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033.精霊術士、戦乙女と再会する

「なに、ノエル、知り合い?」


 明らかに面識のある風の僕とお姉さんの様子を見たチェルがそう言った。


「あ、いや、実は先日、ぬいぐるみを買った時に……」

「ああ、ぬいぐるみの楽しいダンスを見せてもらってな。実に有意義な時間だった」

「へぇ……」


 チェルが、隅に置けないわねぇ、といったような表情で、机の下で僕の脇腹をついて来る。

 あ、あ、やめて、変な声出る。


「で、でも、なんで、お姉さんがこんな場所に……」

「君にもう一度会いたかった、というのが、一番の理由だが。実は私も冒険者でね。純粋に、君達のパーティーに興味がある」

「とりあえず、掛けてもらっていいわよ」

「ああ、失礼しよう」


 椅子に深く腰掛けると、お姉さんはややピシりと背筋を伸ばした。


「あなたもオーディション参加っていうことでいいのね」

「ああ、ちょうど、以前のパーティーを抜けたところでな。君達の実力は、動画で見せてもらった。私が入るに、ふさわしい実力のパーティーだ」

「随分上から目線じゃない」

「君ほどじゃないさ」


 お姉さんとチェルの間で、なんだか火花が散っているような……。

 どことなくこの二人、性格的に似ているのかもしれない。

 それにしても、この自信、お姉さんは、割とベテランの冒険者なのだろうか。


「じゃあ、名前とレベル、職業(クラス)をお願い」

「ああ、名は、セシリア。西方でよくある名だ。レベルは51、職業(クラス)戦乙女(ヴァルキリアス)

「えっ、えっ、えっ……!?」


 つらつらと答えたお姉さんの言葉に、驚く個所が多すぎて、混乱する。

 いや、待って。

 戦乙女……って、この人、僕の代わりに暁の翼(ウィングオブドーン)に入ったっていう、あのセシリアだったの!?

 言われてみれば、確かに、噂に聞いてた容姿と合致している。

 それに、レベルは51、今日の参加者の中でも、ダントツの高レベルだ。僕よりも上だし。

 えっ、でも、暁の翼(ウィングオブドーン)に入ったはずのセシリアさんが、なんで、極光の歌姫ディヴァインディーヴァのオーディションに……?


「噂の戦乙女か……。ステータスもすさまじいわね」


 自己開示したセシリアさんのステータスを見ながら、さすがのチェルも唸る。

 当然だろう。彼女が本物の戦乙女(ヴァルキリアス)セシリアだとしたら、上級ダンジョンのソロ攻略という偉業を為した、ある種英雄じみた存在だ。

 単純な実力で言えば、今、この街にいる冒険者の中でも、間違いなく5本の指には入るだろう。


「ちょ、ちょっと待ってください」

「なんだい、ノエル君」

「あ、いや、セシリアさんは、暁の翼(ウィングオブドーン)に所属しているはずでは……?」

「ああ、辞めてきた」

「ふぇっ……!?」


 脱退したってこと?

 いや、それにしたって、いくらなんでも早すぎる。

 マスコミだって、一時は、戦乙女が加わった暁の翼(ウィングオブドーン)が、聖塔の攻略に挑戦するって騒ぎ立てていたのに。

 いったいあの話はどこに行ってしまったんだ。


「私の冒険者としての目標は、聖塔の完全攻略だ」


 セシリアさんは語る。


「君達のパーティーなら、いずれは、それができる可能性があると思っている。背中を預けるならば、君のように優秀な精霊術士にしたい。だから、私を使ってはもらえまいか?」

「あ、それは、是非……」

「ちょっとノエル。勝手にほだされてんじゃないの」


 あ、いかんいかん。今は僕は、審査員という立場だった。


「あなたの意思はわかったわ。冒険者として有能なのも、疑うべくもない。でも、うちはアイドルとしての活動もやっていくのよ」

「容姿には、それなりに自信がある」

「まあ、確かにね。でも、アイドルはただ笑っているだけのお人形じゃダメなの。歌って、踊って、みんなに楽しさを感じてもらえる、そんな存在でなければいけない」

「ふむ、歌に、踊りか……」


 さすがの戦乙女も、歌や踊りについての造詣は深くないらしい。

 確かに、歌って踊っている戦乙女って、あんまりイメージできないけど。


「でも、正直言って、今日の参加者の中で、あなたはダントツで優秀だわ。包み隠さずに言えば、欲しい。だから……」


 チェルは、立ち上がると、なぜか一度クルリと回ってから、ビシッと言い放った。


「1週間あげるわ。それで、課題のダンスを完璧にこなすことができたら、パーティーへの加入を認める。それで、どうかしら」

「ああ。それが条件だというのなら、受けよう」


 セシリアさんも、立ち上がり、2人はお互いの意志を確認するように視線を交わした。

 最強のアイドルに、最強の冒険者……こんな形で邂逅するなんて夢にも思わなかった僕であった。




「じゃあ、1週間後に、また、ここに来なさい」

「ああ、期待に添えるよう善処しよう」


 こうして、とりあえず、一旦、セシリアさんと分かれることになったんだけど……。


「ノエル君」

「セシリアさん」

「正式に加入した暁には、また、改めてあのぬいぐるみのダンスを見せてくれるかい?」

「もちろんです。頑張ってくださいね」

「ああ」


 そうやって握手を交わす。

 細身ながら、ガッチリとした手は、さすがに歴戦の冒険者という印象だった。


「ああ、それと……」


 去り際、セシリアさんは、少しだけいらずらっぽく微笑むと、僕へと言った。


「次の参加者は、少し取り乱すかもしれないが、優しく受け入れてやってくれ」

「えっ、それってどういう……」


 意味深な言葉を残しつつ、セシリアさんはそそくさと部屋を出て行った。

 取り乱すって、いったい……。


「じゃあ、最後の人、入って」


 チェルが合図とすると同時に、部屋へと最後の参加者が入ってきた。


「…………あっ……」


 それはよく見知った人物だった。

 美しい金髪に、聖職者が着るような純白のローブ。

 まるで、女神が人間に転生したかのような、圧倒的な美貌と、清楚な雰囲気。


「……エリゼ」

「ノル……やっと会えた……!!」


 瞳にうっすらと涙を溜めつつ、最後のオーディション参加者──エリゼは、一も二もなく、僕へと抱き着いてきたのだった。

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