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040.精霊術士と赤髪の勇者

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!」


 横合いからの全力のタックルで、リオンを吹き飛ばすと、僕は彼に首を絞められていたエリゼを助け起こした。


「エリゼ! 大丈夫!?」

「ノ……ル……」

「ああ、良かった……!!」


 無事を確認でき、思わず彼女を抱きしめる。

 そして、すぐにそのままベースの外へと飛び出す。

 リオンの様子は尋常じゃなかった。

 きっと、すぐに……。


「ノルゥッ!!!!」


 叫びと共に、背後から容赦のない剣の一撃が僕を襲う。


「くっ!?」


 アリエルから加護をもらうと、僕は、エリゼを抱いたまま、全力で横へと跳ぶ。

 ギリギリのところで回避した剣は、そのまま石畳の地面に、鋭い溝を穿った。

 手加減など一切感じられない。完全に、殺すつもりの攻撃だ。


「ノル!! やはり貴様か!! 俺のエリゼをたぶらかしたのは!!」

「リオン、どうしたって言うんだよ!!」

「いつも!! いつも!! お前はぁああ!!!!」


 リオンの全身から、強力な魔力が迸る。

 すると、頭上がにわかに赤い雲に覆われていく。

 あれは、リオンの得意とする呪文、赤雷。

 リオンのやつ、街中で、なんてものを使うつもりなんだ。


「サー・アーチラー!」


 僕は、魔力の消費を度外視して、アリエルに全力で指示を出す。

 風の大精霊であるアリエルによる魔力の籠もった強風で、今にも雷を落としそうだった分厚い雲を吹き飛ばす。

 よし、これで、魔法は発動できない。


「精霊術か……忌々しい!!」

「リオン、もうやめてくれ!! これ以上は取り返しがつかなくなる!」

「黙れ、精霊術士!! 貴様は!!」

「ちゃんと話し合おう! そうすれば……」


 リオンが、剣を切っ先を僕へと向ける。


「エリゼは……俺のものだ!!」

「リオン……」


 もはや、彼に僕の言葉は届かない。

 僕は、抱えていたエリゼを道の端へと下ろした。


「ノ、ノル……」

「エリゼ、ごめん。少しだけ待ってて」


 そうして、僕は、きっとリオンをにらみつける。


「君がなぜ、そこまで怒っているのかはわからない。でも、今の君に、エリゼを渡すわけにはいかない」

「お前が何を言おうが、俺はエリゼを取り戻す」

「だったら、僕は、君を倒すよ」

「倒す?」


 リオンの顔が、嘲笑するようにゆがむ。


「お前が、俺を、倒す? 精霊術士が勇者を倒せるわけないだろう!! 俺はな、最強の職業(クラス)、勇者なんだよ!! ただ、早熟だっただけの、お前如き雑魚とは違う!!」

