079.精霊術士、水着撮影をする
さて、コロモの撮影が終わり、残ったのは、チェルと僕だけになった。
「ノルは最後ね。先に私撮ってくれる?」
「えっ、僕が撮るの……?」
「うん」
魔動カメラを手渡される僕。
一応、使い方はわかるけど、女の子……それも、とびきりの美少女の水着姿をカメラに納めるというのは、なかなかハードルが高いんだけど。
「ポーズとかは私が自由にやるから、ただ、撮ってくれればいいわ。引きと寄りを交互って感じで」
「わ、わかった」
とりあえずファインダーをのぞき込みながら、チェルへとレンズを向ける。
すると、チェルは大きく伸びをすると、そこで、こちらに気づいたように視線を向け、微笑みながら手を振った。
役者だなぁ、なんというか、他のメンバーよりも圧倒的に自然だ。
そのまま、自分からカメラに寄ったり、離れたりしつつ、ポーズを取っていく。
座りポーズで、上からカメラを向けているときは、あまりに可愛すぎて、色気がありすぎて、レンズ越しだというのに、バクバクと心臓が高鳴った。
やっぱり、チェルってこういうのやらせると強すぎる……。
視聴者の視線を意識しているのか、まるでカメラを持った僕が、一緒に海にバカンスにやってきた彼氏であるかのように錯覚してしまうほどだ。
コロコロと表情を変える、彼女の姿を見ていると、なんだか水着デートをしているようで、一層ドキドキが強くなった。
「ちょっと歩くわ。ついてきて」
チェルは、カメラを持つ、僕の腕を引っ張るように波打ち際へと歩いていく。
手の先だけが画角の端から生えているような画面になって、動画として見ることになる人は、まるで、本当に手を引かれているように感じることだろう。
そして、ふくらはぎまで水の中に入ったチェルは、くるりと振り返って、こちらに水を掬って、軽くかけ出した。
よくカップルがやるような行為……素直に、可愛すぎて、よく一緒にいる僕ですら、動揺で手が震えてしまいそうだ。
この映像を見たファンたちが、水晶の前で、悶える様子が容易に想像できてしまう。
チェル、かわいいよ、チェル。
「さて、ま、こんなところかしらね」
彼女っぽい仕草から一転、いつものチェルの若干クールな雰囲気に戻る。ギャップが凄い。
「どう、可愛かったかしら?」
「いや、なんていうか……凄い」
「うーん、その感想は0点ね」
ふとチェルの手が僕の鎖骨に触れた。
ぞくりという感触が背筋を駆け抜ける。
「チェ、チェル……?」
「ノルの前だから、私、こんな風に振舞えたんだけどなぁ」
「え……っと」
それは、僕の彼女になら、いつでもなる準備があるってことでしょうか……。
「なんてね。困らせて悪かったわ。でも、コロモに鼻の下を伸ばしまくってたから、ついね」
「は、鼻の下なんて……!」
「はいはい、私ともラッキースケベやっとく?」
「え、遠慮しときます……」
今度こそ、本当に理性が完全に飛びかねない。
「終わったようだな」
セシリアさんを含めた残りのメンバーがこちらへとやってきた。
「ええ、つつがなくね」
「じゃあ、残るは……」
全員の視線が、僕へと集中した。
「え、えーと……僕はいいんじゃないかな」
「ダメよ。需要には供給を」
チェルがカメラをグイっと突き出す。
「師匠! 恥ずかしいけど、頑張りましょう!」
「そうですね。ノエルなら、きっとかわいらしく撮れるかと」
「チェルシー、ノエルの魅力を最大限に引き出してやってくれ」
それぞれレフ板やらなんやら、完璧なサポート体制で僕を取り囲む。
みんなの妙なやる気の圧力に押されて、僕は、しりもちをついた。水しぶきが舞い、下半身までが水につかる。
「いいわね、ノエル!! そう、そのまま……ちょっと股を開いてみましょうか」
「チェルさん、ちゃ、ちゃんと光当たってますかね!?」
「ノエル、手!! 手を顎あたりに持って来ましょう!! 絶対かわいい!! 絶対かわいいから!!」
「はぁ……はぁ……」
涙目になりながらも、僕は、もはややけくそで、言われるがままにポーズを披露したのだった。
さて、そんな撮影時間も瞬く間に過ぎ去り、夕暮れ時。
僕達5人は、砂浜から湖の全景を眺めていた。
「綺麗……」
ぼそりと呟いたのは、エリゼの声だっただろうか。
ただでさえ、美しいロケーションだったのが、夕暮れの真っ赤な太陽に焼かれて、もはや言葉にならないほど幻想的な風景になっていた。
地上の楽園とは、まさにこのことを言うのだろう。
「黄昏の湖畔か……。名前に偽り無しね」
「うん……」
さすがのチェルをして、感嘆の声を上げる。
そして、彼女はおもむろに、魔動カメラを取り出した。
慣れた手つきで、三脚にカメラを取り付けていく。
「また、撮るの?」
「これは、プライベート用よ」
ぱちくりとウインクするチェル。
「この景色だけは、みんなと私だけの宝物にしたくなっちゃった」
「チェル……」
結婚という時間制限があるチェル。
その言葉に、今と言う一瞬を少しでも大事にしたい、チェルの気持ちが表れているように、僕には感じられた。
「さあ、みんな夕日をバッグに」
チェルを中心に、僕達は並び立つ。
「3.2.1でジャンプね!! 行くわよ!! 3……2……」
『1!!』
全員で声を揃えてジャンプした僕達。
あとで、確認した映像水晶には、心からの笑顔を浮かべる僕達の姿が映っていた。
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