表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/123

027.精霊術士、ぬいぐるみを購入する

 ぬいぐるみを購入した僕は、お姉さんと共に、店の外へと出てきていた。


「いや、本当に良いものを見せてもらった」


 未だ、興奮を抑えられないのか、目を細めて、うんうんと頷くお姉さん。


「君は、人形遣いか何かなのか?」

「えーと……まあ、そんなところです」

「そうかそうか。本当に素晴らしい腕前だ」


 満足したように、ふぅ、と深く息を吐くお姉さん。

 よほど喜んでくれたらしい。


「でも、本当に良いんですか?」

「ああ、やはり、そのぬいぐるみは君が持っていてくれ。そして、できればなのだが……」


 お姉さんは、少しだけもじもじとすると、意を決したように口を開いた。


「また、近いうちに、ぬいぐるみのダンスを見せてくれると嬉しいのだが……」

「全然構いませんよ。そんなことでよければ」

「あ、ありがとう!! ちなみに、どこに行けば、見れるんだろうか?」

「あ、えーと……」


 どうやら、お姉さんは、僕がどこかで人形遣いとして、公演なんかをしていると思っているようだ。


「実は、まだ、人前では披露したことがなくて」

「そ、そうなのか!? 凄い技術なので、てっきり……」

「あ、でも、その、これからもっと練習して、人前でもできればなぁ、なんて思ってて」


 嘘は言ってない。

 もっとも、人形遣いとしてではなく、冒険者として、なのだけど。


「ということは、君がデビューするまで待てば良いのだな。ふむ、この街に滞在する理由ができてしまったな……」


 お姉さんは、なんだか思慮深げに顎に指を当てている。


「こんなものでよければ、個人的にお見せしますよ」

「ほ、本当かっ!!」


 物凄い剣幕で迫ってくるお姉さん。よほどかわいいものが好きらしい。


「え、えっと、また、都合がつく日があれば……」

「ぜ、是非、頼む!!」

「はい、わかりました。次会う時までに、もっと練習しておきます」


 期せずして、ぬいぐるみの扱いを練習する理由が増えてしまった。

 まあ、その方がより励みになるし、良いか。


「そ、それじゃあ、次は、いつ会えるだろうか……?」

「そうですね、えーと……」

「なあ、あそこにいるの。極光の歌姫ディヴァインディーヴァのノエルちゃんじゃないか……?」


 ふと、そんな声が聞こえ、僕は、反射的に、そちらの方を向いてしまった。


「あ、やっぱりそうだ!!」

「え、あのアイドルパーティーの!?」

「じ、実物、めちゃくちゃ可愛いじゃん……!!」


 顔を向けてしまったことで、もしかして、と思っていた人たちに確信させてしまったらしい。

 そういえば、精霊術を使うために、マスクを外してそのままだった。し、失敗したぁ……。

 一気にざわつく周囲に、焦る気持ちが強くなる。どうやら、"ノエル"は、思った以上に、たくさんの人に認知されてしまっているらしい。


「お姉さん、ごめんなさい! 僕、行かないと……!!」

「君は……」

「そ、それじゃあ!!」

「あ、ちょっと待ってよぉ、ノエルちゃーん!!」

「サイン!! サインちょうだい!!」


 迫ってくるファンと思しき人達から、慌てて逃げる僕。

 アリエルの力を使って、走る速度を倍加させる。

 あっ、そういえば、お姉さんの名前を聞きそびれてしまった。

 ちゃんとした約束もできないままになってしまったけど、また、会えるだろうか。

 お姉さんが譲ってくれた妖精のぬいぐるみを抱きしめながら、僕は、事務所までの道を必死に走ったのだった。




「ノエル……か」


 名前すらもかわいらしいその少女は、どうやら有名人らしい。

 あまりこの街のことについては、まだ、詳しくはないが、そういえば、アイドルなんて存在が人気だということは聞いた事があった。

 もしかしたら、彼女は、アイドルなのかもしれない。

 あれだけ、可憐極まりない容姿をしているのだから、アイドルでなかったとしても、きっと人前に出る仕事をしている人なのだろう。

