068.精霊術士と攻略勝負の行方
ボスへのラストアタック。
それを決めたのは、チェルだった。
つまるところは、それは攻略勝負の勝者が、極光の歌姫であるということを示していた。
「はははっ、負けましたよ」
剣を鞘に納め、ゆっくりと戻ってくるチェルに向けて、カングゥは、それまで見せたことがないような、はっきりとした笑い声をあげていた。
決して開き直っているわけじゃない。その笑顔には、わずかばかりの悔しさも染み出していた。
「うんうん、凄かったねぇ!! あのピカピカぁって光る剣!!」
獣人の女性もぴょんぴょん跳ねながら、チェルの一撃を賞賛している。
覇王の剣とでも呼ぶべき、勇者としての力と精霊の力を融合させた究極の魔法剣。いや、精霊剣とでも言った方が的確だろうか。
とにかく、とっさのことだったが、今でも、できたことが嘘のように感じる。
自らに精霊を憑依させたり、ぬいぐるみに憑依されるのとは違い、他人が持つ武器に精霊を憑依させ、その力を発揮させることは至難の業だ。
武器を持つ本人と精霊を操る側がお互いを良く知り、気持ちを合わせなければ、決して成功しえない絶技だと言えた。
けれど、僕とチェルにはそれができた。
「チェル」
「ノエル」
あ互いに、拳を打ち付け合うと、僕達は、二ッと歯を出した笑った。
その瞬間、仲間達も僕らを囲うように抱き着いてきた。
全員で、チェルの健闘を称え合う。
そうやって少し勝利の余韻に浸った後、チェルはゆっくりと仲間達の輪から離れると、カングゥへと向き直った。
「これで、私の冒険者活動、認めてくれるのよね」
「約束ですからね。認めざるを得ません」
肩をすくめるように言うその顔には、どこか清々しいものが浮かんでいた。
「チェルシアナお嬢様。正直、あなたには驚かされました。冒険者として、あなたの力はすでに、一線級のものです」
「えらく素直ね」
「元より自分の目で確かめたことは、素直に認める性格なのですよ。あなたはもちろんですが、仲間も素晴らしい。特に、あの精霊術士の少女」
「ノエルよ。覚えておくといいわ。あの子は、私を聖塔の頂に連れて行ってくれる、王子様なんだから」
「王子様?」
よくわからない、といった表情を浮かべるカングゥの元に、獣人の女性が抱き着いてきた。
「ちょ、クーリエ……今、大事な話を」
「グゥ、もっかいダンジョン攻略やろうぜぇー! やっぱ楽しいし!!」
「はいはい、考えておきますよ。とりあえず抱き着くのやめていただけますか。当たってるんですよ。あなたももう族長なんですから、いい加減、分別というものを……」
ほほえましい光景に、どことなく他人のような気がしない。
「チェルシアナお嬢様。あなたの冒険者活動、私が必ず侯爵様に認めさせてみせます。ですから、見せていただけますね。あなた方が、聖塔の頂へと立つ、その姿を」
「最初にも言った通りよ。私達、極光の歌姫は、聖塔の完全攻略を必ず成し遂げてみせる」
強い意志の籠もった瞳でそう宣言するチェルに、カングゥはおもむろに黒衣の中から何かを取り出した。
それはくたびれた本だった。いや、日記だろうか。
「これは、私達のパーティーが、聖塔を50層まで攻略した時の冒険日誌です」
「えっ……!?」
聖塔の情報が詰まった冒険日誌。
言うまでもなく、ものすごく価値があるものだ。
仮に市場に出回ったとしたら、それこそ値段がつかないかもしれないほどに。
「あなた達に、託します」
「いいの?」
「私達には、すでに、必要ないものですからね」
さすがのチェルをして、恭しく受け取った冒険日誌。
僕は、それをチェルから受け取ると、ぱらぱらと眺めた。
凄い……各階層の攻略法から、ボスの弱点に至るまで、かなり詳細な内容が記述されている。
これがあれば、聖塔の完全攻略の助けになるのは、間違いない。
「ありがとうございます!」
と、ちょうどそのタイミングで、僕らの頭上に何か羽根が生えた目玉のようなものが……って。
「魔動カメラ?」
「どうやら、最後の一撃の余波で、吹き飛んでたみたいですね」
「ちょうど良かったわ。それじゃあ、そろそろあれをやりますか」
グツグツと煮えたぎるマグマをバックに、チェルはくるりと振り向くと、いつものように、アイドルスマイルで言った。
「みんな並んで!! ボス撃破ライブ、行くわよ!!」
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