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020.勇者パーティー、ダンジョンを彷徨う

「はぁ……はぁ……おい、どうなっている?」


 襲い掛かってきた魔物の集団を斬り伏せたリオンが、苛立たしげに、剣についた血を払う。


「い、いや、確かに、俺の探知スキルはこっちに宝箱があると……」


 額に冷や汗を垂らしながら、言い訳をするヴェスパ。

 そんな彼は手に棒を持っている。

 彼は棒を立てた時、倒れた方向で、どちらに行くかを決めていた。

 どうやら、それが彼なりの"探知スキル"であるらしいのだが、そんなばかばかしい方法など聞いた事もない。

 事実、さっきから、一度も宝箱を見つけられていないばかりか、敵に見つかったり、トラップに引っ掛かることもしばしばだ。

 本来、盗賊は、こういった探知系の仕事が得意なはずなのだが、戦闘だけでなく、このヴェスパは、本業の方でも、まったく役に立っていない。

 そして、そんな行ったり来たりを繰り返しているうちに、まだ、たった2層だというのに、すでに、パーティーのメンバーは疲弊しきっていた。

 体力のない魔術師のメグに至っては、床に座り込んでしまっている。


「もういい。宝箱を見つける必要はない。一気にボスフロアを目指す」

「いや、でもよっ!」

「あ、あの……」


 控えめに手を上げたのは、エリゼだった。

 彼女は、攻略が始まってからここまで、神妙な表情を浮かべながらも、黙ってついてきていた。


「もう、攻略を断念しませんか?」


 初めて、自分から口を開いたエリゼの一言に、一瞬、周囲が静寂に包まれる。


「何言ってやがんだよ。聖女様! ここからが良いところだってのに!!」

「でも、正直……パーティーが機能していないのは明白です」


 恐る恐るといった口調ながら、エリゼははっきりとそう言った。


「え、Sランクパーティーの俺達が!! たかだか並レベルの上級ダンジョンから逃げ帰るってのかよっ!!」


 ヴェスパの主張はもっともだった。

 陽炎の孤城は、確かに上級ダンジョンではあるが、同クラスの中では、特別難易度の高いダンジョンというわけではない。

 ギルドに認定されたSランクパーティーであれば、本来、苦戦を強いられるようなダンジョンではないはずなのだ。

 だからこそ、今回の攻略は、白亜の聖塔攻略に向けての、あくまで調整であるはずだった。

 しかし、事実として、私達の攻略は、順調とはとても言えない状態にある。


「エリゼ」


 口を開いたのは、勇者リオンだった。


「不安なのか?」

「不安です。とても……」


 リオンはゆらりとエリゼに近づくと、その肩にそっと触れた。


「心配するな。何があっても、お前は俺が守る」

「リオン……でも……」

「リ、リオン様ぁ!! 私もちょっと不安です!!」


 かまってもらうと思ったのか、メグがクイクイとリオンのマントを引っ張った。

 空気の読めない娘だ……。

 リオンは心底不機嫌そうな顔をすると、メグを無視して、先へと進み出した。


「行くぞ」

「あ、リオン様ぁ~!!」

「た、大将!! ボス部屋までは、俺の探知スキルで……!!」


 バタバタとリオンの後をついていくメグとヴェスパ。

 その後ろ姿を見ながら、私は、ふぅ……と息を吐いた。

 同じく、ため息を吐いたエリゼと目が合う。


「私が入る前から、こうなのか?」

「いえ、ノルがいた時は、彼が上手くサポートをしてくれていたので……」


 ノル……か。

 このちぐはぐなパーティーをSランクとして機能させることができていたとは、どうやら、彼は思った以上に優秀な人材だったらしい。

 あの人が言っていたことも、あながち眉唾ではないということかもしれん。


「このまま、ボス部屋まで、何事もなく、辿り着ければよいが……」

「私も、まったく、同じ思いです……」


 2人して顔を見合わせると、私達は、力なく笑ったのだった。

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