 宿に戻ったら、彼女の事を少し調べてみるのも良いかもしれないな。

 とにかく、かわいらしい女の子がかわいらしいぬいぐるみを操っている姿……もう一度、見てみたくて仕方がなかった。


「セシリアさん?」


 ふと、呼びかけられて、私はそちらに視線を向けた。


「聖女エリゼ」

「ああ、やっぱり」


 ぽてぽてとした動作で駆けてきたのは、暁の翼の回復担当、聖女のエリゼだった。

 昨日ぶりの再会だったが、寝ていないのか、その翡翠のような目の下には、うっすらと隈が浮かんでいた。


「疲れた顔をしているな」

「あはは、実は、私も少しお暇をもらいまして……」

「そうか。すまなかったな。こんな形になってしまって……」


 彼女を置いて、暁を翼を抜けたことには、わずかばかり後ろめたさがあった。

 だが、彼女は、首を横に振る。


「いいんです。迷惑をかけてしまったのは、こちら(暁の翼)ですから」

「そう言ってくれると助かる」


 疲労の濃く現れる顔に、それでも、彼女は笑顔を浮かべた。 


「彼を探しているのか?」

「はい。暁の翼には……いえ、私には、絶対にノルが必要なので」

「そうか。私にも、この街に滞在する理由ができた。もし協力できることがあれば、手伝わせてもらおう」

「いいんですか?」

「ああ、個人的に、彼とは会ってみたいと思っていたしな」


 あのパーティーをSランクたらしめていたのだ。

 いまさら、ノルという人物の優秀さは疑うべくもない。

 それに、あいつから聞いていた件。それが事実なのかどうか、直接確かめたくもある。


「ありがとうございます。でも、ノルって、一般的な感覚で言うと、地味ですから、見つけるのは相当たいへんかもしれません」

「地味……なのか」


 ふむ、先ほどの少女のように目立つ容姿なら、探しやすかったんだが、どうやら、話はそう簡単には行かないようだ。


「ともかく、もし、彼らしい人物を見つけたら、連絡しよう」

「わかりました。では、ノルの容姿について、伝えられる限りのことは伝えておきます。まず、目が大きくて、とても童顔です。ちょっと色素の薄い瞳をしてるんですが、なんだか惹き込まれるような感じがあって、神秘的な感じがするというか。でも、前髪が伸ばしっぱなしなので、あまりそういう瞳の印象が残らないかもです。髪も薄い翡翠色でとても綺麗なんですけどね。ほっぺたも、まるで小さな子供みたいにぷにぷにでとてもかわいいんです。身長は私とほとんど同じくらいで、手足が細くて、色も白いので、ちょっとなよなよしたように見えてしまうかもなんですが、意外と鍛えられていて、冒険の途中で音を上げたことは一度もありません。二の腕とかふとももとか私よりも細いのに……ちょっとうらやましくて。いや、それは良いんですが、たまに見える鎖骨が、本当に折れそうなくらい儚くて、守ってあげたくなるというか。あっ、でも、決して頼りないというわけではなくて、こう魔物と戦っている時の視線とかには、男の子っぽさも凄くあって……。あっ、声も素敵なんですよ。少し、男の子としては、甲高いように感じるかもしれないですが、口調が穏やかな事もあって、聞いていると凄く落ち着くというか。精霊を操る時のささやくような言葉も、一番彼の近くにいる私には聞こえるのですが、なんていうか、こう背筋がぞくぞくするようなウィスパーボイスというか、思わず、ちょっと聞き入ってしまうような魔性の魅力があって。あと、そうですね。あっ、彼の手なんですけど、私よりも小さいんです! で、凄く綺麗で、まるで、お姫様みたいなんです! 少し前は、よく、こう掌同士を合わせて、まだ、私の方が大きいねぇ、なんて、確認し合ったりなんかして。そうすると、ちょっとだけすねるんですよね。そんな姿が、また、こう弟みたいで、かわいくて。いや、私、本当に弟がいるわけではないんですが、彼とは本当に小さい頃からの付き合いで──」

「いや、すまん。とりあえずは、そのくらいにしておいてくれ……」


 もはや惚気話に近くなってきたそれを、私は必死に静止したのだった。

次回から、再びダンジョン攻略開始します。


「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