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054.精霊術士、勝負を持ちかける

「これは……どういうことでしょうか?」


 目の前に立つ男──侯爵家からの使者カングゥは、僕達の方の見て、戸惑った表情を浮かべていた。

 ここは、いつもチェルがソロライブを行っている円形ステージ。

 並び立つ僕達は、冒険者としての装備を身に纏っている。

 観客席には誰もおらず、ステージの上で、僕ら5人とカングゥだけが対峙しているような状態だ。


「こんな場所に呼び出したかと思えば、よもや、5人がかりで、私を袋叩きにしようとでも?」

「まさか、そんなその場しのぎの解決方法なんて取るわけないじゃない」


 そう言いながらも、チェルは聖剣を引き抜くと、その切っ先を天へと掲げた。


漆黒の十字軍ブラッククルセイダーズのカングゥ。私達、極光の歌姫ディヴァインディーヴァは、あなたの代わりに、聖塔の完全攻略を必ず成し遂げることを宣言するわ!」

「…………はぁ?」


 キョトンとした表情のカングゥ。

 だが、そんなことはおかまいなしにチェルは、言葉を続ける。


「あなたが元Sランクパーティーに所属する冒険者で、あそこにそびえる白亜の聖塔の攻略に失敗して引退したことは知っているわ」

「まあ、隠しているわけでもありませんしね」

「だから、あなたの代わりに、私達が白亜の聖塔の完全攻略、成し遂げてあげる」

「…………どういう交渉ですか」


 やれやれと言ったふうに、カングゥは肩をすぼめた。


「言っておきますが、あなた達が聖塔を攻略したところで、私達の溜飲が下されるわけではありません。それに、漆黒の十字軍は、最高の人材が集まったパーティーでした。あのメンバーでも、攻略できなかった白亜の聖塔を貴族のご令嬢であるあなたが、攻略できるとはとても思えない」

「確かに、私一人じゃ無理よ。でも、私にはこれ以上ないくらい優秀な仲間達がいる」


 強い意志の籠もったチェルの目。

 僕達もその意志の強さを体現するように、カングゥを見据える。


「この仲間達となら、私は、聖塔の攻略を成し遂げることが必ずできる」

「面白い冗談です。その仲間達とやらが、当時の私の仲間達以上に優秀だとでも?」

「ええ。きっとね」


 初めて、ひょうひょうとしていたカングゥの顔に不快感が浮かんだ。


「お嬢様と言えど、私の仲間達への侮辱は、許されません」

「侮辱しているわけじゃないわ。ただ、あなたの優秀な仲間達よりも、私の仲間はもっと優秀だと言っているの」

「同じことです。アイドルなんて、チャラチャラしたことをしている連中よりも、私の仲間は下だと言っているのですから」

「だったら、試してみればいいじゃない」

「試す……?」

「勝負をしましょう。とあるダンジョン、それをどちらが早く攻略できるかっていう」


 チェルはどこから映像水晶を取り出すと、それをカングゥへと差し出した。

 そこには、とある島が映し出されている。

 その島は一方が雪に覆われ、また、一方は、地面のところどころに、ぐつぐつと煮えるマグマの池が広がっていた。


「これは……氷炎の絶島ですか」

「ええ、世界でも珍しい、双方向攻略型ダンジョンよ」


 世界には、いくつかだけ、攻略に際して2つのスタート地点が設定されたダンジョンというものが存在する。

 氷炎の絶島は、その1つであり、ゴール地点である島の中心へ至るまでの道が2つある。

 すなわち、魂までもを凍り付かせる氷雪の道と、心までも溶かし尽くされる煉獄の道だ。


「それも、あなたの言う"エンターテインメント"というやつですか?」

「まあね。噂の極光の歌姫ディヴァインディーヴァと元Sランクパーティー漆黒の十字軍ブラッククルセイダーズの攻略勝負。盛り上がると思わない?」

「別に、盛り上がろうがなんだろうかどうでも良いですがね。ですが、無理な話です。私達のパーティーはもう……」

「でも、あなたのスキルなら、それができるんじゃないの?」

「…………そこまで調べ済みですか」


 はぁ、と息を吐き出すと、カングゥは一度、目を閉じた。


「確かに、私の力を使えば、疑似的であれば、当時のパーティーを再現することは可能です。あなたが言う、攻略勝負とやらも、やってやれないことはないでしょう」

「だったら、勝負を受けなさい。カングゥ。もし、私達が負けたら、今すぐにでも、侯爵様と結婚してあげるから」

「ふぅ、そこまで言いますか」


 瞬間、カングゥの目に明確な敵意が宿った。

 それまでとは比較にならないほどの、強者だけが放ち得る覇気がビリビリと伝わってくる。


「いいでしょう。あえて、その勝負を受けます。どれだけ世間の評価があろうと、結成したばかりの新参パーティー。実力はたかが知れている。私がその鼻っ柱をへし折ってあげることにします。自分が井の中の蛙だったことに気づけば、あなたも冒険者を止める決意が付くでしょうし」


 その言葉を聞いた瞬間、チェルの瞳が輝いた。あ、悪い顔してる。


「私達が勝ったら、私は冒険者を止めないからね」

「ええ、その条件で構いません。侯爵様は、私が命に代えても、説得してみせましょう」


 2人の視線の間に火花が散る。


「勝負は1週間後、それでいい?」

「ええ、準備期間としては、十分です。楽しみにしていますよ。チェルシアナお嬢様」


 こうして、僕達、極光の歌姫と、元Sランクパーティー所属の冒険者、カングゥとの、チェルの冒険者引退をかけた攻略勝負が決まったのだった。

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