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小学生男子、牛丼、お留守番

 ある朝子供たちが目を覚ますと、町中から大人がいなくなっていた。


 大人だけじゃない。小さい子たちと中学生や高校生もいない。つまり、残っているのは小学生だけということだ。一年生から六年生まで。全ての小学生以外の人間が、この町から姿を消してしまった。



 小学校六年生の航介はいつも通り目覚まし時計の音で起きて、妹を起こしてから階段を降りた。


「おはよう」


 リビングに声をかけても返事がない。いつもなら両親が揃っている時間だ。テーブルの上には妹の美弥と航介、二人分だけの朝ごはんが用意されていた。


「おかーさん?」


 美弥は母さんを呼びながら、リビングを出て行った。航介は席に座って先に食べることにした。


 キッチンでは、家中で一番大きな鍋がくつくつと音を立てている。お肉の煮える匂いを、ニンニクと生姜が追いかけるようにふわりと漂って香る。


(やった! 今日の晩ごはんは牛丼だ!)


 大好物の匂いに、思わずテンションが上がる。


(一杯目は七味唐辛子をかけて食べて、おかわり分は温泉卵を乗せて食べよう)


 今から煮込めば、きっと牛肉がトロトロに柔らかくなる。


「ねぇ、おにい。お父さんもお母さんもいないみたい」


 美弥が少し不安そうに言う。家中を探して来たらしい。


「鍋かけっ放しだし、すぐ帰って来るだろ? 美弥もごはん食べなよ。遅刻するぞ」


「うん……」


 甘えん坊の美弥は、両親がいないことが気になって仕方ないみたいだ。


「コンビニでも行ってるんじゃない?」


 航介が半熟の目玉焼きの黄身を、ごはんの上に乗せながら言った。それを味のりで包んで食べるのが、目玉焼きの一番の楽しみだ。


 けっきょく両親は、二人の通学時間までに戻って来なかった。仕方ないので鍋の火を消して、家の鍵をかけてから美弥を連れて家を出る。


「おにい、カギかけちゃったら、おかーさん家に入れないんじゃない?」


 美弥が前髪をいじりながら、不服そうに言う。


「仕方ないだろ? 戸締りしないで出かけるわけにいかないよ」


 航介が苦労の末に仕上げたポニーテールが気に入らないみたいだ。


(だったら自分でやればいいのに……)


 そもそも三年生にもなって、自分で髪の毛もしばれないなんて、恥ずかしくないんだろうか?


 航介は美弥が嫌いなわけではない。むしろ兄妹仲は良く、可愛いと思っている。けれど、両親にべったりと依存するような美弥を見るとうんざりする。


「今日は授業三時間目までだろう? お昼前には帰れるから大丈夫だよ」



 そんな風に、いつもと少しだけ違う朝だった。けれど、徒歩十五分の学校へと着く頃には、それは全然『少し』なんかじゃないことに気がついた。


 自動車が一台も走っていない。歩いている人が少な過ぎる。スーパーは閑散としてしているし、保育園の園庭にも小さい子の姿が見えない。


(あれ、今日って祝日だっけ?)


 そんなことを考えてしまう。違和感は小さくなかった。


 学校が見えて来ると、校門の前に人だかりが出来ていた。門が閉まっていて入れないみたい。


「おーい、航介! こっちこっち!」


 仲の良いクラスメイトの和希に声をかけられた。


「おはよう。どうしたの? 校門」


「わかんねーよ。おれも来たばっかり。さっき川本たちが、校門乗り越えて先生呼びに行った」


 さすがはクラス委員の川本くんはしっかりしている。「このまま、学校が休みにならないかなぁ」としか考えていなかった航介とは大違いだ。


「なぁなぁ航介、朝テレビ見た? うちのテレビ壊れちゃったみたいで、映らなかったんだよ」


「今朝はテレビつけなかったな。うちの親いなくてさ。美弥が落ち着かなくて、それどころじゃなかったよ」


 少し離れた場所で友だちと話している、美弥のポニーテールを眺めながら言った。美弥が言うほど悪くない仕上がりなのになぁと、航介は思った。


「あ、そういえばうちの親もいなかったよ」


 和希の言葉に、周りの何人かが反応した。


「えっ、うちは両親も妹もいなかったよ!」


 みんな口々に、理由もわからない状況で、両親や小さい妹がいなかったと言う。


「僕んち、姉ちゃんと弟もいなかった」


 全員が黙り込んで、顔を見合わせた。こんな偶然があり得るのだろうか?


「先生、誰もいなかったよ」


 校門を乗り越えて、先生を呼びに行っていた川本くんたちが戻って来て言った。もう授業がはじまる時間はとうに過ぎている。


 校門の前にいた全員が、一瞬黙り込んだあと、一斉に喋りはじめた。「やった! 今日は休みだよな? 遊びに行こう!」と喜ぶ男子、「なになに? どーしたの?」と、戸惑う下級生たち。


「僕たちは、もう少し待ってみるよ」


 川本が航介たちに向かって言いながら、続けて大きな声を出した。


「みんな聞いて! 一旦解散しよう。五、六年生は、近所の小さい子たちを家まで送ってあげて。家に大人がいなくて、困った人は僕に連絡して。電話でも、学校の雑談サイトでもいいよ。連絡先は……」


 テキパキと指示を出す。川本くんはすごいなぁ。将来が楽しみだよホント。


 航介が尊敬の目で眺めていると、パチリと川本と目が合った。


「気になることがあるんだ」


 航介が言うと、川本は黙って頷いた。


「あと三十分待って、そのあと航介の家に行っていいかな?」


「うん、和希も来いよ。牛丼、山ほどあるぞ」


「行く行く! 俺、朝メシ食ってないんだ。母さんいなかったから」


 小学生男子は、食べ物かゲームでほぼ必ず釣れる。それは、航介も例外ではない。



 この日航介たち小学生の、長い留守番がはじまった。




ちょっとコレ、面白そうなんで続き書きます。企画とは少しズレますが、第一話とさせて頂きますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは続編が楽しみです! 想像が膨らみます!!
[一言] 〉この日航介たち小学生の、長い留守番がはじまった。 連載化したら面白くなりそうですね! 物語の方向性やプロットの難易度は高そうですが。
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