったから、割とすぐに眠った。
午前3時頃になると、山小屋の主人がみんなを起こして
「御来光に行かれる方は、今から行かれるのがいいですよ」
この声を聞いた、ひろみと次郎は、起きて頂上を目指した。
歩いていると、しばらくして、二人ともお腹の調子が悪くなった。
どうも、少し弁当が腐っているようだ。
苦しい。
仕方ないから、あとから登って来る年配の人に、
お茶を恵んでもらった。水分を摂らないとしんどい。
苦しい。
中々頂上まで登れない。
しばらくすると、周りが明るくなってきた。
もうすぐ日の出だ。
ひ「御来光には間に合わないね」
結局、もう陽が登った。
頂上の観測所の辺りに来ると、
もう、明るくて、お昼になった。
次「ああ、間に合わなかったね」
ひ「もう、お昼よ。お腹空かない?」
次「空いたよ」
ひ「どうしよう?」
次「5合目まで駆け下りようか?」
ひ「駆け下りる?」
次「そうよ、頂上から5合目まで一気に駆け下りられる坂があるんだ。行ってみようよ」
ひ「危なくない」
次「大丈夫。その頃には食堂に着けるよ」
二人は富士山の坂を直角に駆け下りた。
すごい速さだ。
こけないか心配だが、脚がしっかりしているから
速さに付いて行った。
結局、頂上から5合目まで30分で降りた。
すごい速さだ。
でも、疲れなかった。体力があったんだな。
次郎「ひろみちゃん、大丈夫」
ひ「大丈夫、ハアハア、ちょっと疲れたけど」
次「早速、何か食べようぜ」
ひ「お肉でも食べる?」
次「いいね。ステーキでも食べたい」
二人とも、弁当にあたったが、食中毒になるほどではなかった。
食欲は満点だった。
ひろみ「中々キツイ登山だったわね」
次郎「そうだね。もう、二度と登らないよ」
ひ「登山からの景色って、雲海で下まで見えなかったわ」
次「西遊記の冒頭の画面みたいだったね」
ひ「次はどこに登山する?」
次「もういいよ。スキーでボーゲンでもしてればいい」
二人はたらふく食べて、バスで富士宮に降りた。
ひ「ここからどこに行こう?」
次「東京に行こうか?」
ひ「え?どこに」
次「だから東京だよ」
ひ「東京タワー?」
次「いや、取り敢えず行ってみるんだ」
二人は甲府まで降りて、そこから新宿まで行った。
富士山の景色とは全然違う。建物でいっぱいだ。
ビルも一杯。
他に何の目的も無かった。
東京を見ただけだ。
「じゃあ、帰ろう」
二人は、新幹線で一気に関西に帰った。
忙しい、登山だったな。
終わり