042.精霊術士、上級ダンジョンに挑む
そんなこんなで、あわただしい日々は、まるで矢のように過ぎ去り、10日後。
僕らは、極光の歌姫は、上級ダンジョンの一層を攻略していた。
「はぁっ!!」
セシリアさんの長槍が、突進してきたアルマジロ型の魔物の硬い外皮を貫く。
同時に、チェルとコロモは連携して、周囲にいたコウモリ型の魔物を排除した。
それぞれそれなりの運動量だが、まったく息が切れる様子はない。
それもそのはず、エリゼが唱えた体力常時回復のバフがかかっているからだ。
もちろん、僕も、特に前衛であるチェルとセシリアさんを中心にバフを飛ばす。
堅牢の魔窟は、さすがに上級ダンジョンだけあって、魔物の質も数も中級までの比ではないが、それでも、僕らは危なげなく戦闘を進めていた。
「ふぅ、とりあえず、ひと段落ね」
額の汗を拭きながら、チェルが独り言ちる。
地面に転がった魔物達の亡骸が、徐々に瘴気になって散っていく。
「なかなか良い動きだな。チェルシー」
「あんたもね。さすが戦乙女ってところかしら」
チェルシーとセシリアさんが、どちらも少し上から目線ではあるが、健闘を称え合っていた。
一緒に、戦ってみてわかったが、やはりセシリアさんの戦闘力はたいしたものだ。
特筆すべきは、その攻撃力。元々、槍はかなり破壊力のある武器ではあるが、セシリアさんは、自身のユニークスキルである【闘気覚醒】を使うことで、武器そのものに"闘気"と呼ばれる生命エネルギーを纏わせることができる。
生命エネルギーを付与された槍は、攻撃力が飛躍的にアップし、例え、どんなに堅牢な防御力を誇る魔物であろうと、一撃で葬り去ることができていた。
なるほど、チェルが、最初に攻略するダンジョンを、ここにしたのも頷けるというものだ。
いくら防御面で秀でた能力を持つ魔物であろうと、セシリアさんなら、たいていは貫くことができてしまうのだから。
半面、チェルの攻撃力は、レベルがまだ20そこそこということもあって、セシリアさんと比較すれば、大きく劣る。
だが、彼女自身その点は、十分理解しており、ダンジョン内でも、数は多いが、防御力はさほどでもない魔物を中心に、相手をしている。
その上、火力面で劣る分は、コロモとも連携を図っており、硬い敵は、攻撃力のあるセシリアさん、数が多い敵は、立ち回りの上手いチェルという風に、上手く役割分担ができていた。
お互いの呼吸を知る、というアイドルとしてのダンスレッスンが、少なからず役に立っているのかもしれない。
「それにしても、さすがだな、ノル……いや、ノエル君」
「えっ?」
「私には精霊は見えないが、君がサポートしてくれていたのは実感としてわかる。私にもバフをかけてくれていたのだろう?」
「あ、はい……でも、ほんの効果の薄いものですよ」
正直、強力なバフは、レベルで劣るチェルの方にかけているので、セシリアさんには、気持ち素早さを上げる加護を与えているだけだ。
ヴェスパは、もっと強力な加護を与えても、まったく実感していなかったが、さすがに達人クラスの冒険者となると、魔力を感じ取れずとも、自身の能力がアップしたことをきちんと肌で感じられるようだ。
「その上、他のパーティーメンバーにも、必要なバフをかけているのだろう。君のその同時並行的なサポートは、まさに才能と努力のたまものだろうな」
「えーと……ありがとうございます」
真正面から、褒められてなんだかめちゃくちゃ照れ臭い。
セシリアさんから褒められるのは、なんだか、チェルやコロモからのものとはちょっと違って、先輩に褒められてるような感覚で、とてもむず痒くて、同時に誇らしくもある。
「あと……やはり、かわいいなぁ」
「えっ……?」
いつの間にか、セシリアさんが僕の頬に触れていた。
「きめ細かい肌だ。まさに神の作った造形美だな。ずっとこの恰好でいればいいのに」
「そ、その……セシリアさん……?」
「ストップ、ストーップ!!」
僕とセシリアさんの間に、慌てた様子で、チェルが入り込んできた。
そうして、小声でささやく。
「セシリア、あんた、不用意な発言禁止」
「ああ、すまない。ついな。かわいくて」
「いや、かわいいのはわかるわ。でも、放送中なんだから、ノルの事はちゃんとノエルとして扱って」
「わかった」
「あと、不用意にノエルに近づきすぎるのも禁止ね」
「それは約束できない」
なんのことやら、なやり取りをしつつにらみ合う2人。
「師匠はやっぱり人気者ですね」
「あはは、ちょっと妬いちゃうかも」
いつの間にか、やってきたコロモとエリゼもなんだか妙に距離が近い。
こういうの和気藹々って言ったらよいのかな……なんだかちょっと違う気もするけど。
「とりあえず、みんな、そろそろ行こう」
「そうね! ほら、セシリア、先頭!」
「任された。ノエルは私が守って見せる」
なんだか、必要以上に過保護にされる気がしないでもない。
まあ、とりあえず、みんな仲は良さそうなので、良いことにしておこう。
とりあえず……。
「あっ、宝箱見っけ」
アリエルの風の瞳で、宝箱を発見した僕は、そちらに向けて、みんなを誘導することにしたのであった。
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