妻の浮気 夫の葛藤
妻の浮気が発覚した時のちょと変った男の行動を想像で書いてみました。
誰も読でくれるヒトいないと思うので、適当です。
現実はもっとドロドロしていると思います。
「結論から言いますと、残念ながら奥様はクロです。」
目の前の男は、事務的に妻の不貞行為、つまり浮気の調査結果を報告してくれた。
あまり広くない興信所の一角、パーテーションで仕切られた商談スペースのテーブルの上に、報告書と数枚の写真が広げられている。
「後、会話も録音できました。報告書はPDFで、画像画像と音声のデータと一緒にこのメモリに入っています。」
そういって、USBメモリを写真の横に置いてくれた。
「会話をお聞きになりますか。」
報告書に目を通していた私に聞いてきた。
「ああ・・・はい、お願いします。」
テーブルの端においてあったPCから男女の艶っぽい会話が流れ始めた。
事の発端は、ちょっとした違和感からだった。
四つ年下の妻の、ちらっと見えたピアスの色がなんとなく気になった。
「きれいな色のピアスだな。」
何気に、本当に何の他意もなく、妻に聞いてみた。
「そう。ただの安いイミテーションなのよ。」
慌てて耳を手で隠す仕草をした。
青紫色の石が入ったそれは、とてもイミテーションには見えなかった。
これが始まりだった。
「もしよろしければ、こう言った件に詳しい弁護士を紹介いたしますが。」
「こういった件・・・」
無意識に眉間に皺をよせて、聞き返した。
「ええと・・離婚問題とか、そう言った案件が専門という感じの弁護士です。」
"成程、こう言った事務所には提携している弁護士とかいるんだろうな。バックマージンとか紹介料とかあったりするのかな。"心の声は口には出さなかった。
「ええ、是非お願いします。」
私は普通のサラリーマンだ。弁護士に知り合いがいるはずなど無かった。
「わかりました。」
私が途方に暮れて、資料を眺めているだけのように見えたのかもしれない。
彼は、その場で弁護士に携帯で連絡を入れて、あっという間にアポを取ってくれた。
「まあ、これから面倒な事がいろいろあると思いますが、頑張って下さい。
御利用ありがとうございました。」
調査費用を払って、事務所を後にした。
"またのお越しをお待ちしております。"とは言わなかったなと、妙なところに関心した。
二日後、弁護士事務所を訪ねた。
女性の先生だった。
証拠資料は揃ってるので、こちら側の勝利は間違いないと、彼女は言ってくれた。
私は彼女に依頼する事にした。正直、別の事務所を回るのが面倒だった。
「で、どのような方針で進められますか。」
先生は、話を進め始めた。
「方針と言われましても・・・・」
うーんと唸る私を見て、先生が少し笑った。
寝取られ男は、どこまでも歯切れが悪いのだ。
いや、優柔不断だから寝取られるのか。
「浮気が確定した時点で、方針を決めている方は結構います。怒りでどうにもならないとういう方もいらっしゃいます。貴方の様に冷静な方のほうが稀です。」
「まず奥様と今後どうされるのか。離婚されるかどうか、婚姻関係を継続されるのか、お考えにになってみてください。もちろん、今決める必要はありません。」
「次に慰謝料についてですが、奥様と奥様の相手の方に請求可能です。」
先生は優しく、言い含める様に説明してくれた。
「あと、浮気相手に社会的制裁をと下したいと希望される方もいらっしゃいますが、私としては、これはあまりお勧めできません。」
先生は、浮気相手を過剰に追い詰めた場合の危険性について説明してくれた。
相手の職場に乗り込んで騒ぎを起こせば、勤務先はなんらかの形で処分を下す可能性が高い。もしかしたら、会社を辞めざるを得ない形に持っていけるかもしれない。
しかし、何もかも失った浮気相手が逆恨みし、依頼者の身を害するような行動を起こす可能性がある事等、一時的に復讐心は満たされるかもしれないが、今後の人生に少なからず悪影響を及ぼすだろうと。
”ナンダ コレジャ ヤラレッパナシ ダナ・・”
恐らく私と妻の関係は、これまで通りとはいかないだろう。
いや、そもそも関係すらなくなる公算が高い。つまりは離婚するという事だ。
私の中で、どす黒い感情が生まれてくるのを自覚する。
「離婚するかについては、まだわかりませんが、とりあえず別居しようと考えています。
慰謝料についてですが、相手の方に500万プラス経費の半分、妻の方も同じで500万プラス経費の半分、離婚するなら財産分与は無しで請求しようと思います。」
思わず言ってしまった。
「慰謝料の件はわかりました。早急に、内容証明郵便を奥様の相手の方に送付します。」
先生が言うには、相手は裁判まではしたくないだろうから、満額は獲れないかもしれないが結構いい線までいけるのではないかとの話だった。
