紅茶、日焼け止め、ヘッドホン
難産でした(笑)
買ったばかりの新品のヘッドホンで、十年来のお気に入りである、売れないバンドの曲を聴く。ものすごく下手くそだけれど、そのゆるさが癖になる風変わりなバンドだ。
ルーズなドラムに、潔いほどにシンプルなギターのカッティングが重なり、遊びがちなベースラインが乗る。その時点でかなり気持ちいい。これにマンドリンの郷愁を誘うコードと、アコーデオンの柔らかい音が、独特の色合いを描いてゆく。
ボーカルも決して上手いわけではない。けれど、幼女のようなその声は、このバンドの作り出す空気に良く似合う。
強いて言うならば、紅茶で染めた優しい色合いのスカートのようなバンドだ。風に吹かれてふわりと広がる。もちろんウエストはゴムだ。楽チンが似合う。それでいて、しっかりとロックバンドなのが面白い。
「売れなかったなぁ」
私の好きになるバンドは、たいていメジャーシーンとは別の道をゆく。
「でもやっぱり、すごく好き。新曲も良い味出してる!」
元々、ハングリーさとはかけ離れたバンドだったけれど、激動の時代を飄々と歩き、今も変わらずふらりとライブハウスに現れる。
私はそんな彼女たちの演奏や曲が好きで、自主制作CDのジャケットや配布用のチラシ、配信サイトのイラストを描かせてもらっていた。そのうちに絵を描くことに夢中になり、今はそれが仕事になった。
人生何がどうなるか、本当にわからないものだ。
今日は彼女たちのバンドの、久しぶりのレコーディング。もちろん自主制作だ。
十年の間に私も彼女たちも、全員が結婚して子供が生まれた。まだ小さい子が多いので、私は今日は子守り要員だ。スタジオの隣にある公園で、子供たちを遊ばせる。
天気は上々。春先だというのに日差しがキツくて、日焼け止めを塗って来なかったことが悔やまれる。
元気いっぱい走り回る子供たち。そろそろ疲れて寝てくれるとありがたいんだけどなぁ。スタジオの方を覗きに行きたい。
私は音楽的に関わることは、今までも、そしてこれからもないだろう。けれど、彼女たちの作り出す音楽を、一番近くで一番最初に聞く存在でありたい。
世界の片隅で、ほとんど誰も知らないミュージシャンが、それはもう楽しそうに遊んでいる。私にとっては、それがとても重要なことなのだ。
全七作。頂いたお題を全て書き終わりました。軽い気持ちではじめた企画ですが、思いのほか楽しく書けました。そしてとても勉強になりました。
また時間のある時に、お題募集して書いてみたいと思っています。感想欄でも受け付けますよd( ̄  ̄)
三つのワードでリクエストして下さいね!
すぐに書くと確約は出来ませんが(笑)