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030.精霊術士、ファンレターをもらう

 矩形(さしがた)の迷宮の攻略。

 本来なら、ひたすら地味になるはずだったその攻略動画は、町中の話題をかっさらった。

 功労者は、間違いなくぬいエルだ。

 ぬいぐるみを使ったパズルの攻略は、視聴者にとっては、かなり新鮮だったらしく、視聴率も恐ろしいほど良かったということだ。

 中級ダンジョンの攻略だというのに、特級ダンジョンの攻略よりも視聴率が上だというのだから、いかに僕たちのパーティーが、世間の注目を集めているのか、わかるというものだろう。

 かくして、一層、知名度を上げた僕達は、次の攻略への下準備をしながら、日々を過ごしていた。


「おう、お前ら、レッスンは順調か?」


 ダンスレッスン途中の休憩時間。

 外回りに行っていたらしいマネージャーさんは、2階のレッスン室までやってくると、水分補給をしていた僕へと声をかけてきた。


「はは、まあまあですかね」


 実際、まだまだ課題は多いものの、少しずつ上達しているのを感じていている。

 ダンス中も余裕が出てきたのか、ぬいエルをより細かく踊らせることもできれば、踊りながらの移動なんかもかなりそつなくできるようになっていると思う。

 もちろん、チェルのレベルに比べれば、まだまだ、素人みたいなものだろうが、時間を考えれば、長足の進歩といっても良い……と自分では思っている。


「そこは、完璧だって胸張って答えろよ。まあ、お嬢の前じゃ、なかなかそんなふうにゃ言えねぇか」

「ちょっと、マネージャー。それどういう意味よ」


 軽口を叩き合うチェルとマネージャー。

 そんないつも通りのやり取りを眺めていると、マネージャーさんから、「ほれ」と何やら紙の束を手渡された。

 

「これは……」

「お前さん宛てのファンレターだ」

「えっ……?」


 確かに、よく見ると、その紙は手紙だった。封をされたものもあれば、便せんだけのものまでさまざまな種類の手紙が束になっている。

 枚数は、少なくとも数十枚。下手をすると百を超えているかもしれない。


「極光の歌姫って、本当に結構人気があるんですね」

「はぁ? ちゃんと聞いてなかったのか? こりゃお前さん宛てのファンレターだ。パーティー全体やお嬢とコロモの分は、また、別だ」

「ふぇっ?」


 見れば、確かにチェルの方には、もはやズタ袋に入れられた大量の封書が置かれていた。

 下手すると、千枚以上じゃないだろうか……。

 いや、僕が受け取った数も十分凄いんだけど……。


「ありゃ別格だから気にすんな。お前さんも、そこらのアイドルと比べりゃ、もう遥かに人気者だぜ」

「そ、そうなんですね……」


 いや、驚いた。

 まさか、僕なんかに、こんなにファンレターが送られてくるとは……。

 まあ、ノルではなく、ノエル宛ての手紙なので、若干複雑なところではあるんだけど、今まで、こんなものをもらったことがない僕にとっては、素直に嬉しく感じる。

 ふと、手に取った一枚を見てみると、そこには、僕とぬいエルが楽しそうに踊っているイラストが描かれていた。

 どうやら、小さな女の子が、描いてくれたもののようだ。

 あの放送で、普段はあまり冒険に興味のない女児層も、僕らの活動に興味を持ってくれたらしい。

 一生懸命描いてくれたであろうそのイラストを見ていると、なんだか、胸の辺りが、ふわっと温かくなった。


「嬉しいなぁ。お返事も書かないと」


 感慨深さを感じて、手紙を胸に抱いていると、チェルがやってきた。


「さあ、そろそろ番組が始まるわよ」

「あっ、そうだった」


 そうだ。今日はいよいよ、チェルが前回の攻略の時に言っていた"大きな報告"というやつの発表の日だった。

 今回は攻略動画のように生放送ではなく、事前に記録したものを冒険者の情報を扱う番組で、流してもらう手筈になっている。

 急いで、僕達は1階の映像水晶(パルスフィア)の前へと戻ると、チェルが手をかざした。

 水晶に映像が映し出される。そこには、司会進行を務める放送局のアナウンサーが映っていた。

 どうやら、ちょうど始まるタイミングだったようだ。

 はたして、この放送の後、反響はどのくらいあるのか。

 チェルの発案だから、きっと凄いことになるのは間違いないだろうけど。

 期待と不安に胸を膨らませながら、僕達は目の前の映像水晶を食い入るように見つめたのだった。

ここからしばらくアイドルパートが続きます。夜も更新して、なるべく早く進めるつもりですが、ざまぁや冒険パートが見たい方は週末までお待ちください。


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