表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/123

074.精霊術士、中ボス相手に無双する

 その後、次々と襲って来る魔物達を僕達はバッタバッタとなぎ倒し、進んだ。

 水中と言うディスアドバンテージがありながらも、危なげなく戦闘を進めていく僕達。

 個々人の成長はもちろんだが、言葉での意思疎通ができないこの状況にあって、これだけ連携ができているのは、日々のダンスレッスンと冒険を通して深まった絆の為せる技だと言えた。

 快進撃を続けながら、進んでいくと、やがて、僕達は大きな扉の前に、たどり着いた。

 中ボスのフロアの扉だ。そこにはこれから戦うことになる中ボスの姿が簡易的な絵柄で描かれている。

 その姿は、すなわち、蛇だ。


「どうやら十分の一を引けたようね」

「うん」


 空気膜を接触させてチェルがそう僕に言った。

 このダンジョンの中ボスは、実は確率で変化することがわかっている。

 通常は亀の魔物であり、討伐することで、防御力上昇のステータスアップを得ることができる。

 以前開いた宝箱と同じく、恒常的な効果を持つものだ。ただし、上昇量は微々たるもの。

 けれど、稀に水龍が現れることがある。竜と名がついてはいるが、その姿は、巨大な魚と蛇が融合したような化け物らしい。

 水龍は亀よりも強力な魔物だが、討伐することで、亀とは逆に攻撃力上昇のステータスアップを得る。

 効果量も亀よりも大きく、特に攻撃力アップは貴重なため、できれば引いておきたい要素だった。

 もっとも、エリゼの圧倒的な幸運値がある以上、それなりに期待値は高く見積もっていたわけだが。


「ノル、頼むわよ」

「うん、仕込みは終わってる。任せて」


 すでに、ボスの弱点は対策済みだ。

 精霊術士としての力、存分に振るうとしよう。

 僕達が近づくと、扉は自然と開き出す。

 そこは今まで経験したことのあるフラットなボスフロアとは、少しばかり違っていた。

 部屋の中央に巨大な穴が置いており、さらに上を見上げれば、遥か先には地上の光が見える。

 中央の大穴を除けば、その構造はコロッセウムのようだ。

 そんなことを考えていると、突如、水の流れに明確な変化を感じた。

 地震とはまた違い、僕らを包み込む水だけが揺れるなんとも言えない感覚、そして、圧倒的に巨大な存在が蠢く圧が、波紋のように伝わった。

 そして、穴から何者かが這い出した。

 青い頑強そうな鱗を持ち、長いひげを持った、巨大な蛇の化け物。

 蛇とは言ったが、顔立ちはどちらかというと魚に近く、大きく開いた口の両サイドには、張り出したエラぶたが開いたり閉じたりしている。

 奴が、こちらに歯を向いた。

 チェルのハンドサインを受けて、一斉攻撃が始まる。

 だが、僕だけはその攻撃に参加しない。僕には他の役割があるのだ。

 天を仰ぐ。

 いつの間にか、そこには巨大な空気の球が存在した。

 ここの来るまでの間に、僕はアリエルに指示を出し、地上から、集めた空気をここに送り込んできてもらっていた。

 この空気を何に使うか。それは……。


「いけぇ!!」


 仲間達にしっぽでの一撃をお見舞いしようとした水龍に、僕は、その空気の塊をぶつけた。

 僕らの身体を守る膜と同じように、水龍の身体に、巨大な空気の膜が張られる。

 瞬間、水龍が大きく苦しみ出した。


「キ、キシャアアアアアアアアアア!!!」


 もだえるように身体を捩る水龍。

 当然だろう。

 魚の頭を持つ奴は、通常、エラを使って呼吸を行っている。

 魚と言う生物は、水中の空気をこしとって呼吸をしており、空気の中から、直接酸素を取り込むことができない。

 つまり、空気の膜につつまれた今の奴は、呼吸ができず、苦しんでいるというわけなのだ。

 狙い通りの結果に、僕は思わずニヤリと笑った。

 空気の膜を振り払うように、水龍は激しく動き回るが、僕達を包む膜と同じように、多少の動きでは、空気膜を引きはがすことはできない。徐々に、その動きが鈍っていく。


「今だ、コロモ!!」


 声は聞こえずとも、意思は伝わった。

 コロモが高めていた魔力をファイヤーボールとして表出させる。

 雑魚戦でも見せた、僕との連携での水中仕様ファイヤーボール。

 ぶくぶくと泡を激しく発生させながらも、紅蓮の火球は、水龍へと直撃した。

 空気膜の中を燃え広がるように爆発する炎。

 実は奴を包み込んだ空気は、ただの空気じゃない。

 酸素の濃度を極限まで高めた空気だ。

 ただでさえ、強力なコロモのファイヤーボールと僕の圧縮空気膜の相乗効果で、水龍はものの数秒後には、水中で焼死という稀有な結末を迎えていた。

 瞬間、全員のレベルがアップすると共に、赤い光が弾けた。

 攻撃力のステータスアップの光だ。


「やったわね、ノル!」


 グッと親指を立てたチェルからは、そんな声が聞こえてきそうだった。

 さて、十分に皆の体力は温存できている。

 最奥のボスもこの勢いのまま、討伐してしまうとしよう。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