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殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~  作者: 雪野湯
第二幕

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第二十四話 名門フォートラム学院

 意識を歴史や技術から切り離して、学院の出入り口となる場所へ顔を向ける。

 そして、望める範囲で学院の姿を確かめた。


 学院の四隅に配置された50mはあろう細身の白い石塔。

 正面には翼を広げるかのように扇状に広がる五階建ての建物。これが学院の本体。


 濃い青色の屋根を持ち、白い外壁にずらりと並ぶ窓たち。

 その姿は古い西洋のホテルを彷彿とさせる。

 建物正面には広々とした玄関らしき場所。そこは吹き抜けで玄関扉などはない。

 

 学院本体の右と左の端には同じく、濃い青色の屋根と白い外壁を持つ二階建ての建物。

 職員用の建物か? 事務所か?

 なんにせよ、本体同様立派な造りだ。



 学院の本体正面には巨大な花壇。それが道を真っ二つに分けて、車線として表している。

 車線の外側には歩道と街路樹。その奥には緑の絨毯と木々たち。かなり緑の多い表広場だ。

 車道の幅は馬車一台が通る程度で、普段は歩行者天国と化している雰囲気を漂わせる。

 今は授業中なのか、人っ子一人見かけない。

 


 学院の中から幽かな歌声が届いて耳をくすぐり、裏の方からはなんらかのスポーツに興じる声が響く。

 裏手は運動場か?


 俺がきょろきょろしている間にルーレンは出入り口傍にある小さな警備の詰め所に小走りで向かい、戻って来た。


「すでに話は通っていますので、警備の方から臨時の許可証を貸与してもらいました。まずは復学の手続きを向かって右手の事務所で行い、次に学院長室に向かい、学院長に御挨拶の予定でしたが、今すぐにはできないそうです」

「あら、それは何故ですの?」


「担当の事務員が席を外しているため、戻ってくるまで小一時間ほどかかるそうです。さらに、学院長は急用ため不在だそうです。ですので、ご挨拶は後日になってしまいます」

「そうですか。では、時間が空いてしまいましたわね」

「警備の方は事務所でお待ちになられては、と仰ってくださっています。もしくは、学院近くの茶店か学院の食堂でお待ちになられては、と。シオンお嬢様、どうなさいます?」

「そうですわねぇ……」

 

 学院をちらりと見る。

「……せっかくですから、空いた時間に学院の周囲を見て回りたいですわね。迷わないように、今のうちに大まかでも把握しておきたいですから」

 

 本音は迷わないようにじゃなくて、万が一の際に細かく道を把握しておきたいだが……。

 警備員にこの(むね)を伝え、俺はルーレンと共に学院の敷地内を見学。馬車は俺たちの荷物を預けるために事務所へ。荷物は後でルーレンと学院の使用人が運んでくれるそうだ。

 その後馬車は、ネヴィスにあるゼルフォビラ家所縁(ゆかり)の屋敷へ。そこで待機となる。



 というわけで、徒歩で敷地内を歩いていく。

 まずは外周に沿って歩く。整備された自然が広がる隙間を縫う赤レンガの小道を歩き、学院の右横、東側に向かう。

 

 そこには三階建ての大きな建物。これが学生が寝泊まりすることになる寄宿舎(きしゅくしゃ)というやつらしい。ざっくり言えば、学生の寮だ。

 屋根の色と外壁は学院本体と同じ。


 学生寮と言えば、二人で一部屋を使ってる感じだが、このフォートラム学院は一人一部屋。

 おかげさまで四六時中、シオンの仮面を被らなくて済む。


 この寄宿舎は学園の左側……西側にもあって、双方を併せて300人が住んでいるとか。

 住んでいるのはある一定以上の階級の人間だけであり、ここに入居できるということは特権階級という証明でもある。

 この300人は全て女子生徒で、男子生徒の寮は街の方にある。


 おそらくだが、良家のお嬢様揃いのため学院で守っているのだろう。

 男どもは知らん、と言った感じか。どこの世界も治安面や衛生面となると男の扱いは雑だな。


 話を戻そう。

 このフォートラム学院には中等部から高等部・専門高等部が併設されており、通う生徒の数は多く、町から通う生徒は1500人。寮生活者と併せると生徒数は1800人。



 初等部も存在するが、それはここから離れた町の西にある。

 大学の方は町の南にあるフォートラム大学第二分校と皇都のフォートラム大学の二校があり、学士以上の肩書きを望む者たちはそこへと通うことになる。

 


