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059.精霊術士、雪原を進む

「ファイヤーボール!!」


 コロモの放った大火球が雪原を抉るように溶かし尽くし、道が形成される。

 攻略勝負がスタートしてから、十分ほど、僕らは、順調に雪原を進んでいた。


「コロモの魔法のおかげで雪に足を取られることなく、進めるのはありがたいわね!」

「普通に雪の上を歩いていたら、ものすごい時間のロスになっちゃうからね」


 今回の攻略はスピード勝負だ。

 きちんとした雪山用の装備をして、正攻法で進んでいたら、時間がいくらあっても足りない。


「この分なら、渓谷エリアまで、すぐに到達できそうですね」

「そうね。魔物達も、コロモがほとんど会敵する前に焼き払ってくれてるし。さすが、大魔導士に昇格しただけあるわ」

「え、えへへ……!」


 クラスチェンジによって、コロモは元々高めだった魔力がさらにアップして、攻撃魔法の威力にも磨きがかかっている。

 同じファイヤーボールでも、雪と一緒に、ほとんどの魔物を一撃で葬り去ることができていた。

 うちの弟子が、超優秀な件。


「これは、私も負けてられないわね。渓谷のボスは任せて!」


 このダンジョンには、最奥に待ち構えるボスの他にも、いわゆる中ボスと言われる道中を塞ぐ強豪モンスターが存在している。

 中ボスはダンジョンの中に障壁を張っており、討伐しなければ、後半のエリアへ進めないため、必ず戦う必要がある。

 攻略の第1段階として、まず、僕達はその渓谷を目指していた。


「チェルシー、中ボスといえ、侮るなよ。情報を集めたところ、どうやら、ここのボスは鬼らしい」

「鬼……か」


 鬼、別名、オーガ。

 強靭な肉体を持つ大男といった外見で、頭には角が生えている。

 特筆すべきは、その圧倒的なタフネス。

 堅牢の魔窟のボスであるダイキャスターの防御力の高さとは少し違って、生命力とでも言おうか、異常に耐久性能が高く、また、多少の傷はすぐに回復してしまうほどの自己治癒能力を持っている。

 暁の翼時代にも、何度か戦ったことがあるが、攻撃しても攻撃しても立ちあがってくる、そのゾンビのようなしぶとさには辟易したものだ。

 長期戦は必至となる魔物であり、いかに高い火力で、一気呵成に攻めるかが重要と言えた。


「私だって、もう勇者なのよ。攻撃力だって、上がってるわ。鬼くらい、一発で仕留めてやるんだから」

「焦っちゃだめだよ、チェル。鬼はタフネスが高いだけじゃなくて、角に特殊能力を秘めているタイプもいる。まずは、しっかり能力を見極めないと」


 そんなことを話しながら、抉られて露出した土の地面を走っていると、にわかに、まわりの景色が暗くなってきた。

 渓谷の入口へと入ってきたのだ。

 とはいえ、川が流れているというわけではない。

 気温の低いここでは、本来流れているはずの川の水ですら凍結しており、僕達は、その上へと足を降ろした。

 ほとんど土の地面の上を歩いているのと同じ感覚。川底まで完全に凍り付いているようで、割れそうだとか、そんな不安は一切感じられない。


「この渓谷の途中に、中ボスがいる可能性が高いそうです。け、警戒しましょう!」


 雪原と違って、ここからは、コロモの魔法に頼らずに突き進む。

 渓谷内とはいえ、多くの魔物達が、まるで、待ち構えていたかのように襲い掛かってくる。

 赤いギラギラとした目を持った白いウサギ型の魔物に、同じく白い毛を持った猿。

 さらには、振り続ける雪にまぎれるようにやってくるワシ型の魔物。

 どの魔物も寒い環境での戦いを得意とする精鋭たちだ。

 しかし、僕達だって、負けてはいない。

 次々と襲い来る魔物達を、チェルの剣が斬り裂き、セシリアさんの槍が貫く。

 コロモは、地面代わりの凍結した河川を溶かしてしまわないように、無詠唱での小さなファイヤーボールで、次々と小型の魔物を撃破していく。

 そんな頼りになる攻撃陣に向けて、僕とエリゼも全力でバフを飛ばし続ける。


「さすがの物量ね……!!」

「だが、押し切られるほどではない!!」


 この数の魔物が、足元の悪い雪原で襲ってきたことを考えると、かなり危険度が高かったが、氷の地面はフラットで、かえって戦いやすい。

 次々と襲い掛かってくる魔物を蹴散らして進んでいくうちに、少しずつ、その数が減ってきた。


「だいぶ、少なくなってきましたね!」

「いや、むしろ少なくなってきたということは……」


 セシリアさんが次の言葉を言うまでもなく、"それ"はやってきた。

 唐突に、僕らの頭上に陰が差したのだ。

 瞬時の判断で、僕は叫んだ。


「みんな!! 散れ!!」


 その言葉で、仲間達が、一斉に四方八方へと飛びずさる。

 一瞬後、目の前の氷が弾けた。

 いや、違う。巨大な何かが、凍結した川へと落下したのだ。


「…………鬼……か!?」


 砕かれた氷の中から、筋骨隆々の巨体が姿を見せる。

 鋭く尖った真っ赤な目。青白く光る堂々たる一本角。

 間違いない、こいつが、このダンジョンの中ボス。


「氷鬼ね! みんな行くわよ!!」


 聖剣を大きく振りかぶったチェルを皮切りに、いよいよ中ボスとの戦いが開幕したのだった。

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