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002.精霊術士、ライブを見る

「きっと、あれが、新メンバー加入の話だったんだろうなぁ……」


 思い返してみれば、納得することばかりだった。

 新しいメンバーを入れると最終的に判断したのはリオンだろう。

 僕を連れ出してくれた彼が、僕を切り捨てる決断をしたというのは、正直、かなりショックだった。

 リオンとは、赤ん坊の頃からの付き合いだ。

 幼い頃に、とあるきっかけで精霊と契約し、早々に精霊術士という職業(クラス)を得た僕を、一番に認めてくれたのは彼だった。

 だから、ヴェスパやメグが、いくら僕のことをないがしろにしようと、リオンまではそんなことをすまいと、僕は勝手に確信していた。

 でも、違った。

 一緒にパーティーを組み、冒険を積み重ね、どんどん名声を上げていく中で、いつしか、リオンにとって、僕は足手まといになっていたのだろう。

 考えてみれば、勇者と聖女という誰もがうらやむ職業(クラス)を持つ彼らが、精霊術士なんて、レアではあるけど、地味な職業の僕をパーティーに入れておく必要性など、皆無なのだから。


「はぁ……」


 自然とため息が漏れた。


「でも、せめて、少しくらいは、相談して欲しかったなぁ」


 自分をクビにするにしても、いきなりじゃなくて、事前に話をしてくれていれば、ある程度、納得できたかもしれない。

 けれど、青天の霹靂(へきれき)の如く、パーティーを追われる立場となった今、なんとも言えないもやもやが胸を支配していた。


「これからどうしようか?」


 少しだけ顔を上げると、僕は虚空へと問いかける。

 すると、そこに、わずかに薄緑色の燐光が煌いた。

 それだけで、"彼女"がそこにいることがわかる。

 僕の相棒であり、風を司る大精霊である"エ・アリエル"だ。

 幼い頃に、僕と契約した精霊であり、付き合いもリオンやエリゼに次いで長い。

 精霊の格としては、トップレベルであろう彼女なのだが、いかんせん、明確な形を持っているわけでもなければ、人語を完全に理解しているわけでもない。

 一般的な精霊というのは、小人に羽根が生えたような外見であり、人間好きで、おしゃべりが得意なものも多い。

 しかし、アリエルは、格が高すぎるがゆえに、より存在が自然そのものに近く、よほど鋭敏な感覚を持っていなければ、その存在を認識することさえ困難という、なかなかに認知されにくい精霊だった。

 つまるところ、アリエルに話しかけても、何の返事も返ってこないわけなのだが、幼い頃に、彼女に出会ってから、僕は、彼女に話しかけ続け、それはもはや習慣になっていた。

 実際、出会った頃よりも、少しではあるが、人間の言葉を理解できている節がある。

 今も、僕が意気消沈しているのをなんとなく感じ取ったのか、温かく包み込むような風で、僕の頬を撫でてくれた。 

 うん、少しだけ、元気が出たかも。


「まあ、考えても仕方ないか」


 なんとかして、パーティーに戻る、なんて選択肢はない。元々、あそこには僕の居場所なんてなかったのだ。

 だったら、やることは一つだ。


「とりあえず、新しく雇ってくれるパーティーを見つけよう」


 精霊術士の僕にとって、ソロでのダンジョン攻略は不可能。

 今日はもう夜になるし、明日にでも、ギルドに行って、まずは、パーティーメンバー募集の張り紙でも眺めてみよう。

 と、今後の指針が定まったところで、ふと、立ち止まる。

路地の家々の隙間から、なにか音楽と、大きな声が聞こえた。

 もう灯も落ちてきた時間帯だというのに、何か催し物でもやっているのだろうか。

 なんとなく気になって、僕は、その音楽が聞こえる方へと歩を進めた。


「うわっ!?」


 開けた場所に出た瞬間、思わずそんな声が漏れた。

 そこは、街の入り口にある石畳の広場だった。

 普段からそれなりの人が往来する場所ではあるが、今はその密度が少々異常だった。

 見渡す限りの人、人、人。

 目測で、千人以上はいるのではないかという人々が、皆同じ方向を向いて、腕を振り上げ、嬌声を上げていた。

 視線の先を見ると、広場の奥には、なにやらステージのようなものが設置され、その上では……。


「うわぁ……」


 今度のそれは感嘆だった。

 ステージの中央、そこに立っていたのは、びっくりするくらい美しい女の子だった。

 桃色の腰まで届く長い髪に、白磁のように白い肌。

 ステージの後ろに設置された巨大な映像水晶(パルスフィア)には、その顔立ちがアップで投影されており、額にキラキラと汗を浮かべながらも、満面の笑みを浮かべる姿がはっきりと見て取れる。

 身に纏うのは、光を反射するような素材でできたフリフリな衣装。短いスカートからは、細く、しなやかな脚が惜しげもなく露出している。

 そういえば、酒場なんかで、噂を耳にしたことがある。

 最近、街で人気が急上昇している"アイドル"という存在がいることを。


「じゃあ、最後の曲、いくわよ!! みんな"(ハート)で"聴いてね!」


 そして、響き渡る音楽。

 同時に、ステージの上の彼女は、人間ってこんなに楽しそうに笑えるのか、というほど完璧な笑顔で、踊り、歌を歌う。

 冒険者として、それなりに鍛えている僕ではあるけど、あんなに激しくダンスを踊りながら、圧倒的な声量で歌を歌い続ける姿には、素直に驚嘆せざるを得ない。

 生で、こういうのを見たのは、初めてだったが、ここまで凄いとは……。

 結局、僕は、その"アイドル"のステージを、最後の最後まで、道の端に立って、眺めていた。

 やがて、曲が終わり、彼女は大きく手を振りながら、ステージの奥へと姿を消す。

 パフォーマンスが終了し、それまで並々ならぬ熱量を持って、声を張り上げていた人々も、徐々にちりじりになっていく中、僕は独り言ちた。


「いやぁ、凄いもんだなぁ」


 アイドルという存在が、この街の大きな関心事になっているのは、冒険以外の事には疎い、僕でも知っていた。

 これまで、エンターテインメントと言えば、冒険者のダンジョン攻略動画なんかが主だった映像水晶(パルスフィア)での放送に、近年、頭角を現してきたのが、見目麗しいアイドル達によるライブパフォーマンスだった。

 最近では、Sランクの冒険者による攻略動画よりも、視聴率を稼げることもあるなんて話も聞く。

 確かに、今のを生で見てしまっては、それだけの影響力があるのも頷ける。

 いやはや、華々しい世界もあるもんだ。片や、その対抗馬であるSランクパーティーから追放された身としては、感心するとともに、ジャンルは違えど、一抹の嫉妬は禁じ得ない。

 こうやってアイドルのステージを見てみると、"魅せる"というのが、いかに大事なことなのかもわかる。 

 僕も、もう少しは"魅せる"戦い方ができていれば、今のこの状況も変わっていたんだろうか……。

 勇者リオンのように、紅い稲妻を纏う剣で、敵を一掃したり、あるいは、聖女エリゼのように、巨大な魔法陣を展開し、パーティーの仲間を一気に回復させたり。

 いや、やめよう。そんな戦い方、精霊術士である僕には、望むべくもないことだ。


「まあ、僕らは僕ららしくやるさ。なっ」


 同意を促すように語り掛けると、ふわりとまた、頬を風が通り過ぎた。

 さて、とりあえず、今日は早く休もう。

 気持ちを切り替えるように、心の中で、よし、とつぶやくと、僕は、安宿を探して、歩き出したのだった。

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