表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/123

086.精霊術士、特級ダンジョンに挑む

 これまでのダンジョンと違って、特級ダンジョンは、街からそれなりに離れた場所にある。

 僕らは、1週間をかけて、遥か大陸の西にある、竜凰山脈までやってきていた。

 この山脈の一部が、僕らがこれから挑戦することになるダンジョン、天空の架橋と呼ばれている。


「一応、予定としては3日だったな」

「ええ、3日での攻略がベスト。でも、5日までは余裕を持たせておくわ。どちらにしろ、今回は転移結晶を使って帰るから、マネージャーは、先に事務所に戻っていて」

「ああ、お嬢。お前ら、気をつけて行けよ。また、次のライブが控えてるんだからな」

「わかってますよ。マネージャーさん」

「帰ったら一杯やりたい。マネージャー、良い酒を用意しておいてくれ」


 セシリアさんの言葉に、後ろ手を振って返すと、マネージャーさんは、幌馬車へと戻っていった。

 さあ、いよいよ、攻略開始だ。

 眼前に聳え立つ紫紺の光を放つゲート。

 ここをくぐれば、いよいよ天空の架橋への攻略を開始したとみなされる。

 僕らは、アイコンタクトを取ると、全員で、一斉にゲートをくぐった。

 その瞬間、僕らは、攻略者として認識された。

 ここからは、常時、魔物に警戒して進まなければならない。

 そんな中でも、チェルは、空中に放り投げた魔動カメラに笑顔で手を振っていた。さすがの余裕だ。


「今回は、生放送じゃないんだよね?」

「ええ、さすがに街から距離が遠すぎるからね。それに、3日間の様子を流し続けても、よっぽどのファンの人以外は、ずっと張り付いて見るなんてできないもの。素直に後で、編集して、後日放送って形になるわ」

「そっか」


 生放送だと、色々気をつけないといけないことも多いが、編集が入るなら、少し気が楽だ。

 多少、男っぽい発言や行動があっても、あとで、なんとかなるし。


「とにかく、まずは、今日中に林道を抜けて、山道の中腹を目指すわ」

「わかった」

「あっ、さっそく魔物が来たみたいですよ!」

「よし、みんな行くよ!!」


 暗い森の木々を縫うようにして殺到してきた魔物達に、僕達は、それぞれの武器を向けるのだった。




 それから、数時間。

 暗い林道を抜けた僕達は、いよいよ山道へと差し掛かった。

 緑ばかりだった景色から一転、荒れた岩肌の姿が徐々に増えてくる。

 山の登り口付近にあった小川で、小休止を取ると、僕らはいよいよ山道を登り始めた。


「け、けっこう急ですね……」


 メンバーの中では、一番体力的に不安のあるエリゼは、ややきつそうな様子だ。

 とはいえ、この辺りは、まだ、序の口。カングゥさんやメロキュアさんの知る限りの情報では、ここは、山頂に近づくほどに、どんどん急な崖が増えてくるらしいとのことだ。


「足場が悪いところも増えてきたわね。タイミングによっては、魔物に襲われるとマズいかも」

「危険なところは、命綱をつけて進もう」


 そう言いつつ、僕はぬいエルに楔のついた縄を持たせると、急な崖の向こうへと飛翔させた。

 ぬいエルが、向こう側の壁に、しっかりと楔を差す。縄がピンと張ったのを確認すると、まずは、チェルからその縄に手をかけて進み出した。


「じれったいわね……」

「焦りは禁物だよチェル」


 地形の過酷さはもちろんだが、やはり魔物達も侮れない。

 林道で襲ってきた魔物達も、決して苦戦する相手ではなかったものの、こちらが全力に近い力を出さなければ、撃退不可能なレベルの強さを持っていた。

 そのため、魔力も気力もそれなりに消耗させられている。

 そんな中での、焦りは、即、死へとつながる。

 焦った時こそ冷静に、それが精霊術士としての僕の矜持だ。


「エリゼ、いける?」

「う、うん、大丈夫」


 こちら側に残っているのは、残りはエリゼと僕のみ。

 崖の淵に足をかけながら、おそるおそる進むエリゼを僕は最後尾から見守った。

 その時だった。


「魔物だ!!」

「えっ!?」


 セシリアさんが向ける視線の先、そこには、なにかふわふわとしたものが浮かんでいた。

 それは、まるで風船のように膨らんだ腹だ。真ん丸な腹の四方には、鋭利な爪を持つ手足、そして、こちらに鋭い視線を向ける顔。

 見た目はまるで、ムササビ、だが、滑空するのではなく、奴らはふわふわと浮かんでいた。


「まずい、こちらに攻撃してくるぞ!!」

「くっ、コロモ!!」

「はい!!」


 空中を漂うムササビの群れに向かって、コロモがファイヤーボールを連射する。

 しかし、思いのほか機敏なムササビは、腹を膨らませたり、逆にしぼんだりしながら、火球をギリギリのところで避けた。


「こ、こいつら!!」

「こちらに来るぞ!!」


 ムササビのうちの一匹が、猛スピードでこちらへと飛来してくる。

 そのターゲットは、未だ、小さな足場を向こう岸に向かって進むエリゼ。


「フレアバースト!!」


 だが、すんでのところで、チェルの爆発魔法が直撃した。

 その瞬間、激しい爆発が僕らを襲った。

 チェルのフレアバーストは初級魔法、本来、こんなに激しい爆発が起こるなんてことあり得ない。

 そうか。あいつらが、浮かんでいたのは、腹の中にガスをためていたのだ。

 そのガスに、チェルの魔法が引火した。

 結果、爆弾が爆発したかのような激しい衝撃が、僕らを襲った。


「きゃ、きゃあああああああっ!!!」


 爆風で遮られた視界の中、エリゼの声が聞こえた。


「エリゼ!!!」


 明らかに落下していく声。

 一も二もなく、僕は、命綱すらつけずに、崖下へとダイブしていた。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