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雪別れ道のモフモフ王  作者: 蘇 陶華
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春雪は、忘れた信仰を思い出させる

連絡があったのは、学校から帰宅した遅い時間だった。これからの受験に備えて勉強しなきゃとやっとやる気を出し、塾から帰宅した時だった。

「おじさんが見つかった」

顔色変えた母親が、帰宅するなり伝えてきた。

「とりあえず、お父さんは、新幹線で先に行ったから、明日の朝、早く出かけるから、準備だけして」

母親にそう言われて、桂華は、身の回りのものだけ、バックに押し込んだ。

「おじさんの家って、どこだっけ」

母親は、父親の兄にあたる叔父さんの事があまり、好きではない。確か、田舎の高校の教頭をやりながら、休日には、中高年向けの山岳ガイドをやっていた。山岳ガイドなんて、さすが、国の最高峰のあるN県らしいなと思いながら、叔父さんの自宅が何処にあるのか、覚えていない事に気づいた。幼い頃は、家族と何度か、行った記憶があるけど、物心ついてからは、母親があんな調子なので、最近は、行った事がなかった。叔父さんは、ずーっと独身だった。自然が大好きで、畑仕事をしたり、山歩きや季節の写真を撮り、自然の中で、生きていた。その叔父さんが、昨年、慣れ親しんだ山の中で、消息を経ってしまった。最初の2週間は、大勢の人達が、叔父さんの行方を探していた。届出を出していたに関わらず、どんなに探しても、叔父さんは見つからなかった。まるで、見つけるのを拒むように。日が経つにつれ、捜索する人数は、減って行き、最後は、もう生存していないだろうという事で、打ち切りになっていた。それから、凍りつく雪の時期が過ぎ、山々の木々が芽吹いた時期に、連絡が入った。

「沢に、人らしき頭がある」

丸まった雨具と頭の部分だけの骨。他は、熊にでも、持って行かれたのか、何もなかった。叔父の物と思われる充電のない携帯とカメラ。車の鍵だけだった。身元は、DNA鑑定待ちになるだろうけど、おそらく、その遺体は、叔父さんだろうと警察からの話だった。叔父さんは、愛していた山の中で、逝ってしまった。

「あなたまで、行かなくてもいいのに」

母は、不機嫌だった。時間があったら、勉強させたい気持ちと陰気な山奥に私を連れていくのが嫌だったようだ。私自身は、叔父さんが、山好きなのも理解出来たし、幼い頃、山で過ごした日々は、大事な思い出だた。漆黒の闇の中に、浮かんだ満点の星は、忘れないし、暗闇の中で、燃え踊る炎は、とても美しかった。

「落ち着くだろう」

火が爆ぜる音を聞きながら、叔父さんの話す山々の話に、時間が経つのも忘れて聞き入っていたものだ。

「ここの山はな・・」

叔父さんがよく言っていた。

「大神さんを大事にしていて。山で、何かがあったら、大神さんが、助けてくれることになっている」

「大神さん?って。狼?」

叔父さんは、笑う。

「狼の姿をしているけど、大神さんは、神様なんだよ」

「え?何?ややこしい」

「今にわかるよ。道に迷った人が、何人も助かっている。決まりさえ、守れば、助けてくれるんだ」

「決まりって?」

「大きくなったら、わかるよ」

叔父さんは、それ以上は、教えてくれなかった。

「桂華!起きて」

私は、うたた寝していたらしく、新幹線から乗り換えたバスの最終停留所で、ようやく、目が覚めた。母親と一緒に飛び降りたのは、寂れたバス停留所で、人影が、まばらの山間だった。

「さあ!歩くわよ」

普段、歩く事の嫌いな母親の気合いの入った声を聞いて、これは、大変な事になったと覚悟を決めた。

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