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072.精霊術士、塩を振る

 上級に位置する黄昏の湖畔は、その名の通り、湖が舞台のダンジョンだ。

 楕円形に広がる湖の外周からスタートし、湖の中の遺跡へ、最終的なゴール地点は、ちょうど湖の真ん中に位置する小島だ。

 一見すると、船で中央の島まで行った方がよほど早いように感じるが、そこはやはりダンジョン、氷炎の絶島と同様に、中ボスを倒すまでは、小島の周囲には障壁が展開されており、近づくことができなくなっている。

 そんなわけで、僕らは、まず、湖の中に行くために、湖畔の砂地を東へと進んでいた。


「きょ、今日、なんかカメラ多くない……?」


 今回、撮影に使っているカメラの数はなんと5台。どこを向いても、カメラと目が合う状況に、なんとも言えない居心地の悪さを感じる。


「前回の反省でね。局の人が、複数台持たせてくれたのよ」


 前回とは氷炎の絶島での攻略対決のことだ。

 あの時は、それぞれのパーティーに1台ずつのカメラが用意されたのだが、途中で置き去りにされかけたり、戦いの余波で、一時離脱してしまったりと、安定的な撮影ができたとはいいがたかった。

 その対策として、複数台のカメラを用意されたということなのだろうが、何も水着になる今回のタイミングじゃなくても良かったのに……。

 放送局の人、あえて、狙ってやっているのでは、と勘繰ってしまう。

 男性視聴者としては、様々なカットからみんなの肢体を見られて最高だろうけど、僕にとっては、ただただ地獄だ。

 っていうか、そこの1台。さっきからローアングルばかりやめて。


「水中でも大丈夫なように、コーティングもしてくれてるから、今回は撮影についてはばっちり抜かりないわ」


 僕としては、むしろ、抜かりあって欲しかったです、はい。

 周囲と言うよりは、カメラを意識して進んでいると、横を歩くコロモが口を開いた。


「このまま湖に沿って行けば、水中の遺跡へと続く道へにたどり着けるんですよね」

「ええ、そのまま水中に飛び込んでも、遺跡まではたどり着けるそうだけど、途中で人食い鮫の魔物なんかが出るらしいから」

「人食い鮫……それは、あまり出会いたくないですね」


 水中では、動きが制限される上に、視界も悪く、その上、360度全ての方向から敵は襲い掛かってくる。

 そんな中で、戦闘を行えば、こちらの実力がいかに高かろうと、一方的に蹂躙されるのは目に見えていた。

 それなら、多少移動距離は伸びようが、正規のルートを通った方がマシというものだ。

 と、その時、僕らが歩く砂地の先に、落とし穴のような人ひとりが入るくらいの穴がぽつぽつと現れ出した。


「何かしらね?」

「チェル、近づいたダメだよ。それは……」

「わっ!?」


 驚きの声を上げたのは、コロモだった。

 気づかぬうちに近づいていた大穴、そこから、何か柱のようなものがいきなり飛び出してきたのだ。

 連鎖するように、近くにあったいくつかの穴からも、同じような巨大な柱が次々と現れる。

 そして、円柱形のそのぽっかりと空いた上部から、紫色の体液のようなものをまき散らす。

 雨のように降り注ごうとするそれを、僕はアリエルの力で、仲間達にかからないように吹き散らした。


「こいつら、魔物……?」

「うん」


 この魔物の名は、レイザークラム。貝の魔物だ。

 いわゆる初見殺しというタイプの魔物で、何も知らず、砂浜に開いた穴に近づくと、突然飛び出して来る。

 一匹が飛び出すと連鎖的に近くの仲間も飛び出し、いっせいに毒効果のある体液をまき散らしてくるので、非常にやっかいな魔物であると言えるだろう。

 僕やエリゼは、以前、こいつとも戦ったことがあるので、対処法はわかっている。

 とりあえず、体液さえ、風で吹き散らしてしまえば、こちらへの攻撃手段はあとは、穴の上に飛び出すことくらいしかできないので、慌てる必要はない。


「でも、ちょっと数が多いなぁ」


 昔、同じタイプと戦ったときは、せいぜい5,6匹程度が関の山だったが、今は、10匹程度はいる。

 進行方向の砂地を見れば、数歩間隔で、まだまだ、穴が開いているので、下手をすると100匹以上のこいつらと逐一戦って行く必要があるかもしれなかった。

 

「うぅ……なんだか、感じの良くない見た目ですね……」


 明らかな嫌悪感を抱いた口調で、コロモがそう言う。

 さすがに、濁してはいるが……うん、こいつって、見た目が、男の人のアレに似ているというか……いや、深くは言うまい。

 こいつらの厄介なところはもう一つあって、こちらが剣なんかで攻撃しようとすると、逃げるように潜ってしまう。

 そして、通り過ぎようとすると、また、顔を出して、体液を飛ばしてくる。なんともいや~な行動パターンを持っているのだ。

 だから、ここは、遠距離攻撃を持つ、大魔導士様に対応していただくとする。


「コロモ、ファイヤーボールの準備。込める魔力は中、勢いよく打ち出すタイプでお願い」

「わかりました。師匠!」


 コロモが魔力を練り出す。

 その間に、僕は、ぬいエルを地面へと放り投げた。

 ぬいエルの手にはその身体にそぐわない大きめの瓶が持たされている。入っているのは、塩だ。

 テクテクと走っていくと、ぬいエルは、その塩を、まだ、地面に潜ったままのレイザークラムに振りかけた。

 すると、かけられた個体が、まるで、苦しむようにして穴からはい出した。

 そう、こいつらの弱点は塩なのだ。どうやら塩分に弱いらしく、かけるとしばらく地面から飛び出した状態でフリーズする性質がある。

 ぬいエルが、ものすごいスピードで、まだ、飛び出していない穴に、塩を振りかけていくと、次々と苦しみながら、レイザークラムが飛び出してきた。

 いつの間にか砂地には、ただただ突っ立っているだけの、柱の山ができていた。

 さあ、お膳立てはこの辺でいいだろう。


「ファイヤーボール!!」


 コロモが無防備な状態のレイザークラムに向かって、ファイヤーボールを放つ。

 今回は勢い重視。高い貫通力で、近いところにいたレイザークラムから、次々と倒し、燃やし尽くしていく。

 なんだろう。確か、王都にあるボウリングという娯楽があるそうだが、まさに、こんなイメージかもしれにない。

 次々と倒れ、燃えていくレイザークラムたち。

 ほんの数秒の後には、すっかり灰になった魔物達と、彼らが出てきた穴ぼこばかりが残っていた。

 その瞬間、全員の身体が淡く発光し、レベルが上がった。

 何せ百体を超えようという数の魔物を倒したのだ。

 労力に対して、かなりの経験値を得てしまったようだった。

 何気に、この狩り、ものすごく効率的かもしれない。


「さて、ここを超えたら、水中遺跡まではすぐのはずよ」


 安全が確保された砂地を、僕らは、東へと急いだのであった。

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