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031.精霊術士、聖女に見つかる

「あ、セシリアさん」

「エリゼ」


 中央区にあるオープンテラスのカフェで、セシリアさんと合流した私は、すぐさま頭を下げた。


「すみません。遅くなってしまって……」

「いや、気にするな。今日も方々探し回っていたのだろう。だが……結果は芳しくなかったようだな」

「……はい」


 暁の翼(ウィングオブドーン)の上級ダンジョン攻略失敗からはや10日、その間、私は、いろいろな伝手を辿って、ノルの行方を捜していた。

 ギルド関係の情報網は、ほぼほぼ辿りきったし、役所にも問い合わせた。街頭で尋ね人として、チラシを配ったりもしてみたものの、結局、これまで有益な情報は得られていない。

 唯一、ノルが脱退直後に、ギルドで加入させてもらえるパーティーを募っていたことはわかったが、それもすでにひと月近く前の話になってしまった。

 その場にいた、どのパーティーにも加入していないことは明確になったものの、その後の行方は(よう)として知れない。


「セシリアさんの方では、何かわかりましたか?」

「いや、残念ながら。近くの街々の冒険者ギルドにも問い合わせてはみたが、どこのギルドでも、ノルという冒険者がクエストの受諾やダンジョン攻略をしたという記録は残っていないらしい」

「そうですか……」


 ノルは、もう、冒険者をしていないということだろうか。

 他に可能性があるとすれば、故郷に帰った、あたりだろうか。

 そちらには、一応、両親宛てに手紙をしたためたので、返事を待つほかない。

 

「気を落とすな。今に見つかるさ」

「はい……見つかるまで、探し続けるつもりです」


 実際、今の私には、ノルと再び会うこと以外の事が考えられなくなっていた。

 彼を探し始めてから、自分がいかに、彼に会いたかったのかわかった。

 探せば探すほど、見つからなければ見つからないほど、強く、彼の事を求めている私がいた。

 彼の顔が見たい。声が聞きたい。また、一緒に、冒険がしたい。

 日増しに強くなっていくその想いに、自分でも驚くくらいだった。


「セシリアさんは、私に付き合う必要はありませんからね」

「いや、私も、実は、会いたい人物がいてな。その人にもう一度会うまでは、この街に留まるつもりなんだ」

「会いたい人……ですか?」

「ああ、かくも可憐な少女でな。少し不思議な術を使うのだが……」

「へぇ……あっ、それだったら、私にもその特徴を教えて下さい。一人も二人も、探す手間は変わらないので」

「いや、私の方は、君に比べればそれほど重要というわけでない。だから、気にせず……」


 と、そこで、セシリアさんが言葉を切った。

 いや、彼女が、何かに気を取られたという方が正しい。

 視線の先を追うと、そこには、店に備え付けの映像水晶(パルスフィア)があり、番組が流れている。

 どうやら、冒険者の情報を取り扱う番組のようだ。私達も、セシリアさんが加入した時は、この番組で紹介をしてもらったことがある。


「見つけた……」

「えっ?」

「いや、今、言っていた探し人だ。あのぬいぐるみを持った少女」


 示す先には、冒険者らしからぬフリフリの服を着た女の子の後姿が映っていた。

 薄い緑色の髪をツインテールに結ったその少女は、なぜだか、攻略中だというのに、ぬいぐるみを持っていた。

 疑問に思っていると、彼女が手放したぬいぐるみが、なんと勝手に動いて、中級ダンジョンのパズルを解き始めたのだ。


「まさか冒険者をしていたとは……。それにしても、ぬいぐるみでダンジョンの攻略をしてしまうとは……かわいい……」


 セシリアさんは、恍惚とした表情で、少女とぬいぐるみの姿を見つめている。

 クールなイメージがあったが、どうやら、セシリアさんはかなりのかわいいもの好きであるらしい。

 いや、それにしても……。

 目を細めるようにして、映像水晶を眺める。

 なんだろう。どこか既視感を感じる。

 あの少女の背格好、そして、戦い方……。


「いやぁ、鮮やかな攻略でしたねぇ」

「ええ、本当に素晴らしいです。まさか、あんな風にぬいぐるみを使って、ダンジョンのパズルを攻略してしまうなんて」

「ノエルちゃんは、精霊術士ということですが、こんな風なこともできるなんて、私は考えもしませんでしたよ」


 そんなコメントするアナウンサーとコメンテーターの会話に耳を澄ませる。

 どうやら、この映像は少し前の生放送の一部を切り取ったものであるようだ。

 名前はノエル……それに、精霊術士……いや、でも……。


「エリゼ……?」


 私は、立ち上がると、映像水晶のもっと近くへと移動する。


「それでは、最後に、アイドルパーティー、極光の歌姫ディヴァインディーヴァから皆さんへの重大発表があるそうです。映像をご覧ください」


 食い入るように見つめる先で、映像がパッと、ライブステージへと切り替わった。

 観客はおらず、フラットな照明を当てられる中で、3人の少女が立っている。

 引きで見ても、3人ともかなりの美少女だ。

 と、真ん中の華やかな少女が、こちらへと手を振った。


「みんな! 久しぶり! この前のダンジョン攻略の時に言っていた大きな報告をみんなにしようと思って、今日は時間をもらったの! 前置きは無しでさっそく行くわね!」


 パンッと彼女が指を鳴らすと、ステージの上部から大きな垂れ幕が釣り下がった。

 そこには、達筆な文字でこう書かれていた。


『極光の歌姫、新メンバー募集オーディション』


「この度、極光の歌姫ディヴァインディーヴァは、一緒に冒険をしてくれるメンバーを募集するわ!!」

「え、えっと、私達の目的は、"白亜の聖塔"の攻略です!! 募集の条件は……」


 つらつらと魔術師らしき制服姿の少女が応募条件を読み上げる中、私は、未だアップにならないあのぬいぐるみの少女に注視していた。

 ありえないとは思う。だけど……。


「条件は以上です! 我こそはという人は、是非、こちらまで問い合わせをお願いします!」

「一芸に秀でた人、大歓迎です。僕達と一緒に、聖塔の頂を目指しましょう」


 ぬいぐるみに手を振らせながら、こちらに笑顔を向ける少女。

 その姿が、はっきりとアップになった瞬間、彼女の顔が、私の探していた彼と重なった。

 まるで像が重なるように、疑惑が確信へと変わる。


「………………あ、あ……」

「どうしたのだ、エリゼ?」

「えっ、いや、でも、そんな……!!!!!」

「お、落ち着け! どうしたというのだ!!」

「セシリアさん、いました!! いたんです!!」

「だから、何がだ?」


 私は、画面の先で、手を振る美少女を指差して言った。


「ノルです!! あの娘、ノルなんです!!」


 興奮する私をしり目に、セシリアさんは、わけがわからないという表情で、私と映像水晶の間で目を彷徨わせていた。

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