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037.精霊術士と新しい仲間

「みんな、ありがとうー!! 今日も最高のライブになったわ!!」


 定期的に開催しているチェルのミニライブ。

 たまにある広場を全面借り切ってのライブとは違い、街の北側にある円形ステージを使ったこのライブは、収容人数ほど広場の半分にも満たないが、それでも、かなり盛り上がっていた。

 ミニライブとはいえ、人気アイドルのチェルの単独とあって、生配信も行われている。

 そんな大盛り上がりのライブはいよいよクライマックスに迫っていた。

 最後の曲を歌い終わったチェルは、息を整えながらも、会場中へと笑顔を振りまく。


「みんな! この前、極光の歌姫がメンバー募集のオーディションをするって放送したの、見てくれた?」

「見たよー!!」

「うちの妹も応募したー!!」


 会場中の至るところから、思い思いの声が飛ぶ。


「今日はね。そのオーディションで最後まで残った2人に、これからライブを披露してもらおうと思うの」

『おおおおおおっ!!』


 会場の反応も上々だ。


「今から出てくる2人が、極光の歌姫のメンバーになるかどうかは、みんな次第。声援で、拍手で、彼女達がメンバーに相応しいか、教えてちょうだい!」

「わかったー!!」

「忖度はしねぇ!!」

「じゃあ、ミュージックスタート!」


 舞台袖で、純白のアイドル衣装を身に纏ったエリゼの肩に、僕はそっと触れる。


「エリゼ、君なら絶対できる」

「うん、ノル。私を……見てて!」


 舞台袖から会場へと駆け出すエリゼ。

 上手側の袖からは、セシリアが同様に駆け出す。

 同じ衣装を着た2人の姿がステージに登場した瞬間、会場がにわかにざわつき出した。


「ちょ、あれ……」

「見たことあるぞ。あの左の子……確か、暁の翼の」

「そうだ! エリゼちゃんだ!! 聖女様だよ!!」

「待って、隣のお姉さまは……」

「セシリア様よ。戦乙女……綺麗……」


 冒険者界隈に詳しいファンたちから、次々とそんな呟きが聞こえる。

 まさか、彼女達ほどの有名人が出て来るとは予想していなかったのだろう。

 戸惑いはあるが、雰囲気自体は悪くない。さあ、2人とも……。


「がんばれ!!」


 心の中での激励と共に、2人のダンスがスタートした。

 アップテンポな曲調に合わせ、基礎基本のボックスステップ、そこからのくるりと1回転も完璧だ。

 1週間の必死の練習で、2人のダンスはここまで完璧。

 だが、問題は、サビに入る部分だ。

 振りが大きくなるその部分で、エリゼはこれまでテンポアップについていけず、何度も失敗をしていた。

 彼女のダンスを確実に成功させるには、風の加護が必要。でも……。

 一瞬、精霊語を呟こうとした僕は、やはりその口を閉じる。

 少し前の事だ。


「ノル、私は自分の力だけで、きっとみんなに満足してもらえるパフォーマンスをしてみせます。だから」


 僕を見つめ、彼女はこう言った。


「何もせず、私を見守っていて下さい」


 その真摯な瞳には、この1週間、頑張り抜いてきた彼女の全てが映っていた。

 だから、僕は、一切のサポートをしない。

 ただ、彼女を信じて、見守るのみ。


「がんばれ、エリゼ!」


 叫ぶように声をかけるうちに、やがて、曲はサビへと差し掛かる。

 振りが大きくなる部分。何度もエリゼが遅れてしまったその部分。

 だが、しかし、彼女は、額に汗を光らせながら、懸命にセシリアさんについていく。


「できてる……。できてるよ、エリゼ!!」


 思わず笑いがこみ上げる。

 有言実行。彼女の努力は無駄じゃなかった。


「すげぇぞ、あの2人!!」

「ああ、セシリア様、かっこいい……」

「聖女様も負けてねぇぞ!!」


 激しくなったダンスに、会場のボルテージがさらに上がっていく。

 だが、その時だった。


「あっ……」


 そんな声が聞こえた気がした。

 最後の最後、決めポーズへと至るステップの最中、エリゼの足がもつれた。


「エリゼ!!」


 反射的に、精霊術を使おうとしてしまったその時、エリゼの腕をセシリアさんが掴み、引き上げた。

 そうして、そのまま、お姫様抱っこするように一回転すると、2人してポーズを取る。

 セシリアさんによる見事なサポートで、転倒を免れたエリゼ。あまりに自然な所作だったので、観客もそれが規定の振付なのだと思ったようだ。

 わずかに息を整えながら、ステージの中央に佇む2人に、惜しみない拍手が送られる。


「ふぅ、ここまでやられちゃ、入れないわけにはいかないわね」


 いつの間にか、僕の傍までやってきていたチェルが、両腕を組みながら、そうつぶやく。


「うん……!」


 キラキラと輝いた2人の姿を僕は胸を熱くしながら、見守っていた。

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