032.精霊術士、オーディションをする
新メンバーのオーディション。
それが、チェルが打った次の一手だった。
冒険者のパーティーは最大で5名。
現状の極光の歌姫は、3名であり、まだ、2名分の空きがある。
中級ダンジョンを卒業し、これからより上級のダンジョンに挑戦していくことを考えた時、2名の加入メンバーを募るのは、どうしても必要となることだった。
内訳としては、前衛が1人、後衛が1人という形だろうか。
とはいえ、オーディションという形で、冒険者のメンバーを募集するなんて、前代未聞だ。
通常、冒険者達は、ギルドで直接声をかけるか、あるいは、パーティーメンバー募集の掲示板などを利用してマッチングするものだ。
こうやって、オーディションという形式でメンバーを募集するのは、まさに、知名度があるパーティーだからこそできる荒業と言えた。
「はい、じゃあ、次の方」
そして、もうそのオーディションは始まっている。
審査員は、チェルと僕だ。
コロモとマネージャーさんには、受付のような仕事をしてもらっている。
僕達2人が座る長机の前には、一脚の椅子があり、そこには入れ替わり立ち替わり、オーディションにやってきた冒険者が座っていた。
今、やってきた冒険者は、やや年嵩の女冒険者だった。
いわゆる戦士タイプの前衛職で、ビビットピンクのプレートアーマーを直接肌に装着している。
俗に言うビキニアーマーというやつだ。
かなりセクシーな見た目のその冒険者は、その肢体が自慢らしく、自己アピールとして、セクシーポーズを披露していった……正直、かなり目に毒だった。
「はい、ありがとうございました。結果は追って通知しますので」
事務的にそう告げると、流し目を送りながら、その露出過多な女冒険者は去っていった。
「…………はぁ」
「あら、気疲れ?」
「そりゃ……ね」
すでに、20人近くの候補者を審査している。
主に質問をするのはチェルで、僕はあくまで、いくつかの評価ポイントをチェックしていっているだけなのだが、それでも、やはり慣れない行為に、気疲れは禁じ得ない。
「いいじゃない。役得で、セクシーアピールも見られるし」
むしろ、それで消耗してるんですけど……。
はぁ、と心の中でため息を吐きつつも、資料へと目を通す。
「で、チェル的には今の人は、どうなの?」
「まあ、おばはんね。たぶん年齢も詐称してるわ」
手厳しいことで……。確かに、僕らに比べれば少し年嵩だったけれども。
「レベルとステータスも落第点かな。動きを見てたけど、体幹もダメね。歌やダンスは素人でもいいけど、伸びしろが感じられない人はアウト」
実際、チェルはよく見ていた。
今の彼女は、冒険者のレベルとしては、中の上、という印象だったが、セクシーさはともかくとして、戦闘面では、何か特別なことができそうには思えなかった。
チェルが応募に際して出した条件にも、がっちり当てはまっているとは言いづらい。
その応募条件とはこうだ。
まず、第一に22歳以下の女性であること。また、自分の容姿にある程度自信があるもの。
冒険者だけでなく、アイドル活動も視野に入れることになるので、これは順当。
そして、第二に一芸に秀でた者。例えば、コロモのように、ファイヤーボールなら誰にも負けないと言ったような、一点特化の強みを持つことだ。
平均的な人材は求めていないということ。たとえ、欠点があろうとも、それは他のメンバーで補える。
そして、第三。これがある意味最も重要かもしれないが、聖塔を攻略するという目標に真剣に向き合える人。
僕らの最終目標は、あくまでも聖塔の完全攻略。ただ単に、アイドルパーティーとしてちやほやされたいから応募した、などというのでは話にならない。
アイドルも冒険者もどちらも真剣。それだけのバイタリティを持ち得る人を、チェルは求めていた。
「でもなぁ……」
正直、今まで見た20人余りの参加者の中には、ピンとくる人はいなかった。
そもそも、チェルが求めている人材のレベルが高すぎるのだ。
容姿が良くて、冒険者としてもアイドルとしても素質が高く、なおかつ、聖塔の攻略という大目標に向けて、一緒に邁進してくれそうな人、となれば、そりゃあ、なかなかいなくて当然である。
残る参加者はたったの2名。正直、もうほぼ、希望は潰えた……そう思っていた。
「失礼する」
ノックの音が響くと、次の参加者が部屋へと入ってくる。
「…………えっ?」
部屋に入ってきた瞬間、空気が変わった。
さわやかな風が吹き抜けたような感覚を感じると共に、その一挙手一投足に視線が集中していた。
それくらい、新たに入ってきたオーディション参加者は、美しい見た目をしていたのだ。
そして、その美貌を持つ人に、僕は見覚えがあった。
「あ、あなたは……」
「久しぶりだ。ぬいぐるみを見せてもらいに来たよ」
そう、部屋の中央に佇むその人は、いつかのぬいぐるみ屋で、ぬいエルを譲ってくれたあのモデルのようなお姉さんだった。
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