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088.精霊術士、巨大トカゲと戦う

 ドスドスと足音を響かせてやってきたのは、巨大なトカゲのような魔物だった。

 硬そうな鱗に覆われたボディ。ドラゴンにも似ているが、羽はなく、2足歩行だ。

 手は極端に短いが、その頭には、攻撃的な牙から、よだれが大量に滴っている。


「結構強そうかも……」

「エリゼ、僕が前衛を張る。バフをお願い」

「うん!」


 普段とは逆に、僕がエリゼの前へと出る。

 すると、彼女の防御力と自然治癒力上昇のバフが、僕の身体を包み込んだ。

 まるで、直接抱きしめられているような温かさ。彼女の魔法には、どこか優しさのようなものが感じられる。


「チェルやセシリアさんほどはできないけど……!!」


 僕は、魔物へと駆け出す。

 武器はない。できるのは徒手空拳のみ。


「はぁ!!」


 普段、前衛にかけているバフを全力で自分自身にかけつつ、僕は手刀を繰り出した。

 鱗の何枚かが、剥がれ落ちるが、やはり大きなダメージは与えられない。


「やっぱり厳しいか……!!」

「グラァアアアアアア!!」


 噛みつき攻撃の軌道を風の防御壁でずらし、僕は2,3歩じさる。

 自然と巨大トカゲとにらみ合う形になった僕は、アリエルに大量の魔力を食わせた。

 そして、風の槍を空中に形成する。


「食らえぇ!!」


 そのまま、風の勢いで投擲。

 大自然の力をそのまま攻撃エネルギーへと転化した槍は、深々と奴の大腿部に突き刺さった。

 大量の血を拭き出しながら、巨大トカゲが転げまわる。


「よし、エリゼ、今のうちに……!!」

「ノル、だめ!!」

「えっ?」


 エリゼの声を聞いて、僕もようやく気付いた。

 もだえる巨大トカゲの後ろから、さらに10匹近くの巨大トカゲが、こちらへとやってくることに。


「そりゃないだろ……」


 サシでの勝負ならまだしも、元々前衛職ではない僕が、あの数のトカゲと戦うなんて不可能。

 この事態を切り抜けるには、精霊憑依を使うか、もしくは、逃げに出るしかない。

 しかし、1度、精霊憑依を使ってしまっている以上、2度目の変身が成功する確率は低いと言わざるを得ない。

 だからと言っても、逃げても、生存率はそれほど高くはないだろう。

 一瞬の逡巡。迷う僕の手を引いたのはエリゼだった。 


「逃げよう。ノル!」

「あ、ああ!!」


 エリゼに手を引かれ、僕らは逃げる。

 アリエルの力を借り、素早さを極限まで上げる。

 そうして、ようやくあのトカゲどもとほぼ互角のスピードまで上げることができた。

 あんな巨体のくせに、相当な速さだ。特級ダンジョンに出没する魔物なだけはある。

 ただ一度、コケでもすれば、アウト。

 そんなギリギリの状況の中で、僕ら2人は必死に逃げた。

 だが、上れば上るほど、徐々に足場は悪くなっていく。


「あっ……」

「エリゼ!!」


 そうして、ついに、エリゼの足がもつれた。

 僕は、横転しかける彼女の身体を必死に支える。

 しかし、その一動作の遅れが命取りだった。

 もっとも近くにいた一匹が、僕らを一飲みしようと、大きく口を開く。

 その……時だった。

 空中から聖剣が飛来し、巨大トカゲの脳天に突き刺さった。

 その一瞬後、今度は避雷針に降り注ぐ落雷の如く、人の影が聖剣の柄の先を蹴り抜いた。

 ただでさえ、突き刺さっていた剣が、ズボリと根元まで突き刺さる。

 その瞬間、巨大トカゲは声さえあげずに絶命した。


「ふぅ、間一髪だったわね」

「チェル……!!」

「チェルシー!! 後ろから、まだ、来ます!!」

「大丈夫よ」


 チェルの言葉通り、後続の巨大トカゲたちに、巨大な火球がいくつも降り注いだ。

 コロモのファイヤーボールだ。

 怯み、炎焼状態にある巨大トカゲたちを、さらにセシリアさんが、槍で一撃のもとに屠っていく。

 1分もする頃には、魔物達の死体の山が出来上がっていた。


「助かったよ。みんな」

「2人とも無事で、何よりだ」

「心配しました! 師匠、エリゼさん!!」

「ごめんなさい、コロモちゃん。私がドジを踏んでしまって」

「むしろ、ドジ踏んだのは、敵の特性も見抜けず、魔法を撃った私ね。危険な目に遭わせてすまなかったわ」


 チェルに頭を下げられたエリゼが恐縮するように頭を振る。


「ううん。初めてのダンジョンではよくあることだから。それに、ちょっと良い思いもできたし……」

「ん? ちょっと良い思い……?」


 しれ~と、チェルが僕の方へと視線を向けてきた。

 まるで、僕に、何かやったのかと言わんばかりに。


「別に何もないよ」


 ちょっと抱きしめられただけさ。ちょっとね。


「まあ、いいわ。その辺りは、また、追及するとして……」


 チェルが空を見上げる。

 気づけば、いつの間にか、夕刻に差し掛かっていた。


「そろそろ、野営の準備を始めないとね」

「このもう少し上に、ちょうど落ち着けそうな岩場がありました」

「あそこなら、周囲の警戒も容易だろう」


 3人に連れられる形で、僕とエリゼは、本日の野営場所へと移動したのだった。

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