077.精霊術士、謎の肉を手に入れる
上級ダンジョン"黄昏の湖畔"のボスを撃破した僕達は、出現した宝箱を開封した。
エリゼの人類トップクラスの幸運値で開封されたそれは、僕らの想定をはるかに超えるアイテムだった。
「エ、エリゼ、もしかして、それって……」
「は、ははは……」
僕達は、エリゼが掴み上げた、大腿骨のような太い骨に巻き付いた肉の塊に視線を向ける。
うん、どこからどう見ても肉だ。
ダンジョンの宝箱からは、上質な魔物肉がドロップすることもある。
牛肉とも豚肉ともつかないような食感の肉だが、とにかくおいしいことで有名で、かなり高値で取引されているものだ。
だが、そういった肉系のドロップアイテムは、通常それらの魔物が巣食うダンジョンでドロップするものであり、今回の黄昏の湖畔では、そういった牛や豚のようなタイプの魔物は現れていない。
とすれば、何の肉か。
考えられるとすれば……。
僕達5人は、カメラにその疑惑のアイテムが映らないように、身体でゲージを作りながら、頭を寄せ合った。
「や、やっぱり、これって、その……あれなんですか?」
「おそらく間違いないだろう。今まで、こんな魔物肉は見たことがない」
「で、伝説級のアイテムですよね……。私、なんてものを……」
「チェル、これが、もし、あれだったとして、放送して大丈夫なの?」
「うーん、アウトね。これが手に入ったなんてわかったら、ちょっとした戦争が起こりかねないもの」
そりゃそうだろう。
だって、このアイテムはその……。
「まさか、"人魚の肉"を手に入れてしまうなんて……」
エリゼが、両手で頭を抱えた。
そう。チェルのスキルでブーストされたエリゼの人間離れした幸運値は、恐ろしく価値のある、ある意味爆弾ともいうべきアイテムを引き当ててしまった。
様々な伝承の中で登場する"人魚の肉"。
この肉を食べたものは、不老不死、もしくは、不老長寿の特性を得ることができ、若々しい容姿を保ったままで、何百年、何千年も生きることができると言われている。
よく高齢でも美しさを保ち続ける女性に向かって、「人魚の肉」でも食べたんですか? なんて冗談で使われるほど、人々にとっては、知名度のあるアイテムだが、当然、それが実在するとは、皆、本気では思っていない。
でも、今、この瞬間、それは真実に変わった。
人魚の肉というアイテムは、こうしてちゃんと実在したのだ。
「で、でも、本当に、不老不死なんてチート効果が得られるんでしょうか……?」
「なに、コロモ、試してみたいの?」
「ま、まさか!! ちょ、ちょっと私には荷が重いです……!!」
「冗談よ」
うん、一口でも、試しで食べてみて、本当に不老不死にでもなってしまったら、さすがに笑えない。
「とにかく、このアイテムを取得した事実は、絶対に公表しないようにしよう。じゃないと、特に身分の高い連中が、是が非でも手に入れようとしてくるだろうし」
「価値を考えれば、当然だな。大金を積まれるくらいなら、まだしも、場合によっては、チェルシーの言うように、戦争まがいの奪い合いにさえなりかねん」
全員が、神妙な顔で「うん」と頷き合う。
「とりあえず、公表はしないということで。今後、どうこのアイテムを扱うかは、事務所に戻ってから考えよう。そもそも、信頼できる目利きに鑑定スキルで見てもらわないと、伝承で言われているような効果が本当にあるのかもわからないし」
「そうしましょう。とにかく、今は最高のボス撃破ライブを披露して、宝箱の中身についての事なんて、視聴者の頭から忘れさせちゃいましょう」
そそくさと、アイテムバッグに肉を強引に詰めると、チェルはカメラへとアイドルスマイルを向けた。
「さあ、今日もボス撃破ライブと行くわよ!! 貴重な水着ライブなんだから、みんな、一瞬たりとも見逃しちゃダメよ!!」
チェルのさすがの切り替えを皮切りに、僕達は、なんとかレアアイテムの件を頭の底に沈めて、水着でライブを披露したのだった。
あまりにインパクトの強い出来事のおかげで、水着で踊る恥ずかしさを少しの間だけ忘れることができたのは、ある意味、僕にとっては、僥倖だったかもしれない。
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