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095.精霊術士、テーマパークを満喫する

 さて、聖塔攻略を目前に控え、期せずしてやってきた休息期間。

 僕ら極光の歌姫5人は、悠然と聳えるテーマパークという施設へとやってきていた。


「す、凄いですね……!! 乗り物がいっぱいです、師匠!!」

「う、うん……」


 目の前の華やかな情景に、正直僕も驚いていた。

 王都に来たのは、僕も初めてではないが、さすがに都会だけあって、様々な娯楽がある。

 カジノもそうだし、ボウリングなんかもそう。

 でも、このテーマパークというやつは、ちょっと今までの娯楽施設とは規模が違っていた。

 広い。そして、一つ一つの乗り物がでかい。

 ちょっとした街と同程度くらいの大きさがあるのではないかと思える園内には、それこそドラゴンと見間違うほどの大型の乗り物がいくつも並んでいた。

 回転する木馬や、ものすごいスピードでコースを行く鉄の箱。さらには、水しぶき上がる船など、なんだかお話の中に入ったかと錯覚するような夢のある乗り物ばかりだ。

 それこそ、子どもなんかは、この空間にいるだけで、ワクワクしてしまうような。


「これは、オープンしたら、ものすごくたくさんの人が来そうだなぁ……」


 正直、これだけの施設だったら、僕らが宣伝する必要性もないような。

 同じことを思ったのか、チェルも僕の方へと視線を向けると、軽く肩を竦めた。

 おそらくだが、これはメロキュアさんなりの、僕らへの配慮なんだろう。

 仕事という名目ならば、僕らは後ろめたい思いを抱くことなく、この施設を十全に楽しむことができる。


「こ、これが、全部、今日は私達の貸し切りなんですね……!!」


 コロモのテンションは爆上がりだ。

 なんというか、彼女は、とても真面目だけど、こういうところは年相応なところがある。

 とはいえ、僕もワクワクしているのは事実だ。

 せっかくメロキュアさんが用意してくれたこの状況、存分に楽しませてもらうとしよう。


「順番に乗っていこうか。まず、何に乗りたい?」

「し、師匠、私、アレに乗りたいです!!」

「ふふ、私もコロモちゃんと同じのに乗りたいかな」

「ふむ。カラクリ仕掛けの乗り物というのは、少し不安だが……。いや、別に怖がっているわけじゃないんだ。ただ、私は、ちょっと慎重に……」

「いいから、行くわよ。セシリア」


 それから、午前中の間、僕らは、様々な乗り物に乗って回った。

 ゆっくりとした乗り物や激しい乗り物、色々なものがあったが、どれも初めて乗るようなものばかりで、新鮮な驚きの連続だった。

 こういったアトラクションというやつが苦手らしいセシリアさんは、途中でグロッキーになっていたが、僕らとしては、逆に彼女の普段見せない姿も見られて、そちらもちょっと新鮮だった。


「ふぅ……みんな、良く、こんな乗り物を楽しめるな……」

「あはは、セシリアさんは、乗り物苦手なんですね」

「どうやら、そのようだ……」


 若干だけ青白い顔をしたセシリアさんは、弱々しく笑った。

 

「私は、大丈夫だから、ノエルも、みんなのところに行っていいんだぞ」


 チェルとコロモとエリゼは、テンション高く、3人で、ジェットコースターというやつの2周目を楽しんでいる。

 こちらに手を振る余裕もあるくらいだ。

 姦しい女の子のテンションというやつが、なんだかとっても"尊い"感じで、きっとこの映像も、宣伝に使われることだろう。


「僕もちょうど休憩したかったんで、気にしないでください」


 ベンチに深く腰掛けたセシリアさんに、冷たい飲み物を手渡しながら、僕はそう言って微笑んだ。


「ふぅ、やはりノエルは、私にとって、まるで天使だな」

「それ、誉め言葉だと思ってます?」

「いいじゃないか。ノエルは私にとって、やはりかわいい存在なのだ。無論、ぬいエルもな」


 僕は、今日も普段のツインテールに、フリフリのロリータ服、そして、手にはぬいエル。

なんだか、この恰好も、いつの間にか染みついてしまって、もはや、これも1つの本当の自分だと感じている僕がいた。


「あ、そうだ!」


 僕は、そそくさと駆け出すと、近くにあった売店においてあった竜のぬいぐるみをテーマパークの職員さんから借りて戻ってきた。


「ほう、なかなかかわいらしいぬいぐるみだな」

「このテーマパークのマスコットキャラクターってやつらしいです。ドラゴンもこんな風に、デフォルメされると愛嬌がありますね」


 僕は、その人形を地面に置くと、そこにアリエルを降ろした。

 すると、竜の人形が楽し気に踊り出す。


「お、おおっ!」


 セシリアさんが、目を輝かせる。

 僕は、そのままぬいエルも地面に降ろすと、ドラゴンと妖精は一緒に手を取りながら、くるりと回転を繰り返す。

 テーマパーク全体で流されているBGMに乗るようにして、ひとしきりぬいぐるみ達のダンスを披露すると、元気のなかったセシリアさんはすっかり回復したようで、笑顔で拍手をしてくれた。


「いや、さすがだ。ノエル」

「もうすっかりぬいぐるみの扱いも慣れましたからね」

「思えば、ノエルとの出会いも、これがきっかけだったな」


 まだ、アイドル冒険者としての道を模索中だった僕。

 そのとき、僕なりの"かわいい"の指針をくれたのは、考えてみれば、セシリアさんだったのかもしれない。


「あの時、セシリアさんがぬいエルを譲ってくれなかったら、今の僕はなかったかもしれませんね」

「それは私も同様だ。人と人との出会いというのは、数奇なものだな」


 そもそもが、僕と入れ替わりで暁の翼へと入るはずだったセシリアさん。

 それが、今、こうやって同じパーティーでアイドル兼冒険者なんてやっているのだから、本当に、人生と言うのは何が起こるかわからないものだ。


「ノエル。私は……」


 ゆっくりと目を閉じると、セシリアさんは穏やかな表情で語り始めた。

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