表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/123

043.精霊術士、宝箱を開ける

 さて、ダンジョンと言うのは、この世界を創造した女神が、人々に与えた試練であり、同時に、祝福でもあると言われている。

 すなわち、試練とは、魔物やダンジョンのギミックのことであり、祝福とは、宝箱から手に入れられる人間ではとても作り出せないようなお宝のことである。

 ダンジョンにおけるそれらは、冒険者が侵入するたびにリセットされ、例え、他の冒険者がボスを倒した直後であっても、その都度、新しくまた、ボスが誕生する。

 それは、ダンジョンに配置された宝箱もしかりだ。

 と、前置きが長くなったけど、そんなわけで、僕らの目の前には、一つの宝箱が鎮座していた。


「ボスドロップ以外の宝箱は、初めて見たわね」

「中級以下のダンジョンだと、あまり見かけないからね」


 実際、上級以上になると、ダンジョンそのものが複雑な構造になってくるのに比例して、宝箱が配置されることも多くなる。

 そんなわけで、盗賊などのトレジャーハント系の職業が、重宝されるようにもなってくるのだが、僕達のパーティーに至っては、その役割を担うのは僕だ。

 アリエルはダンジョン探索の名人だ。

 精霊として、自由にダンジョン内を行ったり来たりできる性質を活かして、先攻して、進行方向の様子を確認することができる。

 つまるところ、正しい道順も分かれば、宝箱の在りかもわかるし、トラップなどを事前に察知することすらできてしまう。

 ただし、僕にはできないこともある。それは、"宝箱を安全に開けること"だ。

 宝箱の中には、見た目はそれそのものにしか見えないのに、実は擬態している魔物であることがある。

 他にも、開けると爆発物が仕掛けられていたり、魔法力を吸われる等のトラップが潜んでいるものもある。

 だから、宝箱を安全に開けるには、盗賊系の技能である【探知】や【開錠】などが必要となってくるのだが、あいにく、さすがのアリエルでもそこまでの能力は持たない。

 ここは選手交代と行こう。


「エリゼ、頼める?」

「うん、任せて」


 僕が声をかけると、エリゼは宝箱の前へと進み出た。

 エリゼの職業(クラス)は聖女。回復職である彼女は、もちろん【探知】や【開錠】なんてスキルは持ち合わせていない。

 しかし、彼女には、それよりも、もっと有能が力がある。


「ブレッシング!」


 唱えた瞬間、彼女の全身からわずかに金色の燐光が散った。

 この呪文は、対象の幸運値をアップさせるものだ。

 幸運値はボスの宝箱のドロップなどにも適応されるものであり、その数値が高ければ高いほど、レアなアイテムが手に入りやすくなる。

 また、宝箱がトラップかどうかは、冒険者が宝箱に手をかけた瞬間に判定があるため、幸運値が高ければ、そもそも宝箱がトラップであるという可能性も低くなるというわけだ。

 そして、彼女には、さらに強みがある。ユニークスキルだ。

 エリゼの持つユニークスキルは【女神の加護】。

 これは、術者の回復術の効果をアップさせると共に、本人の幸運値にも大きな補正が入る。

 つまり、並の冒険者の数倍の幸運値を持つエリゼが、さらにブレッシングを使ったわけで、その幸運値がいかに規格外かということがわかるだろう。

 

「開けます」


 少しだけ気負った表情で、宝箱に手をかけたエリゼ。

 ギィとわずかに軋む音を響かせて、赤い宝箱が開く。

 その瞬間、少なくともトラップではないことが確定し、ホッと息を吐いた。

 そして、宝箱の中へと目を凝らす。


「へぇ、いいじゃないの」


 そこに入っていたのは、杖だった。

 一般的な樫の杖の先端部分に、赤い宝玉がはめ込まれたような形状をしている。

 ふむ、見た目からして、あの宝玉は魔力の増幅器のようだ。属性は炎。


「完全にコロモ専用装備だね」


 この杖なら、コロモのファイヤーボールの火力をさらに上げることができる。

 まさか、ボスドロップではなく、道中の宝箱で、こんなに良さそうな武器をゲットできてしまうとは……。

 もしかして、これもチェルの計算だったのだろうか。確か、防御力の高い魔物が多いこのダンジョンは、逆に、攻撃力の高い武器のドロップが多いらしいし。

 なんにせよ、めちゃくちゃ幸先が良い。

 みんなに促されるように、コロモがその杖を手に取ると、軽く魔力を通した。


「す、凄い……。たったこれだけの魔法力で……!」

「確かに……」


 魔力の流れの見える僕とエリゼは素直に関心した。

 なかなかに魔力アップ効果が高い。これ、何気にかなりのレア装備じゃないか……。


「これはまた、コロモの火力がアップしそうだな……」

「はい、師匠!! がんばります!!」


 新しい杖を抱きしめて、やる気満々のコロモ。

 ただでさえ、Aランクレベルの攻撃力を誇るコロモのファイヤーボールがさらに強化されるとなると、それはもはやSランクレベルでは……。

 これは、僕のサポートが必要なくなる日も、そう遠くはないかもしれない。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