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一人反省会

作者: 柿畑 紫慧

重い病気を、患っている。その名も、コミュニケーション障害。よく聞く単語だ。というかこの障害を持ってないという人間の方が逆に珍しいまである。まぁ、「自称コミュ障」の何割が本当にコミュ障なのかは怪しいところなのだけれども。

経験則的に、自己紹介で「コミュ障です」という人間はほぼ確実にコミュ障ではない。あれはシンプルに「話しかけてもいいよ」の表現方法の一つでしかないから。ああやって道具にしてしまう人間がいるから、僕みたいなガッチガチのコミュ障はますます肩身が狭くなってしまう。


いつもより少しだけ早くバイトに来てしまった。控室をそっと覗く、ああ、パートさんが一人。

「あ、おはよう!」

「おはよいうございます。」

めざとく見つけられて挨拶までされてしまったので「回れ右をしてその辺で時間を潰す」という選択肢が消えてしまった。仕方なく荷物を置いて、パイプ椅子に座る。ギシリ、と音がした。


「今日は早いね。どうしたの?」

ほら見たことか。案の定、話しかけてきた。だからこういうコミュ力の塊みたいな人間は嫌いなんです。人と会話することがどれだけ疲れるかを、てんで理解していない。

「あ、いつもよりバスが早くついたので…。」

「そっか、車じゃなくてバスだもんね。免許は?あるんだっけ?」

「はい、一応は。車がないですけど。」

「そうだよね〜、学生で車買うって難しいもんね。」

いらなくないですか、この会話。僕の情報を取得してあなたになんのメリットもないでしょう?

「え、免許はいつとったの?」

「えーっと、去年の春です、合宿で…。」

「そっかそっか。うちの息子もさ、「免許合宿行く」とか言ってて。『え?あんたが運転するの?』って。」

「ハハハ…。」

精一杯の愛想笑い。そして沈黙。仕方ないじゃないですか、僕にできるのはこれが限界です。話題を広げる手段が存在しない。

そうこうしているうちに時間になり、出勤の準備でパートさんも僕も席を立った。ほっと一息をつく。



よく会話というのはキャッチボールに喩えられる。全くもって言い得て妙だな、と毎回思う。運動神経が普通の人たちは、なんの難しさもなく、楽しくボールを投げ合える。僕みたいなコミュ障は、まずボールが取れない。次に、なんとか取れたとしても、ボールを投げ返せない。で、一人反省会。よれよれの見えないノートに書き込んでいく。相手が帰った後に一人で壁とキャッチボールしてる時が一番楽しいていう、アレです。


「さっきの会話の最後、どう考えても息子の話に振って欲しいフリでしょ。なに気持ち悪い愛想笑いで終わらせてるの!」

「…。」

自分の中で誰かが言う。はいはいそうだね、ゆっくり考えれば、こう言ったことも思いつかないわけではない、けれども。投げ返しても違う方向に飛んでいってしまうのが怖いから、じっと俯いて立っているだけ。気まずくなるよりかは、幾ばくかマシだと思うから。


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