041.精霊術士、今後の計画を立てる
翌朝、事務所での初めての朝を迎えたエリゼは、まるで、いつも通りだった。
元気よく、他のメンバーに挨拶をし、談笑する。
傍から見れば、それは、普段そのものかもしれないが、僕には、彼女が無理をしているのがわかった。
もう暁の翼の事を振り返るのは止めよう。
彼女が辛い想い出を少しでも思い出さずに済むよう、僕自身も、もう2度と振り返らないと決めた。
今のエリゼは極光の歌姫の聖女、そして、僕は、ノエルだ。
新しい未来を2人で、めいっぱい楽しんでいこう。
「人数も増えたし、本格的なアイドルユニットって感じになってきやがったなぁ」
「あのね、マネージャー。言っとくけど、5人になった以上、より本格的に活動するのは冒険者としての方よ」
チェルは何やら、大きな紙を取り出すと、それを壁へと貼った。
そこには、こう書いてあった。
『極光の歌姫、未来への展望(計画表)』
「新しいメンバーもいるし、私達の最終目標、白亜の聖塔の完全攻略までの道筋をしっかり全体で共有しておきましょう」
チェルは、差し棒をポンポンての手のひらの上で弾ませながら、今後の計画を語り出す。
「まず、第1に、この計画は1年計画……いや、もう10か月ってところね。塔への挑戦は、来年の初春あたりを考えているわ」
「ふむ、現時点でのパーティーのランクを考えれば、なかなかの短期決戦だな」
「でも、無謀な計画ってわけじゃないわ。私達が聖塔を攻略するまでに、しなければいけないことは3つ。コロモ、覚えてる?」
「えっ、あっ、はいっ!!」
いきなり、話を振られたコロモは、びくりとしながらも口を開く。
「えーと、まず、3つ以上の上級ダンジョンと特級ダンジョンを1つ攻略すること。それと、パーティーメンバー全員のレベルを30以上にすること。最後に、パーティーのランクをSランクに上げること……です」
「正解。この3つ全ての達成こそが、ギルドの定める、聖塔への挑戦権を得る方法というわけよ。厳密には、パーティーランクはAでも構わないんだけど、聖塔の完全攻略を目標にするなら、Sランクを取っておきたいところね」
「となると、上級ダンジョンの攻略を中心にやっていけばいいってことだね」
おそらく、チェルと僕のユニークスキルがあれば、レベルに関しては容易に達成できるし、Sランクに関しても、実績を積み重ねるには、上級ダンジョンの攻略が一番だ。
上級ダンジョンを攻略し、レベルを上げ、実績を積み重ねていく。それが、僕達が今後取るべき行動だと言える。
「その計画表に描いてあるのが、優先的に攻略する3つのダンジョンなんですね」
「そういうことよ」
計画表の下部には、簡単なイラスト付きで、3つのダンジョンの情報が書き込まれている。
1つ目は、防御力の高い魔物が跋扈するダンジョン、堅牢の魔窟。
2つ目は、世界的にも珍しい水中ダンジョン、黄昏の湖畔。
3つ目は、上級ダンジョンの中でも最難関と言われる、漆黒の魔都。
「まずは、1つ目、堅牢の魔窟の攻略に挑戦するわ。攻略は10日後、それまでに情報収集と攻略計画の作成。あとは、ボス撃破ライブの練習と、盛りだくさんよ」
「やっぱ続けるんだ、あれ」
ダンジョン攻略そのものよりも、僕にとっては、ボスフロアでのウイニングライブの方が、荷が重いかもしれない。
まあ、冒険者やりながら、アイドルもやるというのが、チェルの方針なのだから、僕もそれに従うまでなのだが。
事実、極光の歌姫は、今やアイドルファンからも冒険者ファンからも注目される存在になっている。
エリゼとセシリアさんの加入で、さらに人気も上向き傾向。人気があれば、スポンサーもつくし、パーティーランクの認定も受けやすくなる。
それに、アイドルとして活動し始めてから、なんだか、アリエルの機嫌が良い。
いや、明確な意思を持たないアリエルという存在に、機嫌も何もあったものではないはずなのだが、なんとなく感じるのだ。
この極光の歌姫での活動を、彼女がなんだか楽しんでいるようなのを。
「ダンスの練習は、パーティーの連携を深めるのにも役立つわ」
「た、確かに、ダンスの練習をしていたとき、セシリアさんの呼吸をなんとなく感じることができたように思います」
「相手の呼吸を感じ、動きを合わせる。それは、パーティーでの戦闘にも役に立つことかもしれんな」
「そういうこと。とにかく、しばらくは、午前中は冒険者として攻略の準備、午後はアイドルとしてのレッスン、という形で行くとしましょう。異論は……ないわね?」
全員が、首肯で応える。
「それじゃ、改めて」
チェルが手を差し出す。
すると、遠慮がちに、コロモが、その上に手を重ね、セシリアさん、エリゼと続いた。
「ノエル」
「うん」
最後に、僕が手を重ねると、チェルはニッと大きく口を開いて笑った。
「私達はぁ~」
「かわいい!!」
「強い!!」
「輝くアイドル冒険者!!」
「聖塔の頂目指してぇ~!!」
「極光の歌姫、レディ……」
『ゴー!!!』
円陣を組み、高々と腕を振り上げた僕らは、聖塔の頂を目指すことを、改めて心に誓ったのだった。
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