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051.精霊術士、広告塔になる

 はてさて、極光の歌姫ディヴァインディーヴァの人気は、今や街を席巻していると言っても過言ではなかった。

 僕達パーティーには多くのスポンサーがつき、事務所の運営面での援助やライブ活動の支援、はたまた、攻略用の回復アイテムを融通してもらったりなど、かなりありがたい手助けをたくさんしてもらえるようになっている。

 また、エリゼのおかげか教会の覚えも良く、先日なんかは、年に一度の式典に、エリゼばかりかパーティー全員がゲストとして呼ばれるほどだった。

 冒険者全体の評判すら上げてしまっている僕達は、ギルドからの信頼もしっかりと獲得しているようで、なんと、まだ、たった3つのダンジョンしかクリアしていないにも関わらず、Bランクへの認定も受けることができた。

 5人での撃破ライブやチェルとコロモのクラスチェンジは、またまた話題を呼び、一般の方々からの人気にも、もはや歯止めが利かず、非公式なグッズなんかも横行している状態だ。

 これまでの攻略動画だけをいつでも見れるようにした特別な映像水晶(パルスフィア)なんかも販売され出したらしいが、それなりに高価にも関わらず、売れ行き好調だということで、マネージャーさんもにやけ顔だった。

 まさに、飛ぶ鳥を落とす勢いとはこういうことを言うのだろう。

 ちなみに個々人の活躍も目覚ましい。

 チェルは、先日も、単独ライブを見事成功させ、これまでで一番の集客数を記録した。

 音響水晶(メロスフィア)として販売した新曲も、すでに、増産の段階に入っており、街を歩いていれば、様々なところでチェルの歌声が聞こえるほどだ。

 コロモは、冒険者養成学校のイメージガールに就任し、パンフレットの表紙になったり、先日なんかは、ほんの短い時間ではあったが、講演会なども開かれた。

 実は、こっそり僕も観に行っていたのだが、「感謝」と「諦めないこと」の大切さを訴える彼女の姿は、なかなか胸に訴えかけるものがあった。さすが僕の弟子だ。

 エリゼは、元々冒険者としてはカリスマ的な人気があったのだが、意外なことに、アイドルとしての人気の方が、最近は爆発気味で、先日行われた握手会では、一番長い列を作っていたのが彼女だった。

 なにせ、握手するたびに、相手にブレッシングをかけているのだから、今や"幸運の聖女様"なんて呼ばれて、押しも押されぬ大人気だ。

 もっとも、それはあくまで付随的なもので、アイドルとして活動する中で、冒険者としての活動だけでは、見えにくかった彼女の魅力が伝わるようになったことが人気の大きな原因だろう。

 実際、ダンスに若干の不安があるエリゼを、頑張れ! と応援しているファンもとても多く、アイドルとしては、成長株的な扱いを受けている。

 続いて、セシリアさんだが、彼女は、なんといっても、女性人気が凄い。街一番のファッションブランドと組んで発売したこの夏の新作衣装は、軒並み物凄い売れ行きであり、アパレル業界では「彼女に着させれば売れる」という説が立証されつつある。高身長で、しなやかな体型やアイドルながら男性に媚びるような感じが全くないサバサバとしたイメージが、女性の憧れに合致するのか、最近は女性向けの雑誌の取材なんかもよく受けているようだ。

 そして、僕はと言うと……。


「はーい、ノエルちゃん、撮るよ~。3・2・1」


 ぬいエルを抱きしめる僕に、いくつもの魔動カメラが向けられる。

 チェルに散々練習させられた笑顔を向けると、そこかしこでシャッターが切られた。

 そう、僕は今、ピンでとあるイベントに出演していた。

 ぬいエルを買ったあの店が、結構なチェーン店だったらしく、いつの間にか、マネージャーさんの手により、広告塔として契約が交わされていたのだ。

 チェル曰く「極光の歌姫のメンバーとして、恥ずかしくないように仕事をしてきなさい」とのことだったが……うん、結構、僕、頑張ってると思うよ。

 ちなみに、魔動カメラは高価なので、貸出制で、あとで、静画用の映像水晶に転写して手渡しされる。

 僕の写真なんか撮って何が良いんだろうか、と思わないでもないが、一応は広告塔としての役割を任されたわけだし、とりあえず、しっかりぬいぐるみ達の可愛さをアピールしないと……。


