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080.精霊術士、ライブに備える

 チェルとコロモのレベルが30を超えた。

 堅牢の魔窟、氷炎の絶島、黄昏の湖畔という3つの上級ダンジョンをクリアした。

 そして、つい先日、ついにギルドからAランク昇格の通達も来た。

 フルメンバーが揃ってからわずか2か月半程度での、異例の大出世とも言える。

 以前、暁の翼がAランクに至るまでに、2年以上の年月が必要だったことを考えると、それがいかに異例なことかわかるというものだろう。

 とにもかくにも、僕達の聖塔挑戦への準備は着々と進んでいた。

 残りの条件は、特級ダンジョンのクリアだ。

 特級ダンジョンは、白亜の聖塔などの神級を除けば、最高難易度のダンジョンであり、世界全土で見ても、わずか7つしか存在しない。

 そして、この街から数日で移動できる距離範囲内にある特級ダンジョンは3つ。

 チェルは、その中のどれに挑戦するか、まだ、迷っているようだった。


「うーん、こっちはちょっと攻略に日数がかかりすぎるし、こっちはパーティー構成的にあまり向いてなさそうだし、こっちは画的に代わり映えしなくて地味だし……」

「随分、悩んでるみたいだね」

「さすがに特級ともなると、映像映えばかりを考えているわけにもいかないしね。みんなの命を預かっている以上、リスク管理はしっかりしとかなきゃ」


 その辺りのバランス感覚が、チェルがリーダーとしても、稀有な才能を持っている証左とも言える。

 実は、これらのダンジョンの中には、以前、僕とエリゼが暁の翼にいた頃に、クリアしたものも含まれている。

 件のダンジョンの名は、大地の裂目。

 遥か広がる大地に、巨人が槍を穿った際に出来た亀裂が、迷宮の形を成したもの、なんて言われているダンジョン。

 ひたすら谷底を歩き続けるようなダンジョン構成に、当時の僕らは、かなり辟易させられたものだ。ヴェスパやメグなんて、すぐひぃひぃ言ってたし。

 代り映えのしない景色の中、強力な魔物が次々と襲い来る状況は、今思い出しても、ゾッとするものがあった。

 個人的には、そこは候補から外して欲しいものだが、結局、過酷さという意味では、他の特級ダンジョンも大概なので、なかなか僕の口から、明確にここが良いというアドバイスはできなかった。

 それは、エリゼも同様のようで、真剣に検討をするエリゼの様子を黙って見守っている。

 結局、結論は出なかったのか、チェルは、資料を一旦置くと、グゥーと伸びをした。


「とりあえず、こっちはもう少し検討するとして、直近のライブの方に力を入れるとしましょうか」

「あー、そうだったね……」


 近々、街の中央広場野外ステージで行われる極光の歌姫のライブ。

 先日、撮影した映像特典付きの映像水晶(パルスフィア)の販売に、握手会など、盛りだくさんの内容になっている。

 当日協力してくれるスタッフさんや、放送局の人たちとの打ち合わせも滞りなく進み、こちらも着々と準備が進んでいた。

 唯一問題があるとすれば、新曲の発表だろうか。

 今まで、僕達は、あくまでチェルがメインで、バックダンサー的な立ち位置でライブに望んでいたのだが、先日の黄昏の湖畔でのボス戦の放送をきっかけに、僕らそれぞれの歌をもっと聞きたいという声が、ファンから多く寄せられた。

 結果、次のライブで披露する新曲では、僕らは、かなりの数、それぞれのソロパートを任されることになっている。

 そんなわけで、チェルの熱血指導の下、歌唱練習にも力を入れているのだが、やはり、まだまだ不安が残る。


「なんか浮かない顔立ちね」

「まだ、歌に自信がなくて……」

「ノエルは心配しなくても大丈夫よ。っていうか、あんたのソロパートを望んでる声が一番大きいんだから」


 そうなのだ。

 どこが良かったのか、ソロパートを望む声を一番受けたのは、僕だった。

 あの放送の後、声が良いだとか、歌ってる姿が可愛いだとか、ファンだけでなく、スタッフさんからも直接感想を言われることが度々あった。

 正直、僕自身は、自分の声の良さとか歌唱力に関しては、てんで自覚がないのだが、良いと言ってくれる人がいる分には、僕も期待に応えたいという気持ちはある。

 けれど、それが、かえってプレッシャーになっているのも事実だった。


「自信を持ちなさいな。私もノエルの……ノルの声、大好きだから」

「チェル……うん。できる限りは頑張ってみる。なんだか、アリエルも、僕が歌うと喜んでくれているみたいだし」


 以前の攻略でも、感じた時があったが、最近、アリエルは、僕が歌い出すと、自然と踊りを披露するようになっていた。

 今まで、明確な自我を持たないアリエルが、こんな風に、自分の感情というべきものをはっきりと表すことはなかった。

 それが、先日のボスライブの時から一変した。

 ぬいエルに入って踊ることもあれば、自然体のまま、空中で揺れていることもある。

 とにかく、アリエルは明らかに僕の、僕らの歌に反応していたし、僕らが歌えば歌うほど、その力が上昇しているようにさえ感じた。

 声とは、歌とは、大気を伝うものだ。

 風の精霊であるアリエルにとっては、歌が齎す大気の揺れというものは、心地よいものなのかもしれない。


「歌だけでなく、握手の時の笑顔の練習もしておきなさい。ノエルはたまに、顔が硬いから」

「うっ……努力します」

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