「奥様には・・・」
「私の方から話をします。」
「では、連絡をお待ちしております。」
先生が淡々と事務的に話してくれたのが有難かった。
着手金を払い、事務所を後にした。
「お前、浮気しているだろ。」
土曜の朝、唐突に私は朝食の準備をしている妻に話しかけた。
「え・・・」
妻は驚いて目を僅かに見開いたが、直ぐに普段の顔に戻った。
私は妻の顔が大好きだ。この瞬間でさえも見惚れてしまう。
手招きして、ダイニングチェアに座る様に促した。
「この会話は録音しているよ。」
小さなICレコーダーをテーブルの上に置いた。
「で、どうなんだ。」
「調べたの。」
妻が落ち着いた声で聞き返してきたので、頷いた。
調査資料の入ったB5サイズの封筒を見せる。
「もう、弁護士も頼んだよ。」
私の返事に、妻は静かに笑った。
「そう・・・じゃあ、もう詰んでるって事ね。」
「そうかもな・・・ いつからなんだ。」
「半年ぐらい前かな。」
録音はこのぐらいでいいと思った。レコーダーをオフにした。
「じゃあ、実家まで送るわ。荷物、準備しろよ。あぁ・・彼氏ところの方がいいか。」
私がそう言うと、妻が少し顔を歪めた。
「嫌な事を言わないでよ・・・」
妻は席を立ち、奥の部屋に消えていった。
"少し嫌味だったかな。 まぁ・・このくらい許してくれよ。"
そう思いながら窓の外の景色を眺めていた。外はいい天気だった。
「準備できたわよ。」
一時間程して、部屋からでてきた。
荷物は、SSサイズのキャリーバック一つだった。
「これ、返しとくわね。」
そう言って、テーブルの上に通帳、印鑑、キャッシュカード、クレジットカードを置いた。
"そうだった。これ回収しとく奴だった。"
私は自分の迂闊さが少し恥ずかしかった。
「荷物は改めないの。こっそり大事な物もっていくかもしれないわよ。」
妻が悪戯っぽく笑って言った。
「そんな事、しねぇよ。それよりも、もう少し話がある。」
今日以降は弁護士を通して連絡するので直接は接触しない事、車は処分する事、妻の残り荷物は彼女の実家に送る事、荷物が片付いたら引っ越す事など、思いついた事項を言った。
予め言う事を考えていたのだが、いざとなったらこの有様だ。
「これが弁護士の連絡先だ。」
先生の名刺を妻に渡した。
「そう・・じゃあ、悪いけど最後に送ってくれる。」
じっと名刺をみていた妻は、顔上げてこう言った。覚悟を決めた顔つきに変ったと思った。
いつも未練があるのは男の方だ。
「まだ、ある。もう一つあるんだ。」
私はジャケットの内ポケットから細長い小包を取り出し、テーブルの上に置く。
「これ、持って行ってくれ。捨ててくれても構わない。」
「開けてもいい。」
小包を暫く見ていた妻が、聞いてきた。
私は何も言えず、彼女の顔を見ていた。
「開けてもいいよね。」
箱の中身はチョーカーだ。ネックレストップに深い青紫色の大粒のタンザライトと周り小粒のダイヤを組み合わせたオーダーメイドだ。知り合いの宝飾店の親父に無理を言って仕上げてもらった。
"驚いた顔は、今日二回目だな・・" 私の好きな顔だ。
「君の誕生日は12月だから。 俺が持っていてもしょうがないしな。」
「これ、つけてくれる。」
妻はそう言って、私の手を引き姿見の方へ歩いていく。
妻の後ろに立ち、ちょっと屈んで手を回して、それを彼女の首につけ、肩越しに前の鏡を見た。
驚いた事に、妻は泣いていた。
「何で泣いているんだ。」
「あなたが泣いているからよ。」
自分の顔に手を当てると、涙と鼻水でべとべとだった。
「すまんな、最後まで締まらなくて。」
涙が溢れて止まらなかった。
「だいじょうぶよ。そういう貴方が好きだったの。一番好きだったの。」
私は、泣きながら無言で何度も何度も頷いていた。
二か月後、浮気相手とは示談が成立した。
直接、私の携帯に電話がかかってくる事が何度かあったが、その度に弁護士を通してくれといって取り合わなかった。先生からは、慰謝料があまりに高すぎると言っている、との報告を受けていた。私が、なら裁判になっても構わないと、先生を通して相手に伝えると、結局こちらの要望を全て飲んだ。
妻の方はもっと早かった。
先生との一回目の話し合いで、慰謝料等の請求を全て受ける言ったらしい。
但し、条件を一つだけ付けた。私との離婚は絶対しないと言う条件だった。慰謝料を払っている間は別居でいいが、払い終われば関係の再構築を望むというものだった。
"なら、何で浮気なんかしたんだよ。"
これが私の正直な感想だったが、結局、妻の条件を飲んだ。
しっかり、公正証書を作成させられた。
「これで良かったんじゃないですか。」
最後に、先生がそう言ってくれた。