「ノエルちゃん、そろそろ」

「あ、はい……!」


 スタッフさんに促されて立ち上がると、僕は、精霊語を呟く。

 すると、ぬいエルを先頭に、周囲のぬいぐるみ達が一斉に踊り出す。

 アリエルに決まった形がないことを利用して、複数のぬいぐるみすべてにアリエルを憑依させるという荒業。

 このイベントに向けて練習してみたのだが、思った以上に難しく、かなり良い精霊術の訓練になった。

 何気に、アイドル活動を始めてから、僕の精霊術にもより一層磨きがかかってきているように感じる。

 人形が踊り出す空想的な光景に、カメラを構えた男性たちに代わって、女児たちが目を輝かせて前の方へと身を乗り出してくる。


「あ、危ないから、柵に手をかけないでね~」


 スタッフさんのやんわりとした注意も耳に入らないらしく、女児たちはキラキラとした瞳でぬいぐるみ達を見つめていた。

 僕は、そんな女児たちの一人一人と、ぬいぐるみを使って握手していく。

 その度に、感動したような笑顔を見せる女児達を見ていると、僕も、なんだか胸の奥底が温かくなった。

 うん、この仕事も、悪くないかな。




「お疲れ様、ノエルちゃん♪」

「あっ、お疲れ様でした!」


 撮影交流会が終わり、店の奥で、スタッフさんとそんなやりとりをしつつ、ホッと胸をなでおろす。

 なんとか、店の広告塔の役割を果たせただろうか。


「いやぁ、本当にありがとうね。ノエルちゃんのおかげで、うちのぬいぐるみが飛ぶように売れてるの」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、特に、その妖精タイプのぬいぐるみが一番ね」

「へぇ……」


 僕は、ずっと胸に抱えているぬいエルを改めて眺めた。

 そういえば、今日、来ていた女児達の中にも、ぬいエルと同じタイプのぬいぐるみを抱えている子もいたな。

 ぬいエルのように動くわけではないけど、大切そうにそれぞれのぬいエルを抱きしめている女児達にとっては、きっともうそれは友達なのかもしれない。


「冒険の方で、もし、妖精ちゃんが怪我しちゃったときは、うちできちんと治してあげるから。いつでも、来てね」

「はい、ありがとうございます」

「ふふっ、いつか、妖精ちゃんが聖塔の頂上まで行くかもしれないと思うと、私もワクワクしちゃうわ」

「ははっ、きっと、まだ、もう少し先の話ですけど」

「聖塔の攻略と言えば……少し前に話題になっていた赤髪の勇者様はどうしたのかしらね。結局、聖女様やセシリア様はパーティーを抜けちゃったみたいだし、最近はとんと噂を聞かなくなったけれど」

「えーと……」


 なんとも答えにくい雰囲気を察してくれたのか、スタッフのお姉さんは、手のひらを合わせた。


「ごめんね。私、実は結構冒険者のニュースとかも見てるから、ちょっと気になっちゃっただけなの。とにかく、みんなが聖塔を攻略するのには、凄く期待してるから」

「いえ、僕達も頑張ります」

「きっと、うちのぬいぐるみを買ってくれる子達も喜ぶと思うわ。頑張ってね!」


 僕達の活動が、もはや街の人々の一番の関心事になりつつあるのを感じながら、僕は、一人、事務所への帰路についたのだった。




「お、お嬢!! たいへんだ!!」


 ノルが、お仕事にいっており、チェルシーさんと筆頭に、私とコロモさん、セシリアさんの4人でダンスレッスンに精を出していた時だった。

 2階のスタジオの扉が乱暴に開かれ、マネージャーさんが慌てた様子で入ってきた。


「何よ、マネージャー。まだ、レッスンの途中なんだけど」

「お嬢、これを……!!」


 そう言って、チェルシーさんへと手渡されたのは、1枚の手紙だった。

 差出人を確認したチェルシーさんの目が一瞬クワッと見開かれる。

 そのままな中身を確認したチェルの顔には、今まで見たことがないような冷たい表情が浮かんでいた。


「どうする。お嬢……?」

「どうもしないわ。ほら、レッスンを再開するわよ」

「で、でもよ……お、おっ!!」


 宙へと放り投げられた手紙を、マネージャーさんがキャッチする。

 未だ、落ち着かない様子のマネージャーさんをしり目に、チェルは再び、音響水晶(メロスフィア)で音楽をかけると、レッスンを再開した。

 どこかいつも以上に気合の入ったダンス。

 それは、なんだか、彼女が、何かを振り切ろうと必死になっているように、私には感じられた。

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