 また、寄宿舎のそばには二階建ての簡素な建物が付随しており、そこは各貴族の使用人たちが待機する場所。


 今は寄宿舎には入らず、素通りしてさらに外周を歩く。

 学院の北東隅にある塔が目に入る。

 表面はつるりとしていて何のとっかかりもない真っ白な細身の石塔。


「ルーレン、あの塔は? 学院の四隅にあるようですが?」

「昔に作られた結界用の塔です。このネヴィスはサーディアと三領地の境界線にありますから、皇国サーディアは三領地からネヴィスを守るためにあの塔を作ったそうです。今ではただの飾りですが、機能そのものは失われていないという話です」


「街に壁はなくても、いざというときはあの塔で街を守ることも可能というわけですか」



 道を歩み、学院の裏、北側へ。

 北側には広々とした運動場。隅には二階建ての体育館。面積も高さも日本の体育館の倍はありそうだ。二階は室内プールになっているとか。


 運動場では学生と思わしき男女が白いトレーナーに赤色のハーフパンツ姿で運動を行っている。

 俺はハーフパンツを見て思う。


(なんでくそダサかぼちゃパンツじゃないんだ? ルーレンは運動用にそれを渡してきたのに……)

「ハーフパンツなんですわね? かぼちゃと違って……」

「へ、かぼちゃ? あ、運動着のことですか? フォートラムでは流行を取り入れてハーフパンツになったそうです。最近は他の学校にも広がっているそうですよ」

「そうですか。その流行(はや)り、もう少し早ければよかったのですけどね……」

「はい?」



 運動場を横切り、学院本体西側にある寄宿舎へ。

 建物の外見は東側と変わらないが、少々古ぼけた印象を受ける。

 実際にこちらの方が古く、伝統的に貴族の中でも上位中の上位クラスの生徒しか住めない。

 そのため、東側と比べて生徒数は少ない。

 これに加え、ここには最上位クラスしか住めないので、ゼルフォビラ家の人間である俺はおのずとこの寄宿舎を利用することになる。


 さらに、この寄宿舎には皇族もいるという話だ。

 ってことは、元のシオンをいじめてた奴もいるということ。

 魔法使い候補の皇族でいじめっ子……シオンと同じクラスの女生徒らしいが、どんな奴なんだか。



 西の寄宿舎の裏側を回り、赤レンガの道を歩いて、学院本体の表側に戻ろうとした。

 その途中で、寄宿舎のそばに足場が組まれ、歩道を挟んだ植木側に資材が山積みにされている場所へ通りかかった。

 植木の方は根っこを養生されて、別の場所に追いやられている。

 

 足を止めて、足場を見上げる。

 三階の壁に大穴が開いており、白い布でそれを隠しているが、風にたなびく隙間からは階段エントランスが丸見え。


「工事中?」

「おそらく、修繕工事かと。西側の寄宿舎は伝統が深いため、修繕が必要な部分が多いと聞きます」

「わたくし、ここに住むのですのよね?」

「はい、ゼルフォビラ伯爵の次女であらせられるシオン様の家格は(とうと)いものですから、この伝統ある西側の寄宿舎に部屋がご用意されておられます」


「はぁ、伝統よりも新しい東側の寄宿舎に住みたいですわね」

「内部は新しいそうですよ」

「そうは言いましても、人があっさり落っこちてしまいそうな大きな穴の開いた壁とそこから見える階段の姿を見ては、あまり期待が持てませんわよ」

 


 修繕個所へ瞳を寄せる。

 足場は金属製で丈夫そうで、たなびく白い布の隙間から見える修繕箇所にはびっしりとした立入禁止の札が見え隠れしているが、肝心の穴の部分には白い幕のみと安全管理がずさんのように見える。


 しばしそこを眺め、次に、植木近くに積まれた資材へ視線を移す。

 余った足場の道具に修繕用の道具。そこには、青い布が掛けられている。


「道具類はありますが、工事の方々がいらっしゃいませんわね?」

「たしかにそうですね。休憩の時間にはまだ早いですし、一体どこへ?」



「それはね、風呂やトイレなどの水回りの配管に不具合が出たから、そちらの工事を優先して、一時工事がストップしているんだよ」


 不意に、背後から青年と思わしき声が響く。

 俺とルーレンは揃って後ろを振り返る。

 青年は長めの金色の髪を風に流し、琥珀色の瞳をこちらへ向けて微笑む。


「やぁ、久しぶりシオン。戻って来たんだね」

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ふふ、殺し屋令嬢と併せて、現在連載中の作品ですのよ。
コミカルでありながらダークさを交える物語

牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

お手隙であれば、こちらの作品を手に取ってお読みなってくださるとありがたいですわ。
それでは皆様、ごめんあっさーせ!
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