3本目
「ひまー。配達お願いしていいー?」
向日葵「どこまで?」
「隣町の綿貫さんの家まで」
向日葵「え、お母さんが行かないの珍しくない?」
「少しね。お客さんがいらっしゃるからお願いね」
向日葵「しょうがないなー」
「ユリの花を適当にお願いね」
向日葵「お見舞いにユリって良くないんじゃないの?」
「そうだね、匂いが強いからあんまり良くはないっていうけど、お家だし、何より綿貫のお婆さんがユリの花が大好きだっていうから。慣習とかそういうのは私的にはどうでもいいの。他のお花屋さんには怒られちゃうかもしれないけどね」
向日葵「そういうところ私は好きだな」
「なんか言った?」
向日葵「何でもー。行ってきまーす」
「気をつけてねー」
―
「久しぶりだねぇ。向日葵ちゃん」
向日葵「おばちゃん久しぶり。元気にしてた?」
「この通り元気満々だよ。いつもユリの花をありがとうね」
向日葵「花瓶入れ替えるね」
「ああ、ありがとうよ」
―
「お婆ちゃん元気だった?」
向日葵「そうだね、すごく元気そうだった」
「話は聞いたんだろう?」
向日葵「何で…何で…最後の最後に私に行かせたの…」
「お婆ちゃんさ、最後くらい向日葵に会いたいなってずっと言っていたの。昔一緒に行っていたのを覚えてくれてたみたいでね。それでね、もう長くはないってこの間の往診で言われちゃったんだって」
向日葵「ずっとありがとうって言ってた…何度も何度も…」
「明後日お葬式だってさ。一緒に行く?最後にユリの花を餞に」
向日葵「うん…行く…」
「今日は最後まで私がやるからゆっくりしてな。明日からまた働いてもらうからさ」
向日葵「わかった…」
正直、お婆ちゃんとかが何を喋っていたかわからなかった。皺くちゃな手で頬を撫でられたりして正直、嬉しくはなかった。だけどユリの匂いがするあの手は好きだった。