「でも、僕は、君よりも強い」


 精霊語を呟くように、ぼそりと言うと、リオンの目が、さらに激昂するようにつり上がった。


「だったら、見せてみろぉ!! その強さをぉ!!」


 リオンが動いた。

 腰だめに剣を構え、こちらへと駆けてくる。

 長年、パーティーのリーダーとして、前衛を任されていたリオンの実力は本物だ。

 その上、彼の手にしているのは聖剣。かつて、とある上級ダンジョンで手に入れたものだ。

 赤雷こそ封じたものの、彼は、剣技だけでも十分に、そこいらの前衛職を圧倒できる力がある。

 普段の僕ではとても勝てない。でも、アリエルの力を借りれば、負ける気は、少しもしない。 


「ペル・サーイサ・オー」


 呟くと同時に、僕の全身から翡翠色の光が放たれる。


「なっ!? ごふっ!!!!」


 次の瞬間、僕の拳は、リオンのみぞおちにめり込んでいた。


「なん……だと……」

「精霊憑依……。リオン、君が捨てた僕とアリエルの力、見せてあげるよ」


 拳に纏った風を一気に解放すると、リオンがまるでボールのように軽々と吹き飛んだ。

 大精霊と同格の存在となった僕は、ただのパンチでも圧倒的な殺傷能力を持つ。

 身体をくの字に曲げて飛ばされたリオンは、やがて、僕が作り出した風の障壁へとぶち当たった。

 街への被害を出さないため、形成した風の檻。

 この中ならば、どれだけ無茶な戦いをしようが周囲への影響はない。

 音さえも遮断するこの戦場の中で、僕は静かにリオンを見据える。

 とはいえ、さすが勇者、とでも言おうか。

 なんとか態勢を整えたリオンは、風の壁を蹴るようにして、再び、こちらへと向かって来る。


「ノルゥ!!!!」


 彼が放った真空の刃が、吹き荒れる嵐のように、いくつも僕に降りかかる。

 しかし、今の僕にとって、そんなものはさざ波に過ぎない。

 軽く手を振るうだけで、その鋭い剣閃は、ただの大気へと還る。

 さらに、もう一度、今度は左手を振るえば、猛烈な突風を生み出し、こちらへ一直線に飛翔しようとしていたリオンを打ち落とした。

 地面に叩きつけられたリオンが、苦悶の表情を浮かべる。


「き、貴様ぁ……!!」

「リオン、君は僕には敵わない」

「!? 違う!! 俺は、お前なんかよりも!!」

「もう、終わりにしよう」


 僕は、右腕に、まるで聖剣を模したかのような風の刃を作り出す。


「真っ向勝負だ。僕が勝ったら、2度とエリゼには近づくな」

「ノルゥウウウウウ!!!!」


 全速力で、お互いの間合いを詰める。

 瞬間、振り抜いたリオンの聖剣と僕の風の刃が交錯した。

 一瞬の静寂の後、カラン、と金属質な音が、その場に響き渡った。


「バカ……な」


 リオンの振りかざした聖剣、その半ばから先端が折れ、煌きながら、地面へと落ちていた。

 そうして、彼自身も、まるで、眠るように、その場に倒れ込む。

 それを確認すると、僕はすぐさま風の障壁と精霊憑依を解き、エリゼの元へと向かった。


「エリゼ」

「ノル……」


 彼女は、僕へとぎゅっと抱き着いた。

 その手は、わずかに震えていた。

 よほど、怖かったのだろう。

 僕は、彼女の頭を撫でつつ、倒れ伏すリオンを眺めた。

 エリゼに裏切られたと叫び、激昂したリオン。

 その怒りは常軌を逸していた。

 何が、彼をこんなに怒らせたのかは、わからない。

 でも、少なくとも、大切な幼馴染を傷つけようとした彼を、僕は、もう、許すことができなかった。


「大将!!」

「リオン様ぁ!!」


 その時、ヴェスパとメグの声が聞こえた。

 ようやく追いついたらしい彼らは、意識を失い、地面に倒れたリオンの周囲に膝をつく。


「どうなってんだよ!! 何なんだよ!!」

「リオン様ぁ……どうして……!!」

「ヴェスパ、メグ」


 僕は、エリゼの手を引いて、立ち上がりながら、冷淡に2人に告げる。


「エリゼも、僕も、もう2度と暁の翼には帰らない」

「おまっ……お前が、まさかっ!!」

「リオンが起きたら、伝えておいてくれ。もし、再び、エリゼを傷つけるようなことがあったら──」


 一瞬だけ、精霊憑依の力を解放し、ヴェスパやメグにも見える形で、僕の魔力の圧をかける。

 2人は、それだけで、瞳孔が開き、小刻みに震え出した。 


「──今度こそ、僕が君を殺す、って」


 それだけを言い残すと、僕はエリゼの手を引いて、その場を後にした。

 振り返ることは、2度としなかった。

10万字突破しました。できるだけ、完結まで、ノンストップで更新できたらと思います。


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